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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第三章 イチゴジャム、ソーセージ、缶詰、そして兵糧丸

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ジャム作りを終えて……


 イチゴジャムを食べさせた子供達を、以前のように迎えに来た親御さん達に引き渡して……翌日もまたイチゴジャム作りに勤しんで、翌々日。


 俺はまたも買い出しに出てのイチゴジャム作りに励んでいた。


 どうしてまたもイチゴジャム作りをしているかと言えば、それはあの日にジャムを食べられなかった……出勤していなかった子供達もイチゴジャムを食べたがったからで、更に一度食べた子達がまた食べたいと、むしろ瓶ごと売って欲しいと言い出したからで……そうした要望を受けて、追加のイチゴジャムを作ることになったのだ。


 親御さん達は手間賃を払うとかなんとか言ってくれたけども、商売にするとなると保健所の検査を受けるとか色々なことが必要になる訳で……受け取るお金はあくまで材料費のみ、食べて何かあっても自己責任、保存期間に関してもいついつまでという保証は出来ないので出来るだけ早めに食べる、という条件付きでということになった。


 中にはレシピを欲しがった親御さんもいたけども……レシピも何も砂糖とレモン汁を淹れて煮込むだけで、砂糖の量もレモン汁もなんとなく、アバウトにこんな感じという感覚的なもので……そんな作り方ではレシピの作りようがなく、そちらに関しては勘弁してもらった。




 そうしてまたも一日かけてのイチゴジャム作りをしていって……全ての作業が終わって夕方前。


 瓶詰めと脱気を終えたイチゴジャムを冷蔵庫の中にしまった俺は、使った鍋やら何やらを洗っての後片付けを行っていく。


「流石にイチゴの匂いはそろそろ飽きたかな!」


 洗い物をしていく中で、いつもの椅子に座ったコン君がそう言ってきて……同じく飽きが来つつある俺は鍋を傷つけないように、それでいて汚れが残らないように丁寧に洗いながら言葉を返す。


「俺もだねー……イチゴにはまだまだ色々な保存食があるけど、それはまた来年かな」


「まだあるの!? ジャム以外に!?」


 俺の言葉がよほど衝撃的だったのか、クワリと目を見開きながらコン君がそんな声を上げて……俺は作業の方に意識を向けながら言葉を返す。


「あるよー、たくさんあるよー。

 例えばドライフルーツにするとか、シンプルに凍らせるとか、シロップにするとか。

 後はまぁお酒にするなんて方法もあるし……イチゴバターなんてのも悪くないね。

 イチゴバターは市販のものとそう変わらない味になるけど、それでも手作りなら香りが強くなるから悪くないね」


「そんなに!?

 い、色々あるんだなー」


「まー……でも、イチゴジャムがこれだけあれば存分にイチゴを楽しめるし、他のはまた来年になるかな」


「んー、確かになー。

 お酒は飲めないし、バターよりもイチゴジャムの方が美味しそうだしなー」


 なんて感想を口にし、足をプラプラと揺らし……揺らしながらもじもじと、何か言いたげな様子を見せ始めたコン君に対し……とりあえず鍋を洗い終えた俺は、それを乾燥カゴに移動させながら声をかける。


「お酒は駄目だからね」


 するとコン君は全力で首を左右にブンブンと振って、十分過ぎる程に振ってから言葉を返してくる。


「違う違う違う違う!

 そーじゃなくてー、そろそろその……お肉も食べたいなって!」


「お肉」


「うん、前もほらマーマレードの時にお肉料理作ってくれたじゃん!」


「あー……でも、イチゴジャムはお肉料理には向かないからなー。

 マーマレードのようにはいかないかなー」


「じゃー、他に何か無いの? なんかこう、美味しいお肉の保存食」


「美味しいお肉か……保存食って訳じゃないんだけども、作ってみたいと思っているのはあるかな。

 オリジナルのハーブソーセージなんだけどね」


「ソーセージ!!

