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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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そして……


 ヤノハちゃんはそれからもどんどんと元気になり……一週間もしないうちに歩き回れるようになるまで回復した。


 後遺症らしい後遺症も特になく、獣ヶ森で一番大きい病院であれやこれやと検査をしてみたけども、特に問題なし。


 身長も伸びて体重も増えて、耳も尻尾も立派に成長し……世にも珍しい人間に近い姿の子供獣人となった。


 そこから更に子供獣人らしい姿になるのかとも思っていたけどもその兆候はなく、今の姿で安定しているようだった。


 至って健康、元気いっぱい、基本的には問題なしなのだけど……いくつか問題があるにはあって、それは本人の記憶に関することだった。


 記憶喪失……という訳ではないようなのだけど、ずっと入院をしていて意識は朦朧としていて、回復直前は完全に末期状態で、意識がないのが当たり前な状態だったせいか、記憶が混濁してしまっているらしい。


 会話は出来る、常識などは残っている、病院でしていたらしい基本的な学習も身に付いているのだけど、記憶がメチャクチャな状態だった。


 病院での思い出はほとんど残っていないようだ、結果として家族のことも覚えていない。


 闘病中に見た夢の記憶はそこそこ残っていて……ヤノハちゃんにとっては、その夢こそが『現実』になってしまっているらしい。


 普通に元気で、毎日外を駆け回っていて、家族も兄弟も友達もいて、どこにでもいる普通の女の子。


 病院での日々の方を『夢の世界』の出来事と思い込んでしまって、そちらで出会った両親や医者などは全て夢の世界の住人……存在しない人々と思い込んでしまっているんだとか。


 結果何が起きたかというと、意識を取り戻し始めてからの毎日を甲斐甲斐しく世話をしてくれて、常に側にいてくれた御衣縫さんがお父さん、けぇ子さんがお母さん。


 そして意識を取り戻した際にちらりと姿を見たコン君とさよりちゃんを、幼い頃からの親友……幼馴染だと思い込んでしまっているようだ。


 この状態をどうすべきなのか、間違った認識だと正すべきなのか……は、医者の中でも意見が分かれているらしい。


 検査中の何度かの問診で、精神科の先生が、記憶を正せるのかとふんわりと……少し遠回りな質問や説得をしてみようなのだけども、ヤノハちゃんの心が現実の真実の方を強く拒絶しているとかで、記憶の混乱や発熱を招いてしまい……無理にそうするのは危険かもしれないと、そんな意見が出ているらしい。


 とは言え、本当の家族のことを蔑ろにする訳にもいかず、いつかはそちらと暮らす日々がやってくる訳で……その日のために治療をしていくべきという意見もあって、まだ結論は出ていないようだ。


 これから定期的にやっていくらしい検診の中で、その辺りを見極めていくことになるらしく……とりあえずは、その時までは今のまま、ヤノハちゃんの認識のまま過ごしてもらうということになっていた。


 そうなるとコン君とさよりちゃんは幼馴染として遊ぶ必要があって……とは言え、御衣縫さん宅は神社、毎日のように子供の遊び場にするのも問題で、結果として我が家で遊んでもらうという形に落ち着くことになった。


 まぁ、元々俺が持ち込んだようなトラブルだから、面倒を見るくらいはしなければならないんだろうなぁ。


 ……という訳で、だんだんと気温が落ち着き始めた夏後半、我が家には元気なコン君とさよりちゃん、ヤノハちゃんが常駐することになり……そしてヤノハちゃんはコン君達に負けじと元気いっぱい、庭を駆け回ったり、木を登ってみたりと、なんともやんちゃな姿を見せてくれるようになっていった。


 コン君達が木登りが得意ならば、幼馴染の自分も得意なはずという、よく分からない思い込みでもって凄まじい身体能力を発揮し、枝先が見えないような大きな木でも、軽々と登ってしまう。


 リカオンという動物はかなり身体能力が高い動物らしいけども……果たしてそれだけで、あれだけの動きが出来るのか、それともヤノハちゃんの体の状態が何か特殊な状態となっているのか……は、まだよく分かっていない。


 そんな風に遊び回ったなら、我が家にやってきて手洗いうがい、それから居間へと駆け込んでの休憩タイム。


 コン君達が幼馴染なら、由貴はヤノハちゃんにとっての妹分で……居間へやってきたヤノハちゃんはもっぱら、由貴のことを構うことを楽しんでいた。


 由貴もまた新しい友達が出来たと喜んでいて……なんだかんだと2人は相性が良いようで、傍目から見ているとコン君達よりも仲が良いように見えてしまうなぁ。


「今日の昼ご飯は何が良い?」


 そしてそんな子供達に、そうやって声をかけるのが俺の仕事になっていた。


「えっとねー、なんか食べ応えあるやつ!」


「冷たいのがいいかもです」


 そしてコン君とさよりちゃんがそう返し……ヤノハちゃんと由貴は静かに見守る。


 まぁ、ヤノハちゃんはほとんどの料理を食べたことがないだろうからなぁ。


「……冷たくて食べ応え……?

 えーっと……豚の冷しゃぶと、ショウガの炊き込みご飯にでもする?

 それならまぁ、そこそこ食べ応えあると思うけども……」


 と、俺がそう言うと、子供達は期待いっぱいの顔となって……台所に駆けていく。

 

 コン君とさよりちゃんはいつもの椅子に、由貴は由貴のためにと作った新しい椅子、そして体が大きいヤノハちゃんはテーブル側の椅子に座っての見学モード。


 ヤノハちゃんはそこまで料理に興味がないみたいなのだけど、他の子達が皆こっちに行ってしまって1人では暇だからと、見学にくるようになっていた。


 ……まぁ、うん、豚の冷しゃぶは簡単な料理なので特に見せる部分もないのだけども。


 豚を野菜くずなどで湯がいて、その間に他の具材の準備。


 レタス、トマト、ワカメ、セロリ。


 それらを適当に切って皿に並べて……湯がいた豚肉を並べたら刻みネギをチラシ、ワサビ醤油タレを回しかけて完成。


 豚の旨味とワカメやセロリの癖のある食感を同時に楽しむという感じで……ショウガの炊き込みご飯は、刻んだ新生姜と油揚げ、それと刻んだ本シメジを入れての炊き込みご飯だ。


 こちらも簡単、あっさりと作れる代物で……簡単だからこそ大量に、山盛り作って居間へと持っていく。


 すると子供達が食器などの用意を進めてくれていて、麦茶とコップの準備も万端。


 書類仕事をしていたテチさんもやってきて……皆揃っての昼食となる。


『いただきます!』


 と、そう声を上げたなら皆で箸に手を伸ばし……そうして賑やかさを一層に増した食卓での食事を、存分なまでに楽しむのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
急に世界線が変わっているのですが、どうしたのでしょうか。
先生、これ獣ヶ森じゃなくて北の辺境ですw
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