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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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ごまかし


 ソバは大好評だった。


 味と食感は正直素人レベルのものだったけど、自分達の手作りというのはそれだけで美味しいものだし、俺やテチさんにとっては由貴が初めて作った料理な訳で美味しくない訳がなかった。


 だからと言うか、それからしばらくソバな日々が続くことになった……けども、流石に三日で飽きられることになった。


 温かいソバにしたり、具材を工夫したりとしたのだけど……まぁ、限界というものだろう。


 そうこうするうちに気温が上がってきて……由貴は縁側で日光浴をよくするようになった。


 夏の日差しをたっぷりと浴びると毛がふわふわになるのが楽しいらしい。


 幼い由貴の毛は特別に柔らかく、日光を浴びると綿菓子かと思うくらいに柔らかくなるので……そんな毛を自分で撫でたりするとたまらないようだ。


 そんな風に由貴がクーラーの冷気に包まれながらのたっぷり日光浴をしていると、決まってやってくるのが扶桑の種で……扶桑の種を見つけると由貴は窓を開けてとせがんできて、窓を開けるとすぐさま庭に飛び出し、種を捕まえてぶん投げるか、そこらの石に叩きつけての破壊を試みようとする。


 扶桑の種の一体何がそこまで気に入らないのか……まぁ、自我を持って動いている種なんて気味悪くて当然なのだけど、まだまだ幼くそういった判断が付かないはずの由貴に何がそこまでさせているのだろうか……。


 扶桑の木や種が怪しいなんてことは一切教えていないんだけども、それでも攻撃したくなる何かがあるようだ。


「しゃぁぁぁぁ!」


 今日も元気に庭に飛び出て、転がる扶桑の種を両手でがっしり捕まえて持ち上げ……助走をつけてのジャンプ、着地と同時に石に叩きつける。


 すると扶桑の種はバキンッと音を上げながら弾け飛び……逃げるように森の中へ消えていく。


 ……可哀想と言えば可哀想ではあるかな。


 テチさんが妊娠中に似たようなことがあって、結局テチさんは扶桑の種を食べた訳だけど、特に健康に問題はなし、由貴もさっき見た通り元気に産まれてくれた。


 それを思うときっと扶桑の種の行動には意味があるはずなのだけども……だからと言って扶桑の種を援護しようという気にもなれない。


 必要な行動だと言うのならもうちょっと考えて行動して欲しいというか、少なくとも気味の悪さはなんとかして欲しい所だ。


 なんてことを縁側で考えていると、庭の方を警戒していた由貴がふんすふんすと鼻息荒く戻ってきて……窓を閉めてあげた俺はウェットティッシュで由貴の手足の汚れを取ってあげる。


 すると由貴は縁側にちょこんと座っての日光浴を再開させ……目を細めて夏の日差しを堪能する。


 そんな由貴のために何かおやつでも作ってあげようかと台所に向かっていると……台所に入った所で、スリッパが何かを蹴飛ばす。

 

 カツンッ、コロコロと音を立てながら転がるそれは、想像していた通りに扶桑の種で……どうやら早速工夫をしてきたらしい。


 由貴に直接行っても無駄だからと、こちらに狙いを変えたようだ。


 ……まぁー、うん、別に構わないと言えば構わないのだけど、それなら最初からこっちに来ていればよかったのに。


 とりあえず扶桑の種を拾い上げ……どうしたものかと眺めながら悩み、ハニーナッツトーストでも作るかと流し台へと足を進める。


 ハチミツ漬けのナッツをパンに塗って……シナモンなんかを振ってから焼き上げるトースト。


 ナッツ以外にもドライフルーツなんかを使っても美味しく、個人的にはリンゴやバナナを使うのが好きだ。


 そこまで甘くないもので良いから、しっかり乾燥したものを使うと歯ごたえ的にも面白く、シナモンとの相性も良い。


 ハチミツとフルーツとシナモンの香りに包まれれば由貴が扶桑の種に気付く可能性も低く……悪くないアイデアのはずだ。

 

 という訳でまずは扶桑の種を綺麗に洗い……タワシでゴシゴシと洗い、汚れを落としていく。


 そこらを転がって来た木の実だ、どんな汚れがシワの中に入り込んでいるか分からないから丁寧に……しつこいくらい綺麗にする。


 この時点で扶桑の種がブルブルと振動したり跳ねようとしたり、結構な抵抗を見せてくるが、食べて欲しいのなら我慢しろと容赦はしない。


 洗い終えたなら今度は煮沸、容赦なく鍋で煮込む。


 煮込み終わったならハンマーを用意し、まな板の上で砕いていく。


 結構な大きさの扶桑の種をそのまま食べられる訳がないので当然の処置だったのだけど、その際にも種は転がろうとしてきたりする……食べられたいのか食べられたくないのか、どっちなんだ……。


 容赦なく砕いたら小鉢に分けたハニーナッツの中に入れてよくかき混ぜる。


 後は普通のハニーナッツトーストと同じ容量だ。


 パンにまずドライフルーツを乗せて、その上にハニーナッツを塗りたくり、最後にシナモンパウダーを振りかけてトースターに。


 あとはじっくり焼き上げて……その間にサラダとホットミルクを用意したら完成。


 真夏にホットミルクというのも凄い組み合わせだけども、クーラーが効いている室内なら問題はないだろうということで、焼き上がったトーストと一緒に台所に持っていくと、由貴はシュバッとベビーシートに飛び込み、自室で書類仕事をしていたテチさんも居間へと駆けてくる。


 何ならそのタイミングに間に合えとコン君とさよりちゃんまで家の中に駆け込んできてしまう。


 流石に二人の分までは準備していなかったので、まずはテチさんと由貴に、それから俺はコン君達の分の準備のために台所に戻り……完成品を居間へと持っていくと、コン君達は手洗いうがいを終わらせて待機していた。


 そんなコン君達のためにテチさんは食べずに待っていて……由貴は何の遠慮もなくトーストにかぶりついている。


 口の周りをハチミツでベタベタにしながらモシャモシャと……扶桑の種には気付いていないようだ。


「今日のトーストにはアレが入っているからね」


 なんてことを言いながら配膳していると『アレ』が何であるかを察したらしいテチさん、コン君、さよりちゃんは一瞬微妙な顔をするが、すぐに立て直し……良い笑顔で手を合わせる。


 そして『いただきます!』と声を上げたならトーストに手を伸ばして食べ始める。


 コン君達もやっぱり口の周りをベトベトにし、テチさんもちょっとだけベトベトにしながら美味しそうに。


 そんな風に10時のおやつタイムで作ったトーストは大好評で……ここから数日、また飽きるまで食べたいとリクエストされることになるが、扶桑の種を入れたのはこの日だけで……何か風味が足りないのか、しばらくの間ハニーナッツトーストを食べる度に三人は、違和感を覚えてか首を傾げることになるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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