バーベキューの締めは
ソーセージを焼いて食って、茹での味を堪能するためにあえて焼かずに食って。
焼きすぎて焦がして食って、加熱しすぎて皮が弾けて肉汁がしたたる状態で食って、乾杯して。
ソーセージ以外の肉も食べて、野菜も食べて、おにぎりも食べて……と、そんな風にバーベキューを楽しんでいると、今度はお腹をぷっくりと膨らませたコン君が、よたよたと体を左右に揺らしながらこちらに歩いてきて、何か話したそうにしていたので抱き上げて近くにあったキャンプチェアに座らせてあげてから、自分もその隣に座ってコン君の言葉を待つ。
「……にーちゃん、ソーセージすっごく美味かった!
あんなに美味いのを、自分で作れちゃうなんて今でも信じられないよ!」
「うん、そうだね。
色々道具が必要だったりするけど、一度揃えちゃえば簡単に作れちゃうんだもんね。
ヨーロッパとか中央アジアとか、ソーセージ文化がある国ではもっと色々なお肉使っていて、色々なハーブ使っていて……もっと美味しいソーセージがあるのかもしれないね」
俺がそう返すとコン君は、好奇心でその目を輝かせながら言葉を返してくる。
「もっと美味しのかー!
そうだよなー……お肉にも色々あるもんなー……」
「そうだね、日本で手に入るお肉でも合いびき肉とかもある訳だしね、まだまだ色々試せるかもね」
「でも、保存食には出来ないんだなー」
「……うん、そうだね、前にも説明した通りだけど、食中毒になっちゃうのは怖いからね。
お肉を冷凍保存しておいて、食べたい時に作ってすぐ食べる、日本でのソーセージで出来るのはそれが限界だろうね。
お店で売っているソーセージはどれも冷蔵のもので、それはつまり食品作りと食品衛生のプロでもそこが限界っていうか、常温保存での商品化は難しいと判断したってことだからね……プロが出来ないとなると、素人には難しいんだろうね」
「なるほどー、そっかー……。
保存食にはできないのかー……」
「うん、そうだね……あ、ソーセージをそのままじゃなくて輪切りにして、缶詰にするとかは出来るかな?
そういう缶詰食べたことあるしねー……味は落ちるだろうけど、うん、保存は出来るかな」
と、俺がそう返すとコン君は「へー……」と返してからフリーズする。
フリーズして動きを止めたまま何か思い出さなければいけないことがあるような、何か忘れていることがあるようなそんな顔をしてから「あっ!」と声を上げて、我が家の方へとと……台所の方へと視線をやる。
「忘れてた! 缶詰があったんだ!」
台所の方を見やってからそう声を上げたコン君は、こちらへと向き直りいつもの笑顔になって嬉しさを精一杯に表現する。
「うん、あるよ、缶詰キット。
お魚でもお肉でもソーセージでも、なんならパンまで缶詰にできちゃうからね……まぁ、パンは素人が美味しく作るのは無理なんだろうけど、それでも作ることは出来るだろうね」
「はー、そうだったそうだった。
缶詰あったの忘れてた……缶詰も美味しくできるのかなー、ソーセージみたいに美味しいのかなー……」
俺の言葉にそう返してきたコン君は、缶詰について考えているのか、空を見上げてぼんやりとし続ける。
「んー……缶詰は缶詰だからね、保存性が優先っていうか、普通の料理に負ける部分はあるし、必ずしも美味しくなる訳じゃないんだけど、工夫次第かな?
サバの味噌煮とかは缶詰でも美味しいのはたくさんあるからね」
そう俺が声をかけても「はー……」「へー……」と返してくるばかりで、心ここにあらずという感じだ。
ソーセージ作りやその後の片付けをあれこれ手伝ってくれて疲れているんだろうし、お腹もいっぱいで眠くなってきているんだろうし、ぼんやりしてしまうのも仕方のないことだろうと特に気にせず、コン君の邪魔にならないようにと静かにしていると……しばらくの間あれこれと考えていたコン君が声を上げる。
「オレ、焼鳥の缶詰好きかも! あとフルーツ缶詰!!」
どうやらコン君はぼんやりとしながら好きな缶詰を考えていたらしく……俺は笑いながら言葉を返す。
「焼鳥なら……うん、美味しく作れるかな?
フルーツはまぁ……作ったことないけども頑張れば出来るはず? 美味しくなるかどうかは……正直やってみないと分からないかな。
……でもまぁ、そうだね、今度時間のある時に頑張ってみよっか」
「うん! ミカンとかモモとかーパインとかー、色々作りたい!!」
そう元気に返事をしたコン君は、しばらくの間ニコニコとしてから……急に小さな耳をピコンと立てて、全身の毛を逆立たせて……物凄い勢いで椅子から飛び降り、テテテッと家の中の……トイレの方へと駆けていく。
それから少しの間があって、水音とかがしてきて……手をしっかり洗い、その手というか毛についた水気をポケットタオルでしっかりと拭きながらコン君がこちらへと戻ってくる。
そのお腹は少し前とは違って膨らんでいなくて、すっきりとした元通りの体格に戻っていて……俺が「消化早いな!?」と驚く中、コン君はもう一度ごちそうにありつくためか、バーベキューグリルの方へと向かっていく。
と、そこに今度はコン君のお母さんが現れて、逃げようとするコン君の先を読んだお母さんは、完璧なレベルでの先回りに成功し……コン君のことを両手でしっかりと捕まえて、こちらへと連行してくる。
そうして俺の隣のキャンプチェアに座らせられたコン君は、しょんぼりと項垂れ、耳も尻尾もしんなりとさせて……その姿を見たお母さんは、仕方ないわねと言わんばかりのため息を吐き出してから……バーベキューグリルの鉄板の一部を借りて、そこでキャベツや玉ネギ、ニンジンなんかをトングでもって器用に炒めていく。
炒めたなら牛肉の良い所をほんの少しだけそれに混ぜて、バーベキューソースを軽く絡めて、そうやって野菜多めの野菜炒めをさっと完成させたお母さんは、それをお皿に盛ってコン君の下に持ってきてくれる。
「今日はもう食べすぎだからこれで最後になさい。
これで最後なんだからゆっくり噛んで味わって食べなさいよ。
またどうしてもソーセージが食べたくなったら、お母さんが頑張って作ってあげるから、今日はもうこれでおしまい、ね?」
そう言ってお母さんはお皿をコン君の目の前へと差し出して……コン君は美味しそうな匂いと見た目にやられてしまったのだろう、こくんと頷いてお皿を受け取り、お母さんが持ってきてくれた箸を受け取り、野菜炒めをゆっくり、言われた通りに味わって食べていく。
美味しそうに一生懸命に口を動かしてもくもくと。
そんな風に食べていくコン君の姿がなんとも可愛くて、何も言わずにその姿を眺めていると……何か勘違いさせてしまったのか、コン君のお母さんがコン君と同じものを作ってくれて、俺にどうぞと手渡してくる。
そうやって作ってくれたのにまさか勘違いですとも言えず、笑顔でそれを受け取った俺は、コン君と一緒に締めの野菜炒めとしゃれこむのだった。
お読み頂きありがとうございました。




