第11話 戦技適性
リュースはひたすら斬撃を繰り返す。
立ち回りは基本的な型に忠実で、防御主体だった。
反撃に適した構えを軸に攻め立てている。
対するアイニスは素手による格闘で応じていた。
積極的な攻撃は控えて、一撃ごとに寸止めをしている。
そのたびにリュースの敗北が重なっていた。
アドバイスを挟みながら行われる鍛練は、傍目にも実戦的で有益なものだ。
(あの女はリュースを強くしたいのか?)
アイニスはただの傭兵ではない。
指導は的確で、明らかに戦い慣れている。
我流に近い拳法のようだが、極めて高い水準まで研磨された技術であるのは一目瞭然だった。
そんな人物が勇者のリュースに接触し、彼を鍛え直している。
素性は不明だが、少なくとも敵ではないようだ。
「大振りな上に遅いね。もう少し当てられるように意識しようか」
「は、はいっ」
二人の訓練は白熱していた。
リュースはすっかり集中して、懸命に強くなろうと精進する。
まだ半人前にも満たない実力だが、彼は勇者の名に恥じぬ領域に立とうと努力していた。
その時、リュースが大きく吹き飛んだ。
アイニスの掌底が腹に炸裂し、耐え切れずに浮いてしまったのだ。
地面に落下したリュースは顔を顰めて唸る。
苦しそうだが大した傷ではない。
アイニスが手加減したのは見えていた。
すぐに起き上がれるようになるはずである。
アイニスはリュースのそばに立つと、構えを解いて総評する。
「剣術も初心者並みだけど、それ以上に問題なのは心意気ね。リュース君、勇者に向いてないよ」
「それは、分かっています。でも……」
「光魔術に目覚めた。だから勇者にならないといけない。そうでしょ?」
アイニスが被せるように言うと、リュースは黙って頷いた。
力不足は本人が一番分かっていることだ。
それでも背負った宿命を果たそうとする姿勢は立派だと思う。
アイニスはリュースを引き起こしながら助言を告げる。
「まずは魔力操作に慣れるといいかもしれないね。君は剣士より魔術師向きだと思うよ。常識に囚われず、独自の強さを目指すべきじゃないかな」
「剣を捨てろということですか?」
「違うよ。剣も一つの武器にすればいいけど、他にも修めると便利ってことさ」
アイニスは自らの装備する短剣と棍棒を指し示した。
彼女の拳法も手段の一つで、他にもいくつかの戦い方を習得しているのだ。
様々な状況に対応できるようにしているらしい。
アイニスはふと視線をずらす。
その方角は私の潜伏する影があった。
彼女と、目が合った。
アイニスは意味深に笑みを覗かせる。
「――世の中、様々な戦法があるからね」
「……?」
リュースは理解できていないが、アイニスは間違いなく勘付いていた。
その後、二人は訓練を切り上げてそれぞれ帰宅する。
一部始終を監視していた私は、アイニスが宿に入ったのを確認してから立ち去った。
(いつから気付かれていたのだろう)
相手は思ったより手練れらしい。
まさか闇魔術で潜伏する私を見つけ出すとは思わなかった。
やはり只者ではない。
身元を調べる必要がありそうだ。




