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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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今後の話


 不器用に箸を動かし、口の中に豚冷しゃぶを押し込み、もきゅもきゅと食べる。


 まだまだ食事という行為に慣れていないヤノハちゃんの食事シーンは、いつもそんな感じだ。


 それでもけぇ子さんが愛情を持って教えてくれているので、箸は箸らしく使えているし、最低限のマナーも守れているので、俺達は特に何も言うことなくその様子を見守っている。


 そしてそんなヤノハちゃんの姿は、由貴にとって良い刺激になっているようで……由貴も箸での食事をするようになってきた。


 と、言っても由貴の手は獣人の手、小さなその手で箸を使うのは簡単なことではないので、補助具付きの特別な箸となっている。


 指にはめる輪っかのようなものが箸についていて、それに指を通した上で掴み、食べ物を持ち上げる。


 獣人の子供用に作られているそれなら、由貴の小さな手でも食事が可能で……由貴もまたもっきゅもっきゅと豚冷しゃぶを食べていく。


 由貴にとってヤノハちゃんは突然現れたお姉さんになる訳なんだけども……どうにもお姉さん扱いしていない節が感じられる。


 お姉さんというよりは同い年、同格のお友達と考えているようで……ライバルでもあるヤノハちゃんには負けてられないと、箸を使いたいと言い出したようだ。


 しかしヤノハちゃんにとっては可愛い妹分で……ぬいぐるみを溺愛するような感じで、抱っこして撫で回して、一緒に外を駆け回ってと仲良しっぷりを発揮してくれていた。


「……ま、結果オーライってことなのかな」


 食後、片付けを終えての居間でのまったり時間。


 食後の運動ということで庭で元気に遊び回る子供達を見やりながらそんな言葉を口にすると、同じく居間に残って休憩をしていたテチさんが言葉を返してくる。


「いや、本当に結果オーライなのか? ヤノハがああなった理由が分からないままだし、体調不良の原因も分からない。

 ……そもそも向こうの両親はどう思っているんだ? 娘が急にあんな変化をして受け入れられるものなのか?」


「うーん……まぁ、そこら辺は俺達の責任の範囲ではないからねぇ。

 変化もまぁ……死ぬよりはマシだったと受け入れてもらうしかないんじゃないかな。

 ああなる前のヤノハちゃんは、本当にいつ死んでもおかしくなかったし……」


「それはまぁ、そうなんだがなぁ。

 あっちの状況も気になる所だな……花応院さんから連絡はないのか?」


「あるにはあるんだけど、向こうもまだ混乱が続いているみたいで、ハッキリとした返事はない感じかな。

 ご両親のことも教えてもらえていない感じだね。

 まぁー……国内の獣人ならまだしも、国外の獣人の血を引いていたとなると、ヘタをすれば外交問題だから、簡単じゃないんだろうね」


 先祖にたまたま外国の血が入っていた、なら全く問題はないのだけど、外国の獣人を誘拐してきてその血を残した、なんてことになったら問題も問題、大問題。


 外国の獣人と不倫したって方がマシに思える大火災になるに違いなく、外部に迂闊なことを言えないのが現状なのだろう。


 俺達がバラすことはないけども、通話で話すにはかなり危ない会話だ、可能かどうかは知らないけど、通話盗聴とかされたら大惨事だし……獣ヶ森には色々と注目も集まっているからなぁ。


 今のところ獣ヶ森の中では何のトラブルも起きていないけども、門の周辺では相応にトラブルが起きているらしい。


 以前アップロードしたコン君の動画のファンがコン君に会いたいとか、獣ヶ森に入りたいとか、そんなことを言って騒いでいるらしい。


 そう言う人達が獣ヶ森内の会話を探ってやろうとしていてもおかしくはなく、俺達も普段の通話には気を付けていたりもする。


 何しろ一番門に近い位置にある家だからなぁ……ちょっとした電波とか届いていてもおかしくはなさそうだ。


「と、言うか、両親からの連絡はないのか? 娘のことが気にならないのか?」


 あれこれと考えていると、テチさんがそう言葉を続けてくる。


 娘を持つ母親としては色々と思う所があるようで……少しだけ苛立っているようだ。


「そこら辺は花応院さんや政府が止めている可能性もあるから、まだなんとも言えないかな。

 ……ただ、うん、花応院さんに両親はどうしているのか、聞いてはみるよ。

 ヤノハちゃんと直接話させる訳にはいかないけど、何か伝えたいことなんかもあれば……遠回りに伝えたりも出来るかもしれないしね」


 俺がそう返すと、テチさんは納得してくれたようで、鼻息をふんすと吐き出してから庭へと向かって歩いていく。


 そしてコン君達と一緒になって駆け回っているヤノハちゃんを捕まえて、ぎゅっと抱きしめた後に背中を撫でる。


 ヤノハちゃんはそれを気持ちよさそうに受け入れて……それを見てか由貴が自分もと両手を伸ばす。


 するとテチさんはヤノハちゃんごと由貴を抱っこし……そして少しだけ恥ずかしそうに自分もと手を上げたコン君、さよりちゃんまで抱きしめる。


 4人一塊、いくら小柄な子達が多いとは言え、俺には出来ない芸当だなぁ……獣人パワーあってこそという感じがする。


 そして4人一塊でもちゃんと抱っこ出来ているのは、テチさんのスキルによるものだろう。


 普段からたくさんの子供達を相手にしているからか、とても上手に、バランスを崩すことなく抱きかかえることに成功している。


 何ならそのままグルグル回転し始めてもバランスを崩すことはない、子供達がきゃっきゃきゃっきゃと声を上げる中、グルグルグルグル……。


 目が回らないのだろうか? というくらいに回転してからしゃがみ始め、ゆっくりと回転速度を落としながら腕を広げて、子供達を地面に『着地』させる。


 多少地面を滑るようにズザザッと着地させると、子供達は空を舞い飛んだ飛行機気分で大盛りあがり。


 そしてまたそのまま駆け出し、自分達でジャンプしたりして、先程の回転で味わったスリル? 興奮? を再現しようとする。


 そうやって駆けて駆けて駆け回ったなら、流石に体力が切れたのだろう、縁側へと歩いてきて……4人順番に縁側に腰を下ろす。


 それを見て俺は、とりあえず水分補給かなと立ち上がり、冷蔵庫に入れておいた水出し麦茶を取りにいくために台所へと足を向けるのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。

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