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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第二章 ビスケット、マーマレード、そしてジャーキー

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コン君との雑談


 翌日はほぼ一日かけてのジャーキー作りとなった。


 何しろ種類が多いし数が多いし、広げて焼く関係で一度に焼ける量は限られている。


 更には掃除や洗濯といった家事もしなければならないし、自分の分とコン君の分の食事も用意しなければならないしで、なんとも忙しい一日を過ごすことになった。


 ……そうして全てのジャーキー作りを終えて、保存袋にそれぞれの味ごとに詰め込んでの夕方。


「んー……! このフルーツジャーキー良いなー!

 意外に甘いのが合ってて、どんどん食べれて、良い匂いで、お肉の味もしっかりしててやわらかー!」


 なんてことを言いながらテーブルにちょこんと座ってカリコリとジャーキーを食べるコン君の姿を見やりながら、俺もまた台所のテーブルの椅子に腰掛け、ジャーキーを齧っての休憩時間と洒落込んでいた。


「しかしミクラにーちゃん、いざこうして作ってみると……その、多いよ?」


 休憩時間開始から少し経った頃、一枚目のジャーキーを食べあげて、保存袋の中から二枚目をちょいと両手で掴んだコン君がそんなことを言ってくる。


「ん? ジャーキーが、かい?

 まぁ、多くてもすぐに悪くなるものじゃないし、色々と使いみちはあるから、困るものでもないよ」


 ゆっくりと一枚目のジャーキーを楽しみながらそう返すと、コン君は首を傾げながら言葉を返してくる。


「使いみち? 食べる以外に何かあるのか?」


「いや、まぁ、食べるは食べるんだけど、そのまま食べるんじゃなくて、たとえば細かく刻んでサラダとかに振りかけるとか、ハムやベーコン代わりにパスタ料理に入れるとか、スープ料理に入れても良い出汁が出てくれて、美味しくなるんだよ。

 何しろ旨味がぎゅっと詰まっている訳だからね、塩味をうんと濃い目にして、脂身を多めにしたりすると、お湯に溶かすだけでもう、美味しいスープの出来上がりって訳さ。

 今回は味を薄めにした訳だけど、それでもスープとかに入れれば良い出汁に……旨味の素になってくれるね」


「へー! 美味しいお出汁がでるなんてまるで鰹節だな!」


「あははは、確かに、鰹節もカツオジャーキーみたいなものだからね。

 まぁ鰹節はもっと大変で複雑な工程を経ているから別物と言えば別物なんだけど、使いみちとしてはよく似ているね、サラダの上にふりかけたりとかもね」


「へー、サラダに鰹節を振りかけるのかー……うちでは冷奴とかおひたしにかけてばっかりだなー」


「水菜と大根のサラダとか、じゃこを入れたサラダとか、ワンタンの皮を揚げたのを使ったパリパリサラダとかにもかけるかな?

 大きめの鰹節をかけると美味しくなって良い感じだね」


「……知らないサラダばっかりだ!

 にーちゃんにーちゃん今度作ってよー!」


「ん? まぁ、うん、今度ね。

 どれも簡単に出来る方だから……今度の日曜日にでも作ろっか、日曜日ならコン君もそのためにお仕事を休んだりしなくて良いだろうし」


 俺がそう返すとコン君はいつもの笑顔になって喜んでくれて……そうしてからカリコリとジャーキーを食べ始める。


 食べて食べて、美味しそうに尻尾を揺らして……そうしてから何か思いついたような顔になって、口を開く。


「にーちゃん、鰹節は自分で作らないのか? あれも保存食なんでしょ?」


 その言葉に「あー……」と返した俺は、これは正直言うべきだろうと考えてきっぱりとした言葉を返す。


「無理かな! 鰹節は!」


 するとコン君は驚いたようなきょとんとしたような表情を返してきて、俺はそれに笑いながら言葉を続ける。


「いや、さっきも言ったけど鰹節って本当に複雑で手間暇かかるんだよ。

 作り始めてから完成までたしか……100日とかそれ以上かかるんだったかな?

