BBQの準備
BBQの肉料理は、こだわり始めると果てがない。
味を漬け込むのに1~2日、じっくり炭火で焼き上げて6~8時間、更にそこから数時間寝かせて味を馴染ませて……そこまでやっても火加減が良くないと仕上がりが悪くなったりもする。
なので日本ではそこまで本格的なBBQは行わないけども、アメリカではそれが主流で……今回はテチさんのお酒解禁祝いでもあるので、できる限りそれに近いものをしようと思う。
ただそれだけでOKにはしない……何しろテチさんは赤ワインをお望みだ。
スパイスたっぷりのBBQ肉はどちらかと言うとビール向きで、ワイン向きとは言えない。
もちろん合うように味を調節は出来るが……それでも赤ワインに抜群に合うとは言い切れない。
と、言う訳で赤ワインに合う肉料理も用意することにした。
シンプルにステーキ、それとコンフィ……あとタルタルステーキ。
まぁ、まんまタルタルステーキにするのは少し不安というか、素人がわずかでも危険性がある料理に手を出すべきではないのだろう。
なので軽く火を入れた形になるけども、タルタルステーキっぽく仕上げるとしよう。
「と、言う訳でまずはBBQ肉の準備からだね……まぁ、近いことは以前もやったからほぼ繰り返しになるけども。
マスタードを塗ってそれを下地にスパイスをまとわせて……一晩寝かせる。
あとはそれを炭火でじっくり……内部温度を計りながら焼いていって、良い感じに仕上がったらアルミホイルで包んで、更にじっくり温度を上げて……肉汁が中にたっぷり詰まった最高の肉に仕上げる。
コンフィは以前作ったのがあるからそれを使うとして……あとはタルタルステーキだね。
タルタルステーキは質の良い牛肉とか馬肉とかを適切に処理した上で調理するんだけど……今回は牛ミンチ風味にしていこうかな」
台所でBBQ肉の仕込みを終えて一旦片付けと洗い物をして……それからそんな言葉を口にすると、いつもの椅子に座ったコン君が首を傾げながら言葉を返してくる。
「タルタルってタルタルソースとは違うの?」
「結構違うかな……タルタルステーキってのは言ってしまうと生肉ステーキって感じだね。
もちろんただの生肉じゃなくて、しっかり味付けをするし、美味しくするために工夫がいるし……生卵を最後に乗せるから、嘘かと思う程美味しく仕上がってくれるよ」
「おー! それなら美味しそう!
……だけど火を入れちゃったら普通のお肉料理にならない?」
「それはまぁ……そうなんだけど、少し火を入れた方が美味しくなることもあるんだよ。
簡単な料理だからとりあえず作ってみようか」
まずは生でもいけそうなくらい質の良い牛肉を軽く焼く。
焼いたら一旦皿に取って休ませて……その間にソースを作る。
まずは玉ネギを切り分けてから水に晒しておく。
そしてコルニッション……つまりはフランス風のキュウリのピクルスをみじん切りに。
更にはケッパー……これまたピクルス、今度はツボミのピクルスをみじん切り。
それとパセリもみじん切りにして……これらをオリーブオイル、マスタード、卵黄、カイエンペッパーを混ぜて作ったソースに入れてよくかき混ぜる。
ソースが出来たなら肉を粗ミンチに、そして玉ネギも細かく刻む。
あとはこれらを混ぜ込んで……お好みで少し温めても良いし、そのまま食べても問題なし。
「オススメの食べ方は焼き立てのバゲットに乗せるやつだね。
少しのバターを塗っても良いし、そのままでも良い……肉とオリーブオイルで十分脂はあるからバターなしでも良いかな。
胡椒をしっかり効かせたなら、これがたまらなくてねぇ……もちろん赤ワインとの相性も最高だよ」
と、説明をしながらミンチタルタルを作り上げて……バゲットもトーストでしっかりと焼く。
少し焦げ目が付くくらいに熱々に焼いたら……それらをすぐさま居間へと持っていく。
俺とコン君達は牛乳、テチさんはワインをお供に、本番のバーベキュー大会に向けての試食会だ。
焼き立てバゲットを持っていくと、早速皆がミンチタルタルをバゲットに乗せ始めて……たっぷり乗せたならすぐさま口へと運ぶ。
半生の肉はフキちゃんのとこの肉だから、それだけでも美味しく……そこにピクルスソースが絡んでたまらない味となっている。
脂が滴るそれをバゲットに乗せると脂と肉汁がバゲットに染み込んで……これがなんともたまらない。
パリパリのバゲットと、柔らかジューシーなタルタル。
味付けも上手くいっていて……うん、これなら赤ワインにも合うだろう。
気に入ってくれたかな? と、皆を見ると、コン君とさよりちゃんは満足そうに食べていて……由貴は黙々と口を動かし、カリカリカリッと肉汁が染み込んだバゲットを食べていっている。
そしてテチさんは……用意したワイン一瓶をもう開けてしまったようだ。
……テチさんには少し多めに用意したとは言え、まさか真っ昼間から一本開けてしまうとは……。
まぁ、それだけお酒に飢えていたのだろうけども……。
「テチさん……? 本番は明後日だよ??
もうそんなに飲んでしまって良いの……??」
そんな疑問が浮かんできて声を上げると、テチさんは何も言わずに小さく笑い……気にした様子もなく、おかわりを要求しているのだろう、空っぽとなった皿を差し出してくる。
「……いや、まぁ……簡単に作れるから良いけども……えぇ……。
本番用に色々準備しているんだけど……??」
そう声をかけるとテチさんは、
「これくらい朝飯前だ、本番はもっと本気を出すから安心しろ。
……という訳でおかわりを頼む、由貴も物欲しそうにしているから用意した方が良いぞ。
……ああいや、コンとさよりの分も必要そうだな。
あとはこれだけでは飽きそうだからサラダも欲しいな」
と、そんなことをあっけらかんと言ってのける。
そんな言葉を受けて改めて周囲を見渡すと、由貴は早く早くとベビーチェアを揺らしていて……コン君とさよりちゃんは頬を膨らませて口の中でよだれをうならせていて、そんな皆を見た俺は、とりあえずサラダを多めにしてお腹を膨らませてやろうと決意し、台所へと向かうのだった。
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