ジャムの作り方を再確認
我が家に到着したなら、車を縁側近くに停めて、コン君をチャイルドシートから解放してから大量のダンボールを下ろして縁側に並べていく。
それが終わったなら手洗いうがいをし、早速作業開始だと腕まくりをし、エプロンを身につけ……台所のテーブルにダンボールを可能なだけ並べる。
並べたならイチゴのパックに被せてあるビニールを剥ぎ取っていって……大きなプラスチック製の洗い桶を流し台に用意し、イチゴを洗うための準備をしていく。
「なーなー、ミクラにーちゃん。
かーちゃんはイチゴを洗うとき、塩をたっぷり溶かした塩水を用意してたけど、にーちゃんは用意しないのか?」
するといつもの席についたコン君がそう言ってきて……俺は「あー……」と声を上げて、少し悩んでから言葉を返す。
「それに関しては何て言うか……微妙な所なんだよねぇ。
塩水が良いと言う人も、悪いと言う人もいて、正直な所どっちが正解かよく分かんないんだよね。
農家の人とかに聞いても答えはまちまちだし……まぁ、うん、俺個人としては水でよく洗えばそれで十分だと思っているよ。
まー、ジャムに関しては念入りに火を通す訳だし、よほどのことがなければ身体に悪いとかはないはずさ。
イチゴの表面に塩分が残っちゃうと、ジャムの味に影響しちゃうかもしれないしね」
「へー……なるほどなー。
ヘタはどうするんだ?」
「ヘタもどのタイミングで取るのが良いのか色々あるみたいなんだけど、俺は洗いながら取ることにしているかな。
まぁ、そこら辺は見ていれば分かると思うよ」
と、そう言って俺は洗い桶に水を溜めて、水が溜まったならイチゴを中に入れていく。
パックを掴んでは入れて、パックを掴んでは入れて……中身が無くなったパックはプラスチックゴミ袋へ。
そうして洗い桶が一杯になったなら、蛇口からチョロチョロと水を出したままにし、イチゴを潰してしまわないように、洗い桶の中をゆっくりとかき混ぜていって……ある程度かき混ぜたなら、ジャム用のホーロー鍋を用意し……桶の中のイチゴをつまみ上げ、ヘタを取り、ヘタを取ったならもう一度桶の中に入れてヘタの辺りを丁寧に洗って、鍋に入れる。
後はこれを桶の中のイチゴが無くなるまで繰り返し……鍋の中をイチゴでいっぱいにしていく。
……後は以前やった通りだ。
大量の砂糖を入れて焦がさないように気をつけながら煮込み、煮立ったなら少しのレモン汁を入れたらまた煮込む。
焦げ付かないように木ベラでもって定期的にかき混ぜてやって……アクのようなものが出てくるけども、自分は取らないことにしている。
これも取る取らないは諸説ある感じなのだけども、取らないと味が落ちるとかエグみが出るとか、そういったことはないので気にしなくて良いはずだ。
出来上がったジャムを水に垂らすジャムテストなんてものもあるらしいのだけど……これも俺はやったことはない。
水分が無くなるまで煮込んで程よくジャムっぽくなったら味見をして、問題なければそれで良し、後は消毒しておいた保存瓶に瓶詰め、瓶ごとの煮沸消毒、脱気の流れだ。
脱気のやり方も、保存瓶を煮沸して膨張した瓶の中の空気を蓋を一瞬開けることでシュッと抜く方法が主流だと思うのだけど、たまにレシピ本なんかでビンを逆さまにしておけば良いなんてものを見かけるものがあって……一体アレでどう空気が抜けているのかと首を傾げてしまうが……他の方法と同様、諸説あるということなのだろう。
科学的にどうこうとか、詳しいことは知らないが……とりあえず俺はあの空気が抜けるシュッという音がジャム作り完了の合図に思えて大好きなので、その方法でやることにしている。
それぞれの作業に様々な方法があるのは、そこまで難しくはないし、時間さえあれば出来るものだから、各家庭それぞれのやり方が発展したってことなんだろうか?
……まぁ、うん、そんな風に頭の中で改めてジャム作りの流れを再確認した俺は、大量のイチゴと大量の砂糖と木ベラが入った鍋を両手でしっかりと掴み上げ、コン君に声をかける。
「ま、とりあえずは居間に移動するとしようか。
今日は量も多いからね……テレビを見ながらゆっくり煮詰めていこう。
量が量だけにいくらかのイチゴは明日に回すことになるかもだけど……うん、テチさんが協力してくれているおかげで時間の余裕はたっぷりとあるからね、焦る必要はないさ」
するとコン君は「はーい!」と元気な声を上げて椅子から立ち上がり、流し台から床へと、引き出しの取っ手なんかを経由しながら、ピョンピョンと軽快に跳ね降りていく。
そうしたなら居間へとテテテッと駆けていって……自分の分と俺の分の座布団を用意してくれて、リモコンでテレビのスイッチを入れて……自分好みの子供番組へとチャンネルを合わせる。
まぁ、うん、子供番組も大人になってから改めて見ると興味深いっていうか、普通に楽しめる内容だったりするので文句はない。
楽しそうにテレビを眺めているコン君を眺めるのも中々どうして悪くない時間だったりするからね。
「座布団、用意してくれてありがとう。
……あ、コン君、お菓子棚から好きなお菓子を一袋だけ持ってきて良いよ。
今日はお茶とか淹れる余裕もないだろうし、ジュースも1本だけなら良いよ」
ちゃぶ台の上に置いておいたカセットコンロの上に鍋を置きながら俺がそう言うと、コン君はその目をギラリと輝かせ、耳をピクピクと反応させてから……ダダダッと凄まじい勢いで台所へと駆けていく。
そうしてからガサゴソと音を響かせてきて……大量のお菓子が保管されている棚からチョコチップクッキーを選び取って、台所隅に置いてあるいくつかのダンボールの中からレモンソーダを選び取って……コン君の小さな身体では一度では持って来られないので、居間と台所を何度か往復する形で持ってくる。
チョコチップクッキーは約束通りに一袋、レモンソーダは俺の分と自分の分で二本、更に自分用の小さめのコップも持ってきていて……俺はレモンソーダを手に取りながら改めて「ありがとう」とお礼の言葉を口にする。
「どういたしまして!」
するとコン君はそう言って、目をぎゅっとつむってのいつもの顔になって……そうしてからレモンソーダ入りのペットボトルを少しだけ申し訳無さそうにしながらこちらに差し出してくる。
コン君の小さな手ではまだペットボトルの蓋を上手く開けられないのだろう、俺は笑顔で頷いてから受け取って、蓋を開けてから……コン君が両手で抱えている小さなコップにレモンソーダを少しだけ注ぎ入れる。
「ありがとう!!」
笑顔で元気にそう言ってくれるコン君。
俺が「どういたしまして」と返すと早速コップに口をつけて……口の中で弾ける炭酸を堪能しながら少しずつ少しずつ、惜しむようにして飲んでいく。
コップを両手で抱えてじっと見つめながら飲んで……でも賑やかな音を鳴らしているテレビの内容も気になるのか、そちらへとちらちらと視線をやったりして。
そんなコン君の様子を眺めながら俺は、コンロに火を付け中火にし……鍋の中から漂ってくるたまらないイチゴの香りと甘い香りを存分に堪能するのだった。
お読みいただきありがとうございました。




