久々の
コン君が元気いっぱいにやってきて、いつものように縁側から我が家に入ってきた……その時だった。
玄関で無駄に元気に成長している扶桑の木が揺れる音がし、何かが落下する音がし……そして扶桑の種が縁側へと転がり込んでくる。
ここ最近は大人しかった扶桑の木……その種の暴走を防ぐためにと囲った網をいつのまにか破っていたようで、そこから転がり出てきたようだ。
「あ、こいつ!」
なんて声をコン君が上げて捕まえようとするが扶桑の種は転がることでそれを避けて……フキちゃんのお腹の上に何事だと立っていた由貴の目の前へと進み出る。
由貴に何かするつもりなのかといきり立つコン君とフキちゃん。
そして当の由貴は扶桑の種を両手でガッシリと掴み……何が気に食わなかったのか、体のひねりとこれでもかと活用した物凄い勢いで家の外へとぶん投げる。
「ふしゃーーー!!」
なんて声を上げながら全力で、それはもう物凄い勢いでぶん投げて……投げられた扶桑の種は庭の地面に転がって、ほぼ同時に家に入ってきたさよりちゃんがコン君に手伝ってもらいながらピシャリと窓を閉める。
それらはあっという間の出来事で、何もできないでいた俺はしばらくの間呆然としてから、とりあえず一言、
「手洗いうがいしておいで」
と、声をかける。
するとコン君とさよりちゃんは頷いてから手洗い場に向かい……それから頑張ってくれた皆のためにおやつでも用意するかと台所に向かおうとする。
「え、いや、あれ? さっきのはスルー!?
なんか、なんか種が動いてたのに!?」
するとフキちゃんがそう声を上げてきて……俺は足を止めてからどう返したものかと頭を悩ませ、言葉を返す。
「説明しようにも俺にもよく分かんないんだよね。
色々と仮説はあるんだけど……証明のしようがないというか、動く植物の意図なんて読みようがないからねぇ」
「あ、そんな感じなんだ。
ってことは前から……? 玄関に変な木があるなーとは思ってたけど……。
あ、もしかしてアレって扶桑の木? あー、そっかぁ……扶桑なら仕方ないのかなぁ」
一体どういう思考があったのか、そんなことを言って納得した様子のフキちゃんは、よくやったとばかりにフキちゃんのお腹の上に立って、毛と尻尾を突き立てていた由貴のことをそっと撫でてなだめ始める。
「よしよし、種が動いたら気持ち悪いもんねー。
次からも見かけ次第、捕まえてぶん投げていいからねー」
なんてことを言いながら由貴のことを落ち着かせてから、そっと抱きかかえて居間に移動し、由貴をお気に入りのクッションに座らせてあげる。
それからフキちゃんはこちらに視線をやってきて……まだまだ毛が逆立ち気味の由貴をなだめる何かをと、無言で訴えてくる。
それを受けて俺が改めて台所に向かおうとすると、由貴が一言声を上げる。
「しょば!」
どうやら焼きソバがお望みらしい。
どんな焼きソバにするかなと悩んでいると追撃が。
「テレビでみた、食べたことないウドンのしょば!」
……事情を知らない人が聞いたら何のこっちゃだけども、由貴にとってしょばとは麺類を示す言葉。
基本的には焼きそばを示す言葉なんだけども、パスタも普通のソバもウドンすらも由貴にとってはしょばとなる。
つまりはウドンという麺類を食べてみたいってことなんだろうけども……由貴は普通にウドンを食べたことがある。
今まで何度か普通に食卓に出してきた……少しくたくたになった煮込みウドンなんかを。
お腹を壊したり体調が悪かったりする時、くたくたに煮込んだウドンは食べやすく消化に良いからと出してきたのだけど……今回のリクエストは食べたことのないウドン。
つまりは一般的な……TVCMとかで見かけるつるつるなウドンを食べたいのだろうなぁ。
うぅん……しかしなぁ、由貴の体の小ささで噛めずに飲めちゃうウドンを出すというのは中々不安が残る。
もし喉につまらせたらとか、色々と不安に思うが……まぁ、うん、そこら辺は俺が気を使うことで防ぐことにしよう。
ウドン自体はそう難しくない料理だし、なんとでもなるはずだ。
……ん? いや、どうだろう、そもそも今CMでやっているウドンってどんなウドンなんだ?
「……ちなみにだけど、由貴はどんなウドンが食べたいの? 何か面白いCMやっていたっけ?」
足を止めて振り返りながらそう言うと、由貴ではなくフキちゃんが言葉を返してくる。
「えーっと、確か今CMでやってるのは、ヒモカワってやつだったよ。
おろしヒモカワウドン、すっごいペラペラのでー、具材たっぷりのやつ」
瞬間足が止まる。
普通のウドンならスーパーにいけば売っているだろうけど、ヒモカワウドン? ヒモカワって……そこらで売っていたっけ??
……もしかして麺から作る感じになる、のかな?
そう考えて俺はスマホを取り出し、CMの検索を始める。
すると動画サイトにアップロードされたCMが出てきて……うん、しっかりとヒモカワウドンだなぁ。
大根おろしと青唐辛子、それと甘めに似た豚肉って感じだろうか?
具材はなんとでもなる……由貴に唐辛子はまだ早いけども、代わりに天プラでも用意したら由貴は満足してくれることだろう。
具はなんとでもなるけども……麺はどうしたもんだ、これ。
スーパーに電話して在庫がなければ自分で作ることになる……のかな。
今までやったことはなかったけども……うぅん、愛娘が望むのならやるしかないのかな。
麺の材料自体はちゃんとあるし……なんとかなると言えばなるか。
そんな事を考えて覚悟を決めた俺が台所に向かうと、いつの間にか割烹着に着替えていたらしいコン君とさよりちゃんも後に続いてくれる。
どうやら俺が麺作りをすると察しているようで、その目は輝きワクワクとしている。
これはもうやるしかないんだろうなぁ。
とりあえずスマホでウドンの作り方を調べ直したなら……材料と道具を揃えての麺作りに挑むのだった。
お読みいただきありがとうございました。




