あるれいとの会話
一言解説。
栗柄あるれい 通称レイさん、テチさんの実の兄で当然リス獣人。
翌日。
ソーセージキットの注文を済ませて、家事を済ませて……居間でお茶を飲んで休憩しながら、さて、そろそろテチさん達がいる畑に向かおうかな? なんてことを考えていると、車が走ってくる音がして……レイさんの配達車が我が家の庭へとやってくる。
それからすぐにエンジンが止まり、ドアが開き……レイさんが降りてきて縁側に腰掛けながら声をかけてくる。
「よ! テチとは上手くやってるか?」
「はい、仲良く喧嘩することなく、笑顔で毎日を過ごしていますよ、お義兄さん」
これまではテチさんのお兄さんで、この森で出来た数少ない知り合いの一人だった訳だけども……お互いの両親への挨拶が終わった今はもう身内と言って良い存在な訳で、俺がそんな風に声を返すと、レイさんは笑顔になりながら言葉を返してくる。
「おう、それで良いそれで良い。素直な義弟を持ててオレも嬉しいぜ。
……で、だ。リフォームの件なんけど、やっぱり難しいみたいだな」
この家をリフォームしようとなったのだけども、どうにもこちら側には大工や建設業として商売をしている人達はいても、リフォーム専門という形で商売をしている人達はいないんだそうで……ならばと大工の知り合いが居るというレイさんに、リフォームをしてもらえるかどうかの相談してもらっていたのだけど……この様子だとどうやら断られてしまったらしい。
……と、そんなことを俺が考えていると、レイさんは笑顔のまま予想とは少し違う言葉を続けてくる。
「こっちではリフォームするくらいなら建て替えるってのが当たり前だからなぁ。
テレビとかでリフォームのことは知ってるし、なんとなくやることは分かっているんだが、経験も知識もないそうでな……すぐには返事が出来ないらしい。
出来るのかどうか検討してみて、この家を見にきてみて……それから見積もりを出させて欲しいって言ってたぞ」
「え、あれ? 難しいなんてことを言うから断られたのかと思いましたけど……一応見積もりまではしてくれるんですね」
俺がそう返すとレイさんは、笑顔を弾けさせながら言葉を返してくる。
「そりゃぁな。
もし断ったらお前、門の向こうの連中に依頼しちまうだろ?
とかてち達が得する形で契約してくれて、更に牛乳なんかもしっかり取ってくれて、向こうの連中が事件を起こしても変に庇ったり贔屓したりしないでしっかりとした対応をしてくれて。
子供達にあれこれあげたり、とかてちと良い関係になったり……こっちに馴染もうと努力してるお前の依頼を断って、お前が門の向こうの連中に頼りましたなんてことになったら名折れも良い所だからなぁ、出来るだけ前向きに検討してくれるってよ。
……ただまぁ、プロとして出来るかどうか分からないことを出来るとは言えないから、しっかりとプランを練ってから見積もりを出すことになるってさ」
「いや……まぁ、最悪の場合自分でなんとかしようと考えていたんで、門の向こうに依頼しようとまでは考えていませんでしたけど……。
それにしても、こう……思っていたよりも森の中の人達の俺に対する好感度、高いんですね? 畑で働いている子供達のご両親ならまだ分かるんですけど……大工さんってまた別の獣人さんなんですよね? 確か狐とかなんとか……」
「実椋は人間だからな、良い顔をしない連中も確かにいるが……だけどまぁ、馴染もうと頑張ってるやつの頑張りを理由も無く無視するような連中は人種に関係なく少数派だよ。
お前もある程度自重しているっていうか、買い物以外では森の奥に入ろうとしないだろ?
そのおかげでトラブルらしいトラブルも起きていないしな……それでいて結構な買い物をしてくれるからって、スーパーなんかはもっと来て欲しいって実椋のことをありがたがってるらしいしなぁ。
ああ、勿論オレとしてもお前の存在はありがたいと思ってるよ。
お前……何日か前に子供達にジャムを配っただろ? あれのおかげでなー、うちで出してるフルーツ系のデザートがよく売れてくれてなー。
こう、果物を砂糖で煮込んだ、コンポートってのをパイ生地で包んだやつなんだけどな、ジャムクラッカーみたいで美味しいって、子供達がどんどん買ってくれるんだよ。
売れ始めてからまだ二日くらいのもんだけどな……それでも良い稼ぎになってくれててな、全くありがたいったらないよ」
売れ始めて二日。
確かジャムクラッカーを子供達にごちそうしたのが三日前で……その後すぐにレイさんのお店に行ったってことか。
レイさんのお店ではイチゴとかブルーベリーとかさくらんぼとか、桃のコンポートなんかもパイ包みにして売っているそうで……当然それらはレイさんによる手作りのものとなる。
プロによるしっかりと砂糖の量とかを計量してのそれらは当然俺のざっくり計量ジャムよりも美味しいはずで……なるほど、素人手作りのジャムをきっかけに、ジャムの美味しさに目覚めた子供達が、それと似たような、あるいはそれ以上の味を求めてプロのお店へと足繁く通っているということか。
「いっそのこと瓶詰めコンポートでも売ってやろうかと思ったんだが、そこら辺を売るとなるとまた別の許可がいるらしくてな……しょうがないからコンポート系のお菓子を何種類も作ることにしているよ。
ジャムもコンポートも砂糖で煮て作るっていう、似たような代物だからな……うん、本当にありがたく思ってるよ。
中には実椋にーちゃんのジャムのが美味しーなんて生意気なこと言っちゃうお子様もいたりするが……うん、売上が上がっている今なら、そんな言葉でも許せちゃうね」
そう言ってレイさんは笑顔をこれでもかと輝かせる。
多少棘があったというか、俺が作ったジャムに思う所があるような気配がしたけども……うん、どうやらそれも好調な売上のおかげで許されたようだ。
「えーっと、じゃあその大工さんに、急ぎませんからゆっくりプランニングしてくださいって伝えてください。
見積もりのために家を見に来るのも、事前に連絡があれば歓迎しますので、よろしくお願いします」
「あいよ、そう伝えておくよ。
……ああ、そうだ、それともう一つ確認というか、伝言なんだが……実椋の趣味が保存食作りって知って、興味持ってるやつがいるんだけど、今度そいつのことを連れてきても良いか?
狸の獣人で男で……俺と同い年で、まぁうん、真面目で良いやつなのは確かだよ」
レイさんにそう言われて俺は目を見開く。
まさか俺と同じ趣味を持った人がいたとは、それで俺に興味を持ってくれる人がいたとは……!
テチさんは理解を示してくれているし、コン君も興味を持って手伝ってはくれているけど、二人共どちらかというと食欲がメインって感じだからなぁ。
純粋に興味を持ってくれている、同好の士と知り合えるというのはとてもありがたい。
レイさんがわざわざ紹介してくれるのだから変な人ではないのだろうし……と、そんな事を考えた俺は、笑顔になって「お願いします」とそう言葉を返すのだった。
お読みいただきありがとうございました。




