ソーセージ
コン君とソーセージ作りをするという約束をして……その日の夜。
仕事を終えたテチさんが帰ってきて、着替えや夕食や風呂などを終わらせての……寝る前のちょっとした時間。
居間に座布団を敷いてその上にパジャマ姿でだらっと座って、睡眠が深くなるというハーブティーを飲みながらその日あったことなどを話すその時間で俺は、ソーセージ作りの話をテチさんに振る。
するとテチさんは話が終わるまで静かに聞き入ってくれて……そして話が終わると半目になって言葉を返してくる。
「……いや、良いんだけどな、通帳見たら思ったよりもしっかりと貯金をしていたし、缶詰キットよりは安いんだろう?
ならまぁ、良いんだけども……いくら買えるからってあれこれ買い込み過ぎないようにな?
家中荷物だらけになってもな、困るしな? これからリフォームしようなんて考えてるんだから尚更のこと、荷物は増やさないようにしろよ」
「……ああ、うん、はい、気をつけます……はい」
全くの正論で返す言葉もなくて、少し肩を落としながらそう返すとテチさんはやれやれと首を左右に振ってから言葉を返してくる。
「分かっているなら良いさ。
ところで……だ、その手作りソーセージとやらは美味しいものなのか?」
「え? うん、そうだね。
保存性とか量産性とかを無視出来る分、普通に売っているよりも美味しく作れると思うよ。
うちにはテチさんが以前獲ってきてくれたイノシシ肉がまだまだ残っているし、それを使えば……そうだな、軟骨入りイノシシソーセージとかジューシーでコリコリ食感がたまらなくて美味しくなるんじゃないかな」
「軟骨入り」
「うん、軟骨入り。
後は……ブロック状に刻んだチーズ入れたりとか?」
「チーズ」
「ハーブとかコショウ、唐辛子を入れてチリソーセージとかも王道で良いけど、どうせなら色々具を入れてみるのも良いかもね。
刻みキャベツを入れて餃子風とか、玉ねぎとかを入れて甘くしたりとか、細かく刻んだタケノコを入れたりしても良いよね」
「キャベツ、玉ねぎ、タケノコ」
どういう訳かただ俺が言葉にした食材を繰り返すだけのテチさん。
その顔は今までにない真顔で、その瞳をギラリと輝かせていて……その輝きには今までにない力が込められているように感じる。
「あ、味付けを色々凝るのも良いよね。
お出汁を入れて和風にするとか、カレー粉入れちゃうとか……コンソメ風とかトマトソース風は好みならって感じだけど悪くはないよね」
「……お出汁にカレー粉……」
「う、うん。
後は……そうだな、皮を色々変えてみるとか?
羊の腸を使うのが基本だけど、人工の代用品もあって、厚めのやつにするとパリッじゃなくてバリッって食感が楽しめたりとか……。
牛とか豚の腸を使うと大きなソーセージに出来るらしいんだけど、そこら辺は中々手に入らないのがネックかな。
塩漬けにしたのを輸入して、洗って殺菌して再度塩漬けにして、脱水して……そこまでしなきゃいけない程に衛生管理が難しい代物らしいから、素人が羊以外を使うなら人工のやつが一番なんだろうね」
「ほう……そうか、食感が変わるのか……そうか」
そう言ってテチさんはその鋭い眼光を縁側の方へと……真っ暗闇に包まれる庭の方へと向ける。
そちらからは梅雨特有のじっとりとした空気が漂ってきていて……ついでにびっくりする程に五月蝿い虫達の声も響いてきている。
子供の頃に慣れたのか何なのか、俺は全く気にせず眠れるんだけど、不慣れな人がこの声の中で寝ようと思ったら相当に苦労するんじゃないかってくらいに、虫達の声は五月蝿くて……更にフクロウと思われる声や、獣達の声や時たまイノシシだとかが何かと争っているような鳴き声も聞こえてきて……昼間の子供達だらけの畑の方が静かなんじゃないかと思ってしまう。
と、そんなことを俺が考えていると、じぃっと庭の方を見つめ続けたテチさんは、その状態のまま声をかけてくる。
「鹿」
「う、うん? 鹿がどうしたの?」
「いや……最近食べていないが鹿も中々美味しいことを思い出してな……。
以前実椋のお父さんが言っていたように、あれはあれでクセになる味で、中々ソーセージ向きなんじゃないかと思ってな。
熊は……臭いが、しかしあれはあれでどんなソーセージになるか気になる所だな」
「……そ、そんなことを考えていたのか。
ま、まぁ、うん、キットが届いてお肉があれば作ってみるけども、美味しくなる保証は無いよ?
っていうかテチさん、キットが届く前からすっかりとソーセージにハマっているね……?」
「……実椋が美味しそうに話すから悪いんだ、私は悪くない。
……いつ届くかは知らないが、届いたらしっかりと作ってもらうぞ……。
キットとやらはそこまで高くないものなんだろう?」
「うん、そうだね。
変に拘れば凄く高いのもあるんだけど、お手軽なのだったら1万円はしないはずだよ。
羊の腸もそこまで高いものじゃないからね、材料に使うお肉の方が高くつくんじゃないかな」
「そうか……ならやはり、肉は狩ってくるしかないな。
熊の獣人達が言うには、最近になって野生の獣が増えすぎているようだからな……たくさん狩ってたくさん食べて、こっちにやってこないようにしないとな」
「あー……そうなんだ?
門の向こうでも街に降りてきたりして問題になっていたけど、こっちでもそういうのがあるんだねぇ」
「増えすぎて飢えれば当然餌のある人家にやってきてしまうな。
イノシシや熊に冷蔵庫を漁られたなんてのはよく聞く話だ。
前にも言ったが、それを嫌がって富保は周囲に獣避けの薬剤を撒いていたんだ。
……ああ、そうだ、薬剤もまた新しいのを買って撒いておいた方が良いかもな、以前イノシシがやってきたりもしたし、この近くでイノシシを狩ることに何度も成功してしまっているし……効能が消えてしまっているのかもしれん。
少し高くつくものだが、一度家の中に入られるとそれ以上の被害が出てしまうからな、惜しんでも仕方ないだろう。
獣避けの薬剤を撒いてついでに何匹か狩っておけば、当分は静かになるはずだ。
狩った肉は全部倉庫の方の冷蔵庫や冷凍庫に入れておいて……実椋の手で美味しい料理にしてもらうとするか」
そう言ってテチさんはようやく視線を居間の中へと戻し、ちゃぶ台の上のハーブティーへと手を伸ばし……ゆっくりとすすり、そしてお腹を「ぐー」と鳴らす。
ソーセージの話をしたからか、お肉の話をしたからか。
その味を想像してしまったからか……お腹が空いてしまったらしいテチさんは、何かを言いたげに俺の方を見てくるが、流石にこの時間に何かを食べるのはまずいと、俺は顔を左右に振る。
そうしてからテチさんのカップにおかわりのハーブティーを注いだ俺は……これで我慢してくださいとばかりの笑顔をテチさんに向けて、テチさんは渋々頷いて、ハーブティーがなみなみと注がれたカップへと口をつけるのだった。
お読みいただきありがとうございました。




