BBQ実食
じっくり時間をかけた肉は、とても柔らかく肉汁が溢れてくる。
旨味がぎゅっと凝縮されて、スパイスの味付けもしっかり染み込んで馴染んで、たまらなく美味しい。
日本が育て方で牛肉を美味しくしようとした一方、アメリカは調理法で美味しくしようとしたといった感じか、特上和牛にも負けない味と食感だ。
俺は立食形式でそれを夢中で食べ、コン君やさよりちゃん、フキちゃんや子供達も同様で、長森さんや御衣縫夫妻はビールと一緒に楽しんでいる。
料理や食器が並べられたテーブルにちょこんと座った由貴は一口食べては体を震わせて感動し、一口食べては感動し……と、そんな食べ方を繰り返している。
そして今日の主役と言えるテチさんは、由貴の近くに椅子を置いて座って、ワイングラスを傾けながら楽しんでくれている。
由貴の様子を見守りながら静かに……味を堪能するかのように。
普段はあんまりそんな姿を見せないテチさんだけど、前々から友達と出かけて食事をすることはよくあって……恐らくその時にはそうやって食事をしていたのかもしれないなぁ。
「よし、じゃぁ次はこれで食べよう」
そう言って俺は炭火で炙ったバゲットを用意し……それに切れ目を入れてレタスや玉ネギ、自作ピクルスと……それとBBQ肉を挟む。
パリパリ香ばしいバゲットにそれらを挟んだならもう最高で、皆夢中で食べてくれる。
皆が楽しむ中、俺はさっさと食べ上げて次の料理の準備に移る。
獣ヶ森に来た頃に作ったコンフィ、燻製肉、もちろんミンチタルタルも作って、サラダなどなども次々に出していく。
俺がそうやって料理に集中している間、フキちゃんや長森さんも料理を手伝ってくれて、御衣縫さん達は子どもの面倒を見てくれる。
コン君とさよりちゃんはドリンクの管理などをしてくれて、おかげで料理に集中が出来て……どんどん料理をテーブルに並べていく。
「サラダも食べてね、フルーツサラダもあるから」
料理を並べながらそう言うと、皆……テチさんもちゃんとサラダを食べてくれる。
けども由貴はもうお肉に夢中だった、BBQ肉だけでも由貴のテンションが上がっているのに他にもお肉がどんどん来るのだから止まらない。
テーブルの上を右往左往、あっちに駆けて肉を食べ、こっちに駆けて肉を食べ……肉まみれのテーブルをこれでもかと堪能する。
普段なら注意するのだけど今日は特別、テチさんの慰労が目的なのだから変な騒ぎを起こさないようにしようと何も言わず、ただ見守る。
そうして由貴は食べに食べて……お腹を大きく膨らませて、オーバーオール服を大きく膨らませてペタンと座り込む。
食べ過ぎダウンか……まぁ、うん、今日は特別なんだからそれも良いのだろうなぁ。
そしてテチさんは……もうなんかもの凄く満足げだ。
目を細めて何度も頷いていて……いっそ優雅さまで感じてしまう。
まぁ、うん、楽しんでくれたなら何よりで……俺はそれを喜びながら肉を焼いていく。
もちろん肉だけでなく野菜も……普通に焼いたり、ソースやバターでステーキ風に仕上げたり。
御衣縫さんが持ってきてくれた野菜はそのまま焼いても美味しいのでどんどん焼いて、これまた御衣縫さんが持ってきてくれたキノコも焼いていく。
野菜は肉ほどは人気ではなかったけども、焼けば美味しい匂いが漂うし、美味しそうに見えるしで、少しずつ子供達も興味を持ってくれて、野菜コーナーにも子供達が集まってくれる。
そして箸なり手なりで焼き上がった野菜を掴んでパリポリと食べ始め……リスらしい食事シーンを見せてくれる。
何人ものテチさんの生徒達がそうするのは、なんともたまらない光景で……その光景が続くようにと、どんどん野菜を焼いていく。
そうこうしていると満腹となった子供達が由貴のようにダウンし始め、場が落ち着き始める。
流石にそろそろ俺も休憩かなと作業を一旦止めて、用意したキャンプチェアに腰を下ろして適当な焼き野菜をつまんでいく。
……いや、うっま。
さっき食べたBBQ肉も本当に美味しかったけど、流石御衣縫さんの野菜だなぁ。
「野菜は採れたて一番、新鮮さ以上のスパイスはないもんだ」
野菜を食べていると、御衣縫さんがそう言いながら近付いてきて……手に持った皿の上に乗せた炭火焼ステーキを、物凄い勢いで食べていく。
俺も負けじと野菜焼きを食べて……あと少しで満腹という頃で騒動が起きる。
「ぴゃーーーーー!」
それは泣き声だった、由貴の泣き声、何か嫌なことがあった時の泣き声。
慌てて立ち上がって御衣縫さんと一緒に由貴の声がする方へと駆けていくと、まず視界に入り込むのは口を抑えて笑いをこらえているテチさん。
ついでにコン君やさよりちゃんにフキちゃんまでが笑いをこらえていて……そんな皆の中心ではテーブルにペタンと座って泣く由貴の姿。
何がどうしたらこんな状況に?? と、困惑していると、笑いをどうにか飲み込んだテチさんが説明をしてくれる。
「多分だが、顎が疲れたんだ、食べすぎて疲れて、痛くなってきて……それでもう美味しい肉を食べられないって泣き出したんだ。
ふ……ぷふっ、ま、まさかそんなことで泣き出すなんて……」
そう言ってテチさんはまた笑い始め、そして由貴は更に「ぴゃーー!!」と泣く。
俺も少しだけ笑いそうになったけども、それよりも今は由貴だと駆け寄って抱きかかえてあげて……よしよしと背中をさすってあげる。
どんな言葉をかけてあげたら良いのかは分からないけど、とにかく落ち着かせようとしていると……そこにいつものエンジン音をさせて、レイさんの配達バンがやってくる。
テチさんのお兄さんのあるれいさん、パティシエとして活躍中で、今日もまた自作デザートを持ってきてくれたようだ。
車から降りてクーラーボックスを担いでやってきて……そして由貴の様子を見るなり、状況を理解したのか、笑いをこらえながら頷いて、クーラーボックスの中から何かを取り出し始める。
「あっはっは、BBQに来たらまさかそんなことになってるとはなぁ……よしよし、今からおじさんが解決してやるからな」
そんなことを言いながらレイさんはクーラーボックスからドリンクボトル……リス獣人の子供用の、小さな取っ手付きストロー付きのものを取り出し、由貴へと差し出す。
それを受け取った由貴は泣きながらも、かわいいそれを気に入ったのかストローに口をつけて一口飲み込み、そうしてその顔をいつにない満面の笑みへと変化させるのだった。
お読みいただきありがとうございました。