 それも工場とかで色々な道具とかを揃えての話で、一切道具が無い素人がやったらどれだけ時間と手間がかかるか、分かったもんじゃないのさ。

 そしてそれだけの時間と手間をかけてやるとなるともう、仕事にするレベルだからねぇ……趣味でやることじゃないだろうね。

 上等な美味しいものでもそこまでの値段かけずに買えたりするしね……うん、あれは素人が手を出すもんじゃないかな」


「へぇー……そうなんだなー。

 鰹節ってこう、昔からあるものだから、味噌とかみたいにお家で作れるのかと思ってたよ」


「難しいだろうねー。

 味噌とかも手間がかかるほうだけど……それでも鰹節に比べたらうんと楽な方だろうね。

 あくまで俺はジャムとか燻製とか、そういうのをやっていく感じになるかな。

 ……あー、一度くらいはオリジナル缶詰を作りたいってのもあるかな、今度作ってみるのも悪くないかもね」


 そう俺が言うとコン君は大口を開けての唖然とした顔をする。


 そうしてから台所の棚を見て、棚の上の方に置いてある鰹節の袋と、下の方に置いてある鯖の缶詰のことを見やって、交互に見やって何度も何度も交互に見やってから、俺の方経と視線を戻し、声を荒げてくる。


「いや、無理じゃん! 缶詰のほうが無理じゃん!

 鰹節のほうがまだ簡単そうだよ、鉄とか使ってないもん!!」


 まぁ、うん、そう言いたくなるのも分からないでもない。

 ぱっと見のイメージで缶詰のほうが難しそうに見える、だけど缶詰は……うん、あの方法があるからなぁ。


「いや、うん、缶詰は手作りキットが売っているんだよ。

 缶と蓋と、蓋を閉める道具があって、後は自分で中身を作って蓋をして、まるごと煮込んで煮沸消毒したら完成、みたいのがさ。

 こー……缶を置いて蓋をはめ込んでハンドルみたいな機械をグルグルって回すと、二重巻き締めって方法で蓋をしっかり閉じてくれるみたいな、そんな感じのやつがね。

 確か……そこまで高くなくて、色々な大きさの缶がついているのでも2万円くらいで買えるんだったかな?

 それがあればさばの味噌煮の缶詰とか、牛肉のそぼろの缶詰とか、フルーツ缶は……どうなんだろ、ああいうので出来るものなのかな?

 確か熱で消毒していたはずだから……いけるはず?」


 身振り手振りを交えながら俺がそう言うと……コン君はその目をキラキラと輝かせながら、尻尾をぶんぶんと振り回し始める。


 うん、俺と遊ぶようになってすっかりと保存食好きになってしまったというか、缶詰にロマンを感じる男の子になってしまったようだ。


 まぁでも分かるよ、うん、ワクワクするよね、缶詰を自分で作れるっていうのは。

 うん、俺も初めて知った時はワクワクしたもの。


 流石にキットを置く場所がなくて一人暮らしの時は自重していたけども……うん、今の生活なら、広い我が家がある今なら、そんな自重はしなくて済むのである。


「まー……ちょっとお高い買い物になるから、それを買うかどうかはテチさんと相談してからになるかな?

 それでOKが貰えたら注文して……一週間か二週間もあれば届くはず?」


 俺が更にそう言葉を続けるとコン君は、キラキラと目を光らせたまま笑顔を爆発させて、両手を振り上げて喜びを表現し……振り上げた手を、目の前へと持ってきて指折り数を数え始める。


「えーと、えーと、みかんと桃と、パインとー。

 ……あとなんだろ、フルーツの缶詰……柿とか? いや、でも柿の缶詰は食べたことないな。

 えーとえーと……ナタデココ!!」


 ナタデココはフルーツではないような……でもあれは確かココナッツから作るものだから、フルーツと言えなくもない、のかな?


 まぁ、うん、ナタデココは流石に自宅で作るのは無理そうなので諦めてもらうとして、もしキットが届いたらコン君のためにパインの缶詰でも作ってあげようかなと、本当に嬉しそうに、楽しそうにするコン君を見やりながらそんなことを思うのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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