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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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ぐるぐる


 

 コン君と一緒に車に乗って養殖所へと買い物に向かう。


 俺は運転席、コン君は助手席のチャイルドシート、いつも通りの安全運転で向かうと……駐車場の隣の一帯が切り開かれていることに気付く。


 以前来た時はそこには木々が生えていたのだけど綺麗になくなっていて……そしてどこかで見た覚えのある装置がいくつも並んでいた。


 コン君はそれを見ながら首を傾げていて……車を停めた俺は、コン君をチャイルドシートから解放してから、そちらへと足を進める。


「何アレ!?」


「イカぐるぐるだ」


 コン君と俺がほぼ同時に声を上げる。


「イカぐるぐる!? 何その名前!?」


 するとそうコン君が返してきて……俺はその装置の邪魔にならない程度に近付いていく。


 鉄の骨組み円筒と言ったら良いのか……とにかく円筒状に組まれた鉄骨組みの中心に太い軸があって、その下にモーターなどがあって、そして太い軸から傘のように何本もの棒が広がっていて、その枝にはいくつものイカの開きが干してあって。


「まぁ見たまま、名前のままイカをぐるぐる回転させるためのものだね。

 そうやってイカを乾燥させてスルメとかを作るもので……九州のどこかの名物になっていたはずだよ」


 そんな装置が20個かそれ以上か、結構な数並んでいて……全く同じ動きでグルグルと動いている光景は中々シュールだけども、同時に見応えがある。


 何しろその装置の大きさといったら……高さ2m以上の大物なんだからなぁ、数もあって壮観だ。


「へぇーーーー、すっげぇー……!

 これも干物作りのための機械ってことかぁー……こうやると美味しくなるの?」


 コン君もまたそんな光景に夢中になっていて……機械を見上げながら質問を投げかけてくる。


「味は……どうなんだろう? 潮風の強い海の側とかでやるなら影響あるのかもね?

 俺も詳しくは知らないからはっきりしたことは言えないんだよねぇ。

 まぁ、味よりもこうすると乾燥が早くなるからカビたりする心配がないだろうし……こうやって動かしておけば、虫とか猫とかにやられる心配がないからね、このまま放置しても平気って訳だねぇ」


「あー……結構動き早いもんね、これならたしかに虫とか鳥も手出せないかー。

 でも面白いなー、これ……魚でもこれ出来る??」


「いや……魚でやると身がボロボロになって飛んでいっちゃうかな。

 イカかタコくらいだろうねぇ……それかある程度干して固くなった干物ならいけるのかな。

 ……一応言っておくけど我が家ではやらないよ? こんなに量産する必要も予算もないしねぇ」


「ちぇー! 家にあったら色々干せて面白そうだったのに!」


 と、そう言ってコン君はしばらくの間、イカぐるぐるを眺めて……満足したのか踵を返してトトトッと養殖所へ向かう。


 俺もそれを追いかけて中に入り……そこからはお買い物タイムとなる。


 今日の夕食、コン君が食べたがったもの、そして干物向きの魚を吟味し……店員さんの助言も受けながら選んでいく。


 吟味が終わったら保冷箱に詰めてもらい、会計を済ませて車への積み込み。


 コン君が台車を押してくれて……積み込みも手伝ってくれる。


 少しずつだが確実に成長しているらしいコン君は、大きめの箱でも軽々積み込んでくれて……それが終わったならスーパーに寄って足りないものを買い足しての帰宅となる。


 帰宅したなら冷蔵庫へ食材を詰めて……それが終わったなら干物台の用意を始める。


 干物台は曾祖父ちゃんが残してくれたものを綺麗に洗って修理して、いつでも使えるようにしたものがあるのでそれを。


 ……養殖所のない獣ヶ森で曾祖父ちゃんが一体何を干物にしていたかは分からないけども、金網を設置するための凹みや、角度調整機能搭載で干物台を斜めに傾けることが可能なアーム、干したものが滑り落ちないようにするための突起などがしっかりとあるもので、多少は古いが、こんな便利なものがあるのなら使わないのは損というものだ。


 それを庭に設置し、アルコールスプレーでしっかり殺菌……そして養殖所から持ってきた箱を側へと置いたなら、同じくアルコール消毒した菜箸でもって中身を取り出し、並べていく。


 するとコン君も菜箸を構えて参戦、一緒に丁寧に並べていってくれて……そうしながら声をかけてくる。


「……この開いてる魚は何だっけ?」


「アジだね、養殖所は下処理もしてくれるからありがたいよねぇ……干物にするって言ったら開いてくれただけでなく、味付け用の塩水まで用意してくれての至れり尽くせり。

 箱の中で既に漬け込んでくれたから、あとは並べるだけでOKだって言うんだからなぁ」


「おー……干物の味付けって塩水だけで良いの?」


「塩と出汁をあわせたものとかに漬け込む人もいるけど、基本は塩水かな。

 これは味付けというより保存性を高めるためのもので……味は干物が仕上がってから足しても良いから、そこまで気をつける必要はないよ。

 大根おろしと醤油とか、ポン酢とか、そこら辺をかけて食べる人も多いからね」


「あー! とーちゃんはホッケにそれしてる! 大根おろしとポン酢!

 焼き立てのにかけるとおいしーよね! ほわほわでうんまい!

 ……ホッケも作れる?」


「作れなくはないけど、今回は買ってないかな。

 まずは簡単なアジとかで試さないとね……今回はアジとタイの干物と、サバのミリン干しになるかな。

 ……ああ、うん、ミリン干しの場合は、ミリンに漬け込むことになるね」


「おー……サバもいいよね、好き!

 自作したらやっぱおいしーんだろうなー……すぐ食べれる?」


「ん? んー……まぁ、今日はかなり暑いから夕食まで干せばそれなりにはなるけど、流石に明日かな。

 それに今日は養殖所で買ってきた新鮮な魚がたくさんあるから、そっちを食べないともったいないよ?

 それでも干物が良い?」


 と、俺が問いかけるとコン君は一瞬動揺したような様子を見せて悩んでしまうが……すぐに、


「新鮮なやつがいい! お刺身とか!!」


 と、元気いっぱい声を上げる。


 それが良いならと俺が頷くとコン君は、目をぎゅっとつむっての笑顔を見せて……それから「おさしみおさしみ~」なんて呟きを口にしながら、干物作業を手伝ってくれるのだった。 


お読みいただきありがとうございました。

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