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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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美味しい栗の試食会


 子供達が拾ってきた栗は、早速この場で調理することにする。


 特に由貴とヤノハちゃんがすぐに食べたいようだし、出来るだけ甘さを引き出せる焼栗にしてみよう。


 ということでまずは、子供達が拾ってきた栗を、水を張ったボウルに入れていく。


 虫食いされている場合はこれで浮くので除外、沈んだものだけを調理に使っていく。


 選別が終わったら包丁で切れ目を入れていく……弾け防止の意味もあるし、よく火が通るというのもあるし、皮が向きやすくなるというのもあって必須だ。


 それが終わったら薄めの塩水につけて……30分放置。


 その間に他の栗の処理などをしておいて、漬け込みが終わったなら焼いていく訳だけども、今回は御衣縫さんが用意してくれたBBQ用オーブンでの石焼に挑戦する。


 普通に鉄板とかで焼いても良いんだけど、それだと弾けるからなぁ……包丁を入れても弾けるのが栗で、家のオーブンならその心配はないのだけど、子供達の様子も見ていたいし、ここでやってしまいたい。


 という訳で、下段に炭を入れられるBBQのオーブンでもって、まずは炭を入れて火起こし、網を敷いて石焼用の小石を並べて、それで栗を包んでしまう。


 弾けても小石やオーブンの蓋で覆っていれば惨事は防げると、そういう形になる。


 あとは焼きすぎにならないよう温度計を見張りながらじっくり焼き上げて……匂いがしているのか、畑に出ていた子供達が一斉に駆け寄ってくる。


「まずは手洗いうがいだ、それから水分補給。

 それがちゃんと出来た子から、食べて良いが……ヤケドには注意するように!」


 テチさんがそう声を上げると子供達はコクコクと頷いてすぐに行動開始、ワイワイと楽しげな声を上げながら手洗いうがいをしていく。


 それからテチさんが用意してくれたピクニックシートに並んで座っていって……由貴やヤノハちゃんもそこに混ざる。

 

 皆は特に問題なくヤノハちゃんのことを受け入れてくれたようだ。


 まぁ、ヤノハちゃんからは大好きアピールしかしていないし、嫌がるようなことをする子でもないので、当然の結果ではあるのだけど、獣人にとって凄く珍しい、人間の姿をした子供でも全く問題はないようだ。


 そんな皆に、紙皿に盛り付けた焼き栗を出していく。


 切れ目を入れた所から割れて、ホクホクの実から湯気が立っていて……美味しそうな、甘そうな匂いが漂っている。

 

 少しの塩水を吸わせたことでより甘さが際立っているはずで……皆はその皮を器用に歯で剥いていく。

 

 ヤノハちゃんもそれを真似しようとするけども、それはまずいということで、子供用のナイフを渡してあげて……それでカットしてもらいながら食べてもらうことにする。


 そうして子供達がホクホクの栗を、あつあつあまあまと言いながら食べるのを眺めながら、大人達もテーブルにて今年の栗の試食を開始する。


「……あれ? 去年より美味しくない?」


「……美味しいな」


「いや、うんめぇよ、これ、これでまだ未成熟ってんだろ?」


「美味しいですね……」


 俺、テチさん、御衣縫さん、けぇ子さんの順でそう感想を言って……改めて確かめるために、二個目を食べる。


 やっぱり甘い……甘いだけでなく栗らしい香りも強く、一粒食べるだけで結構な満足感を得ることが出来る。


「……おう、もう試食してんのか」


 との声でレイさんが登場、レイさんもお菓子用に結構な量を買ってくれる大事なお客様で、試食をしてもらうことは大事なこと、連絡してすぐに来てくれたようだ。


 そしてレイさんも試食を開始し……香りを嗅いだ段階で既に驚いていたのだけど、一粒食べたなら目を丸くして驚きを表現してくれる。


「こりゃ驚いた、去年の一級品にも負けないんじゃねぇか?

 ……実椋、何をした?」


 と、レイさん。


「いえ、何も……。

 今年は育児もありますし、そこまで畑に行けていなかったんですよね、テチさんと子供達にお任せ状態でした」


「私も特に何もしていないな、例年と同じだ」


 俺が言葉を返すと、テチさんもそれに続き……レイさんは子供達にも視線を向けるが、まさか子供達が勝手に何かをしたとは思えず、すぐに視線を手元の栗に戻す。


「……落ちた栗でこれなら、本収穫が楽しみで仕方ないな。

 ……なぁ、皆、収穫はまだ先か?」


 と、レイさんが尋ねるとコン君を始めとした子供達は、鼻をスンスンと鳴らしてから、


「もうちょっとかな」

「うん、来週」

「来週くらいが良いと思う」

「そしたらもっと美味しくなるよ」


 なんて答えを返してくる。


 子供達が言うのならその通りなのだろう、スマホを取り出し天気予報を確認してみると……しばらくは晴れ続きで、天候にも問題はない。


「なら、来週に収穫しますか、変に先延ばしにして台風でも来たら大変ですし」


 との俺の言葉に反対意見はなく、子供達もそれで良いんじゃない? という答えを返してくれる。


 そうと決まったなら、色々道具を準備をし、出荷に関する連絡もしなければならないのだけど……すぐにする必要もないしと、目の前の栗に向き直る。


 まだまだホクホクと湯気を上げて美味しそうな香りを漂わせていて……それだけで一つのデザートのようだ。


 つまみ上げて、皮から押し出しながら食べてみると……うん、凄く甘い、本当に甘い。


 栗のデザートを食べているかと思う程だ。


 それはレイさんも同じように感じているようで……少しずつ食べながら「うぅーむ」と声を上げて頭を悩ませている。


 この美味しい栗をどうやってお菓子にするのか?


 より美味しく仕上げるにはどうしたら良いのか? もっと甘くしてしまうのか? それとも他と組み合わせることで甘さを引き立てるのか、甘さを活用するのか。


 パティシエとしては素材が美味しすぎるというのは、それはそれで悩ましいことなのだろうなぁ。


 まさかこれをマロングラッセにする訳にもいかないだろうし……ペーストにして甘いクリームとして活用するのが妥当なのかな?


 何にせよレイさんならば、素人にも考えつかないような答えを出してくれるはずで……今年の秋は楽しいことになりそうだなとワクワクしながら、残りの栗を食べ進めていくのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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