 ……ってあれ? でもソーセージって保存食じゃないの? 映画とかで旅に持っていったり、壁とかにかけてあったりもしたよ?」


 そんなコン君の言葉を受けて「あー……」と言葉を返した俺は……少し悩んでからソーセージの話をし始める。


「よく知っているねー。

 確かに海外では保存食なんだよね、映画とかにもよく出てくる壁掛けソーセージって感じでね。

 でも日本では保存食っていう感じはなくて、市販のものも要冷蔵、冷凍のものが多いんだよね。

 なんでそうなっているかというと……ソーセージ自体は海外で昔から、1000年前以上から食べられていたんだけど、少なくない確率で食中毒になっちゃうものでもあってね。

 一体何が原因で食中毒になるかが分かったのは、ごく最近のことなんだよ。

 その原因となるばい菌の名前はボツリヌス菌……ラテン語でソーセージって意味のボトゥルスって言葉から名前を付けられた菌なんだ。

 それが危険ってことで、日本では少し前までとっても厳しい法規制があったんだよね―――」


 1000年以上前から今まで食べられているだけあって、全てのソーセージがボツリヌス中毒になる訳じゃない。

 作る際に清潔にし、塩を入れるなど製法をしっかり守り、100℃以上で1~2分加熱したらボツリヌス菌を不活化することが出来て、食中毒にはならないとされている。


 だけれども加熱が甘いとか製法に問題があるとかするとたちまち食中毒になってしまう訳で……海外はともかくとして、少なくともこの国では保存食という扱いはされていない……と、俺は思う。


 ソーセージの中には空気乾燥や、発酵させることで保存食とするものもあるのだけど、そこら辺は高温多湿のこの国には相性が悪いというかなんというか……まぁ、うん、ボツリヌス菌のことが無かったとしても、かなりの確率で腐ってしまうことだろう。


 何処かの大学が乳酸菌発酵でソーセージを作ろうと研究しているらしいけど、ソーセージに合った、ソーセージを美味しくしてくれる良い乳酸菌が見つからないとかなんとかで、結構苦戦しているようだ。


 いずれはそういったソーセージがスーパーに並ぶのかもしれないけども……今の所はしっかり加熱、要冷蔵の保存食とはまた違ったイメージの……あくまで加工食品、といった扱いだろう。


「―――まぁ、うん、そんな感じでこの国では保存食という感じではないんだけども。

 作ったものを日数をおかずに、しっかり加熱して食べるのなら、安全に食べられるものではあるんだよ。

 色々なお肉を組み合わせてたっぷり旨味と食感を楽しむもよし、ハーブの香りを楽しむもよし、燻製にしてチップの香りを楽しむもよし。

 保存はしないんだけども、保存食気分で、昔の人はこんな感じで食べていたのかなーなんて感じで、思いを馳せるのも悪くないかなって、そんなことをここ数日、イチゴジャムを作りながら考えていたんだよね」


 そんな言葉で説明を終えると、一生懸命に話を聞いていたコン君は……今の話を飲み込んで懸命に理解しようと務めて……同時にソーセージの味を想像してしまったのか、タラリとその口からよだれを垂らしてしまう。


 すぐ側にあった手ぬぐいでもって俺がそれを拭ってあげるとコン君は、照れ笑いを浮かべながらもキュルルとお腹を鳴らすことで、ソーセージを食べたいと訴えかけてきて……それを受けて俺は、


「なら今度作ろっか」


 と声をかける。

 

 するとコン君はいつもの、目をつぶっての笑顔を見せてきて……そうして俺は以前注文した、入荷待ち状態の缶詰キットに続いてソーセージ用のキットも買っちゃうことを決意するのだった。


お読みいただきありがとうございました。


ソーセージの安全性については、多種多様の材料、無数の製法、気候条件などなど、色々な条件に左右される上に法規制もちょこちょこ変わったりしていて、細かく語るとキリがないので

あくまで主人公、実椋がそう思っている、そう理解しているものだと思ってください。


あしからずご容赦いただければと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] イチゴジャム祭りは終わりか 次回から梅仕事かとおもったらソーセージ 肉食系だらけだものうけるな [気になる点] テチさんの出番がない [一言] ソーセージ ケーシングは羊豚でしょか いっそ…
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