干蛸焼き
翌日。
タコの干物がしっかりと出来上がって、とりあえず昼食代わりのタコ焼きでその味を確かめることになった。
タコ焼きは以前作ったことがあるとは言え、所詮は素人レベルで……タコを大きくすることで食べ応えを出すのがせいぜいだ。
それでもタコそのものは良いものだし、手作りなのでそれなりの味にはなるはずで……コンロに置いたたこ焼き器でもって懸命に作っていく。
電気式のもあるけども、火力がしっかり出るコンロ式の方が美味しく出来上がる。
高火力で丁寧に、大きく切り分けたタコを入れてしっかりと焼き上げて……普通に切り分けただけのタコと干蛸、どちらが美味しいかを皆に食べ比べてもらうため、干蛸の方のタコ焼きには赤色の食紅を入れて見分けがつくようにしてみたりもする。
そんなタコ焼きを焼き上げて皿に並べると、すぐにコン君が今へと運んでくれて……青のりや鰹節、ソースなどをかけてくれる。
それからタコ焼き用の竹串も持っていってくれて……俺は焼くことにただただ集中する。
食欲魔神全員分のタコ焼きとなると、ちょっとやそっとではないのでとにかく作って作って作り続ける。
そうやっていると居間から「そろそろだよー!」との声が上がる。
それを受けて俺は一旦作業を中断させて居間に向かい……たくさんのタコ焼きが並んだ皿を前にして、緊張した面持ちを見せる由貴へと視線を向ける。
初めてのタコ焼き、口の中をヤケドしないようにしっかり冷ましたものが用意されていて……ベビーチェアにちょこんと座りながら竹串を握った由貴は、テチさんに促されるままタコ焼きを不器用に突き刺し、口に運ぶ。
冷ましたとは言え、まだ熱の残るタコ焼きをはふはふ言いながら咀嚼し……そしてすぐに目を輝かせ、次々タコ焼きを口の中に運ぶ。
どうやら気に入ってくれたらしい。
まぁ、ソースとマヨネーズ味ってだけでも由貴の好みではあるし、当然の結果なのだろう。
由貴の口の中には普通のタコ焼きも干蛸焼きも両方が放り込まれているが……口の中いっぱいに詰め込んでしまっていることから見るに、どちらがどうとか意識すらしていないのだろう。
ただただ夢中で食べていて……干したことにより少し硬めとなったタコをモグモグモグモグと、その立派な歯で噛みちぎっていく。
そしてごくんと飲み下し……テチさんと俺のことを交互に見やり、これは? と、首を傾げて問いかけてくる。
「タコ焼きだよ、中に入っているのはタコって海の生き物だね」
「タコは栄養もあるし、美味しいんだぞ」
俺とテチさんがそう返すと由貴は、
「タコ! タコ!!」
と、言いながらまた竹串を構えて食べ始める。
そんな様子を見て満足した俺は、台所に戻って作業を再開させ……次々居間へとタコ焼きを送り込んでいく。
焼き上げたものはコン君かさよりちゃんか、テチさんが来ては持っていってくれて……それを何度か繰り返すと居間から「もういいぞー」との声が来たので、自分の分だけを焼いて居間へと持っていく。
いつもの席に腰を下ろして一口、うん、普通に美味しい。
タコが良いタコだからか、以前のものよりも旨味があるようにう感じられて……干蛸はやっぱり旨味と歯ごたえが増している。
個人的にはしっかりタコの存在感を感じられる干蛸の方が好みだなぁ、美味しい美味しくないというよりは、完全に好みの問題。
「オレはふつーのタコが良いかなー」
「私もです」
聞いてみるとコン君とさよりちゃんからはそんな反応。
「私は干蛸だ、もっと硬くても良いくらいだ」
と、テチさん。
「なるほど……種族どうこうよりも個人の好みって感じかな。
まぁー、新鮮なタコだからこその歯ごたえもあるし、美味しさもあるから、そういうものかもねぇ。
……あとは、夕食のタコ飯だけど、これはどうしようかなぁ……作り方が色々あるからなぁ」
タコ焼きを食べ進めながらそんな声を上げると、皆は興味津々といった様子を見せてくる。
「たとえば……タコに味をつけて炊き込むのか、炊き込む際に調味料をいれるのか。
タコ以外の具は入れるのか、味付けはどうするのか……などなど、タコ飯って言っても色々あるんだよね」
そう言葉を続けると、テチさんは「ふーむ」と声を上げながら少し悩み、それから言葉を返してくる。
「実椋はどういうタコ飯が好みなんだ?」
「俺は……具材多めが良いかな。
タコだけでももちろん美味しいんだけど、刻みニンジン、ショウガ、枝豆、油揚げ、練り物も入れちゃうかな。
そうすると本当にそれ単体で完成された料理になるんだよね。
他にもおかずを用意するならタコだけの方が良いんだけど……美味しさで言うなら色々具材あった方が良いかな。
それらの具材にタコの出汁が染み込んで……うんと美味しくなるのがたまんないんだよね。
タコ出汁は地味ながらしっかりと旨味が強いから、おでんとかに入れても美味しいんだよねぇ。
タコ足タコミンチ……タコの練り物を入れたおでんも悪くないよ」
と、返すと皆はごくりと喉を鳴らす。
そしてすぐにでも食べたいという顔をしてくるが……流石にそれはと首を振って受け流す。
「もう十分食べただろうから、夕食まで待ってね。
……その代わりではないけど、タコ飯はしっかり美味しく仕上げるからさ。
とりあえず皆の反応も悪くなさそうだから、具材たっぷりのを二種類……普通のタコと干蛸で作ってみるよ。
それと……おでんもちょっとだけ作ってみようか、大鍋じゃなくて小鍋で、小鉢程度の量になるけどね。
……流石に真夏に本格おでんはアレだから、そのくらいで勘弁してね」
と、俺がそう言うと皆は納得してくれて、コクコクと頷く。
頷きながらもまだまだ食べられるぞという顔をしてくるけども……流石に食べ過ぎなので、甘い顔はしない。
実際由貴は十分に食べられたと、満足顔でウトウトとし始めていて……このままお昼寝へと突入してしまいそうな状態だ。
そんな由貴を見て俺は慌てて立ち上がって由貴を抱き上げ……お昼寝前に歯磨きだということで、洗面所へと駆けていくのだった。
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