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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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初夏


 ついに由貴が乳離れをした。


 いや、だいぶ前から離乳食や普通の食事をしていたんだけども、それでも時たま……テチさんに甘えたい時は授乳をしていたのだけど……自立が進んできたのか、そこまで甘えることも授乳を求めることもなくなったようだ。


 それと畑によく出かけるようになり、畑で働く皆と遊ぶようになり……お友達が出来始めたことで『皆の先生』であるテチさんに甘えるのを恥ずかしく思うようになったのも、乳離れの理由なのかもしれない。


 畑に行き始めた当初は甘えていたのだけど、他の皆が甘えたりしないことや、由貴のことを微笑ましく見守る様子を見て、恥ずかしさを覚えたようで……既に由貴にはしっかりとした人格が芽生え始めているようだ。


 それを嬉しく思うと同時に獣人の成長速度の早さに驚き、少しだけ寂しくもなった……のだけども、テチさんに甘えなくなった分だけ、俺に甘えてくれるようになったという嬉しい変化も起きてくれた。


 テチさんと一緒に出かけて帰ってきて、手洗いうがいを済ませたなら俺の背中に張り付いたり頭に張り付いたり……エプロンの中に潜り込んでみたりと、積極的に近寄ってきてくれる。


 料理にも興味があるのか、俺が料理をしている時には特に楽しそうで……あれこれと料理に関する質問もしてくれるようになった。


「ぱーぱ、これおいしい?」

「なんでそれいれるの?」

「そのままたべちゃだめ?」

「なんでじゅーじゅーすると、いろがかわるの?」


 と、そんな具合に。

 

 まだまだ料理をさせる訳にはいかないし、質問の答えもしっかり覚えられてはいないようだけど、興味を持ってくれることは嬉しいので、俺なりに真剣に答えていくことにした。


 テチさんは、そんな説明してもまだ分かる訳がないと笑っていたけども……変にごまかすよりは真剣に答えてやって、由貴の興味を少しでも引き出せたらなと思う。


 あとはまぁ、俺も結構小さい頃のことを……曾祖父ちゃんとのことを覚えているものなので、きっと由貴の中にも残り続ける何かがあるはずだ。


 今まで俺の背中や肩はコン君専用席だったのだけど、由貴がそうするようになってからはコン君も自重気味だったりするけども、たまに2人でふざけ合いながら乗っかってきたりもするので、それはそれで楽しかったりする。


 流石に2人となると腰とか肩は痛むけども……人間の子供に比べればうんと軽いのだから文句を言ってはいけないんだろうなぁ。


 そんな風に日々が過ぎて蝉の声がし始めた頃「やっほー!」なんて元気な声と共に、猫獣人のフキちゃんが縁側に駆け込んでくる。


 半袖のフリル付きシャツにハーフパンツ、夏らしいと言えば夏らしい格好でガラス戸を開けたフキちゃんは、クーラーの効いた我が家に入るなり、縁側に寝転がり……窓を閉めながらだらける。


 最近のフキちゃんはこんな感じで遊びに来ることが増えた。


 なんでも牧場は今、放牧シーズンとかで……結構な家畜を山の中に放っているので、仕事が減っているらしい。


 こんな森の中で放牧しても大丈夫なの? と、心配になるけども、日本各地で結構やっている手法らしく、長森牧場でも毎年やっていることなので問題はないらしい。


 毒草なんかは事前に駆除してあるし、誰の家畜かを示すタグをつけてあるし……なんならGPSタグみたいなものも仕込まれているらしい。


 どこに? どうやって? とかは企業秘密だそうで……まぁ、それはそうか。


 そこら辺が知れ渡ったら盗難対策にならないもんなぁ。


 で、暇なら暇で色々と仕事があるはずなのだけど、そこら辺はきっちり終わらせているらしい。


 事務仕事や保存食作り、チーズやら何やらの作業もきっちりやっていて……その上でのだらけモードという訳だ。


 では何故わざわざ我が家に来るのか? その答えは簡単で、長森さんがクーラー嫌いだから……らしい。


 事務所にも部屋にもあるにはあるけど古く、つけっぱなしでは怒られるので、最新のエアコンを設置している我が家まで遊びに来ているらしい。


 逆に我が家はしっかりクーラーを使う派だ。


 暑い日にはつけっぱなしにすることも多く……大工のタケさん達がその前提で部屋作りをしてくれていて、電気代もそこまでかからず快適なクーラー生活を楽しむことが出来る。


 断熱材とかがしっかり使ってあるし、廊下の途中にクーラーの冷気を逃さないための断熱カーテンなどもあって、空気の通りとかもしっかり計算してくれた作りになっているらしい。


 そんな我が家にフキちゃんが遊びに来るのは特に問題はない……迷惑でもないし、何より由貴が喜んでくれるので全く文句なしだ。


「フキちゃーん!」


 だらけたフキちゃんを見つけた由貴がフキちゃんの下へと駆けていく。


 掃除をしていた俺の手伝いということで、小さなはたきを持たせてあげていたのでそれを振り回しながら。


 するとフキちゃんは寝転がりながら、なんとも慣れた様子でまずはたきをしっかり握って自分に振るわれるのを防止した上で、由貴を持ち上げて……寝転がったまま由貴を振り回し、構い始める。


 由貴が言う所の飛行機ごっこをそうやってたっぷり楽しんだなら……抱き合ったりくすぐり合ったりとじゃれ始める。


 そうやってはしゃぎにはしゃいだなら、まずフキちゃんがダウンする。


 疲れてぐったりとし……由貴はそんなフキちゃんの上に手足をピンと伸ばして寝転がる。


 そして二人でにゃんにゃんと声を上げ始める。


 フキちゃんは猫獣人として、由貴はそれを真似る形で。


 会話しているのか、ただ声を上げているだけなのか、よく分からない形でのコミュニケーションが行われ……一通りそれをやったなら、ほぼ同じタイミングですやすやと寝息を立ててのお昼寝タイムとなる。


 それを受けて俺とテチさんは同時に立ち上がり……テチさんは座布団を丸めて枕を作り、俺はタオルケットを用意し……二人が昼寝をしやすい環境を、起こしてしまわないようにそっと作り上げていく。


 すっかりと慣れた手際で、ここ最近毎日繰り返してきた作業を行い……それが終わったら居間に戻り、静かに過ごす。


 テレビも見られないし、会話も出来ないのだけど、そうやって幸せそうに眠る二人を見やる時間は中々悪くないもので……そんな時間は元気いっぱい力いっぱいの声を上げる、コン君達の襲来まで続くことになるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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