クラブケーキ
「ナポリタン美味しかった! えっと、イタリアの料理だっけ?」
ナポリタンを食べ終えて、口の周りの毛についたケチャップを拭きながら、コン君がそんなことを言ってくる。
「いやいや、ナポリタンは日本の料理だよ。
イタリアとかパスタの本場はトマトソースを使うのがメインで、こういった料理はしないみたいだね。
向こうでは邪道とか言われちゃうんじゃないかな?」
俺がそう返すとコン君は目を丸くしてから……自分のメモ帳をチェックしながら言葉を返してくる。
「そっかぁ、ナポリタンは日本の料理でー……にーちゃんは結構いろんな国の料理作ってくれるよね。
えっと……にーちゃんにとって一番の料理がナポリタンで、じゃー世界ではどれなんだろ?」
「それはまた……難しい質問だねぇ。
世界は日本と比べ物にならないくらいに広くて、色々な人がいるから好みも色々だからねぇ……」
「にーちゃんにとってそれぞれの国で美味しい料理は?」
「んえ? えー……どうだろ、えー……難しい質問だなぁ。
イタリアは……良いチーズのピザかな、フランスは料理ではないけどデミグラスソースで……アメリカ、アメリカはなんだろうなぁ。
チリコンカンも結構好きなんだけど、クラムチャウダー……バーベキュー……いや、あれかな、クラブケーキかな」
「ケーキ? クラブの? 運動とかする人向け?」
そう言ってコン君が首を傾げると、隣で黙って様子を見守っていたさよりちゃんが声を上げる。
「きっとカニのことですよ、カニのことをクラブって言うんです」
「カニケーキ……? カニのケーキ!?」
多分コン君は甘いケーキを想像しているのだろう、驚き困惑しながら何度もそう言ってこちらを見てくる。
「ケーキっていうかコロッケとかに近いかな。
日本で食べられる料理の中で近いのはカニクリームコロッケになるかな、結構違うけども」
「へぇ~~~、カニのコロッケなら美味しいかも!
どんな感じに違うの?」
「……とにかくカニの比率が多いかな。
レシピは色々あるんだけど、ほとんどカニだけで作るレシピもあるくらいで、カニの味をガツンと楽しめる料理だね。
カニの身を具材やらと合わせて固めて焼いたのや、一旦冷凍して固めて衣をつけて揚げるコロッケ的なのもあって……衣付きのはオランデーソース、卵とバター、レモン果汁を合わせて作ったソースをかけて食べるんだ。
ソースも美味しいんだけど、衣の中に詰まったカニの旨味も美味しくて……アメリカはカニ漁が盛んだから、驚くくらいの量のカニを使った料理をするもんだから、インパクト抜群の味になるんだよ」
なんてことを言いながら頭の中でレシピを組み立てていく。
これは今日か明日には作らないといけないんだろうなぁという確信があり……衣ありのコロッケレシピの方が良いかもしれない。
衣なしもそれはそれで美味しいのだけど、味が強くなりすぎたり香りが強くなりすぎたりで、好みが分かれる出来になりがちだ。
一回でも揚げているとそれが緩和されて、衣にソースが絡むのもあってすごく食べやすくなる上に、美味しくなるのだからコロッケ型のが良いだろう。
そして足りない材料は何か、どれをどれだけ買い出しすべきかと頭の中で整理していると……メモ帳に新たな1ページを書き込んだコン君が、食欲満点の視線をこちらに向けてくる。
コン君だけでなくさよりちゃんもテチさんまでも向けてくる。
何ならテチさんに抱っこされながらナポリタンを食べてお腹を膨らませている由貴までが向けてくる。
「……今食べたばっかりなんだから流石に今すぐは無理だよ。
多少の手間がかかるから、もうちょっとしたら買い物に出かけて、それから下拵えをして……少し遅めの夕食くらいになるかな」
俺がそう言うと皆は頷き……それから庭に出ての運動を始める。
……食欲魔人達が夕食まで腹を空かせる気だ、限界まで腹を空かせて食欲を高める気だ。
それを見て戦慄した俺は、車に向かい買い出しに出かける。
買い出しを終えて帰ってきたなら、手洗いうがいをし早速料理開始だ。
まずはボウルにカニの身をたっぷり……驚く程の量をほぐして入れる。
それからパセリ、タマネギ、セロリを刻んで入れて、パン粉と薄力粉を入れる。
更にクレイジーソルト、バター、ウスターソースに白ワイン、粒マスタードと溶き卵を入れたらよーくかき混ぜてから丸く成形してから冷凍庫に。
しっかり冷凍したら小麦粉をまぶし溶き卵につけてパン粉を衣にしたら強火でカリッと揚げる。
中にじっくり火を通す必要はないので強火で一気に、衣をしっかりと揚げて……刻みキャベツいっぱいの皿に乗せたなら、食べる直前にかけるオランデーソースを用意して完成。
あとはこれを皿に山盛りにして、炊きたてご飯と一緒に居間に持っていけばごちそうタイムだ。
由貴を含む食欲魔人達が「いただきます!」と声を上げながら口に運び……噛んだ瞬間目を輝かせる。
カニの旨味の暴力を味わっているのだろう、臭みやクセのある部分は揚げたことで上手く中和されていて、ソースの滑らかさも相性が良いはず。
ソースがカニクリームコロッケのクリーム部分を担当しているという感じなのだけど、カニクリームコロッケに比べて多すぎるくらいの圧倒的なカニの量なので、とにかくインパクトが凄まじい。
そして皆無言でバリバリと食べ進めていく……そんな光景を見て満足した俺はあえて着席せず、すぐにおかわりを揚げるため台所に戻る。
今日はもう止まらないだろう、何しろ俺が料理や家事をする間、ずっと……ほとんど休みなしで体を動かしていたのだから止まらないだろう。
揚げて揚げて何個も揚げて……皿に積み上がったら持って行く。
その全部が驚く程の量のカニの身を使っている……皆には良いものを食べて欲しいので全部国産。
流石に冷凍だったけどもスーパーにあるのを全部買い占めてしまった。
……いやぁ、過去最高金額の夕食になったなぁ……。
……うん、この料理はしばらく封印だね、これがクセになってしまうと我が家の財政が破綻する。
そんな感じで揚げに揚げて……皆のお腹が落ち着いたのを見計らってようやく、俺の夕食タイムが開始となるのだった。
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