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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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元気いっぱい


「と、いう訳で、ヤノハちゃんは御衣縫さんのところの養子にするのが一番丸い解決法なんじゃないかという結論になりまして……どうでしょうか?」


「んえ!? はぇ!? おまっ、養子!?」


 数日後、御衣縫さんの家にお邪魔して、畑へと一緒に向かい、手入れの手伝いをしながらそんな声を上げると、全身の毛を逆立てて尻尾を膨らませながら御衣縫さんが、裏返った声を上げてくる。


「……正気か?」


 そして真剣な顔となって問いかけてきて……俺は頷いて言葉を返す。


「まぁまぁ正気です。

 と、言うかですね、獣人になってしまった以上、もう門の外には出られないんですよ。

 ここで暮らしていくしかない訳で……どうあれこちらで里親なり養父母なりを探すしかないんです。

 で……花応院さんがですね、厳しいようなのですが、獣ヶ森に送った時点で両親もそれは覚悟すべきだったと、手放したのだから受け入れろと、あちらの両親にそう言っているようなんです。

 生きているんだからそれで良かったと受け入れるべきだ……と。

 まぁ、ヤノハちゃんとしても絶対に帰れない門の向こうに両親がいるとか、そっちが本当の生まれ故郷だとか言われても、困ってしまうというか……精神的な負担になっちゃいそうですからねぇ。

 もちろん強制ではないです、断ることも出来ます。

 受け入れてもらえた場合は、政府から補助金とかも……結構出るようなので、検討して欲しいとのことです」


「お、おぉ、そうか……。

 まぁ……そうだよなぁ、お前んとこは子育てで忙しいし、2人目3人目の可能性もある。

 うちはまぁ……今は余裕があるし、一人くらいは育てられるっちゃられるがなぁ。

 ……なぁ、けぇ子、お前はどうだ?」


 と、御衣縫さんが声を上げると、少し離れた所でハサミを持って収穫をしていたけぇ子さんが元気な声を返してくる。


「ヤノハちゃんみたいな子なら、何人でも歓迎ですよ!」


 そして満面の笑み。


 それに負けたのか小さなため息を吐き出した御衣縫さんは、分かったと力強く頷く。


「では花応院さんにはそのように伝えておきます。

 後日色々書類が届くそうなので、確認と記入をした上で役所に届けてください。

 ヤノハちゃんはこのままこちらで……定期的に病院での検査だけはお願いしますとのことです」


「おう……まぁ、いきなり獣人になったんだ、いきなり人間に戻ったとしても驚きはしないだろうな。

 そこら辺の確認のためにも病院にはいかせるよ。

 ああ、それとな、実椋、ヤノハはお前んとこの畑で働かせるからな。

 あんな見た目でも子供は子供、学校にはまだ早いからな……他の子達と働く経験が大事だろう。

 という訳でお前にもしっかり協力してもらうぞ、まさか嫌とは言わんよな?」


「言いませんよ、可能な限り協力するつもりです。

 他の子供達と同じように給金も出しますし、色々な仕事を覚えてもらえるように配慮もします。

 もし両親のことを思い出して、会いたいと言い出したら花応院さんと一緒に会えるよう頑張るつもりですし……出来ることはしますよ」


「おう、それで良い。

 ……いやしっかし、まさかこうなるとはなぁ……。

 いやまぁ、ヤノハちゃんにとっては良かったってことなんだろうがなぁ。

 両親やら何やら、万々歳とはいかんなぁ」


「それでもまぁ生きていればこそ、でしょう。

 いつかは両親にだって会えるかもしれないんですし……良かったんだと思いますよ」


 と、俺がそう言った瞬間、笑い声が響いてくる。


「あはははははは!」


 元気過ぎる笑い声、ヤノハちゃんの声。


 どうやら畑の側のどこかで駆け回っているらしい。


 ブォォォォォ。


 今度は獣の声。


 え? 何? 追い回されているの? と、心配になるが御衣縫さん達は特に動じた様子もない。


「どうせシカだろう、シカは減らさないとだからなぁ」


 そんな俺の困惑を見てか御衣縫さん。えぇー……良いのか、それで。


「シカってのはなんでも食べるからな、シカが増えて食べまくれば森が弱くなる。

 そうするとクマなんかが飢えてこっちに寄ってくる。

 クマの駆除も大事だが、シカの駆除もそれ以上に大事でな……特に畑の側に寄ってくるシカは、多少脅かしてやるくらいでちょうど良いんだ」


「……ということはシカを追い回しているんですか? 危ないのでは?」


 御衣縫さんの言葉に俺がそう返すと御衣縫さんは、鼻で笑ってから言葉を返してくる。


「棒は持たせてあるし、問題はねぇよ。

 それにな、畑に入った害獣に関しては今時期でも狩猟して良いことになってるからな……ただ追い回すだけでも、狩っちまうでも問題はねぇんだよ。

 シカは特にな……おいらクマよりもシカが嫌いだな、あれはとにかく減らさないといかん」


「そ、そういうものですか……」


 と、俺がそんな言葉を返している間も、森の中から笑い声は響いていて……そしてコォーンと、妙に高く響く良い音が聞こえてくる。


「お、やったな」


 と、御衣縫さん、どうやらやっちゃったらしい。


 ……音からするにシカの頭蓋骨を棒で叩き抜いたとか、そういうことだろうか?


 ちょっと前は寝込んでいて、やっと動けるようになったばかりの女の子のすることではないと思うのだけど……これも獣人パワーってことなんだろうか。


 なんてことを考えているとオーバーオール姿のヤノハちゃんが、シカの角を引っ掴んで引きずりながらこちらへとやってくる。


「おとーさん、おかーさん、捕まえました!」


 そして元気いっぱいの声と笑顔。


 すぐに御衣縫さん達が駆けていってヤノハちゃんを褒めてやり、シカの処理を始める。


 我が家にもある狩猟肉の処理小屋が、こちらにも……神社にはではなく、畑の側にあるらしく、簡単な処理を済ませたらそちらに運んでいく。


 冷水での血抜きなどもそこで出来るらしく、御衣縫さんはそっちへ、けぇ子さんはヤノハちゃんのお風呂と着替えと、畑から去っていく。


 それを見送った俺は……まぁ、出来る範囲でやっておくかと、残りの畑仕事を懸命に、御衣縫さん達が戻ってくるまでの間、頑張るのだった。



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