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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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脂身ハム


 由貴が畑で働くようになって数日が経ったある日のこと。


 雨模様ということで今日は由貴もテチさんもお休みで、皆で家でゆっくり過ごすことになり、特に何をする訳でもなく、テレビを眺めながらのぼんやりとした時間を過ごしていると、雨水を元気よく蹴る誰かの足音が響いてくる。


 いつもであればコン君達が来たと思う所だけど、既にコン君もさよりちゃんも遊びに来ていて……一体全体誰が来たやらと思っていると、縁側からレインコート姿の女の子が乗り込んでくる。


 それは牧場の跡取り娘で猫獣人のフキちゃんだった。


 縁側から家の中にやってくるなりレインコートを脱ぎ、縁側にある雨具かけに吊るし……それから手洗いうがいを済ませてから居間にやってきて両手を広げて、


「由貴ちゃん!」


 と、声をかけると名前を呼ばれた由貴が跳び上がって、抱きつき……そこから二人のじゃれつきタイムが始まる。


 時たま遊びに来るフキちゃんは、由貴にとっては遊んでくれるお姉さんといった感じの相手で……可愛いもの好きのフキちゃんにとって由貴は、その顔を見ているだけで頬が緩む相手で……なんだかんだと仲の良い二人は、よくそうやって遊んでいた。


 今日もまた由貴と遊ぶために来てくれたのかなと、そんなことを考えていると、由貴のことを抱きしめながらフキちゃんが声をかけてくる。


「実椋さん実椋さん、豚の脂身って何か使い道ねーです?

 お肉売ってると結構余っちゃうっていうか持て余しちゃって……買い取ってくれるとこもあるんだけど、買い叩きされるんで嫌なんですよー」


「脂身? 脂身かぁ……。

 どこの国だったかはサイコロ状にして揚げてカリカリにして食べているみたいだけど……。

 他の食べ方で思いつくのは……脂身ハムかな?」


「ハム? ハムになっちゃうの? 脂身が?」


「まぁ、想像しているハムとは全然違うだろうけど、似た仕上がりにはなったはずだよ。

 そのまま食べても良いし、料理に使っても良いし……ある程度保存が効くから、無理に叩き売りするくらいなら、ハムにして加工食品として売るのも良いかもね」


 俺がそう言うとフキちゃんはニッカリと笑って、すぐにスマホを取り出し電話を始める。


 おそらくは長森牧場に電話しているのだろう、そして脂身ハムを作る話をおじいさんにしているのだろう……行動早いなぁと苦笑いしながら俺は、スマホでレシピを調べておく。


 そして翌日、結構な量の豚の背脂が届き、それでもってハムを作ることになった。


 ……けども、熟成の関係上、1日で出来るようなものではないので、一週間以上をかけての調理となった。


 まずは背脂を適当な大きさに切り分けて、塩を刷り込んで冷蔵庫に入れての乾燥熟成。


 3日経ったなら塩抜きをするのだけど、ここで軽く煮てしまうことにする。


 本当のレシピではそんなことはしないのだけど、これは市販を念頭に置いているので、念の為の加熱殺菌だ。


 10分以上煮込んだら取り出して、キッチンペーパーで水気を拭き取ってからまた冷蔵庫乾燥。


 1日経ってしっかり乾燥したなら、塩とスパイスを塗り込んでいく。


 胡椒、オレガノ、ローズマリー、ナツメグ、ピメントを塗り込んだらまた冷蔵庫で一週間乾燥熟成。


 これが終わったら食べても良いのだけど……更に燻製しても良いので、燻製もしてしまう。


 サクラチップでじっくりしっかり燻製したなら……完成、脂身ハムの出来上がりだ。


「よし、これで出来上がりだよ。

 普通はスライスして、加熱して食べる感じかな……熟成した旨味とスパイスのおかげで、普通のラードにはない食べ応えがある感じだねぇ」


 台所で出来上がった脂身ハムを、ステンレストレーの上に並べながらそんな声を上げると、エプロン姿のフキちゃんが興味津々といった様子で顔を近付けて、鼻をすんすん鳴らす。


「……味見出来ちゃいますー?」


「なら居間で待っていて、テチさん達もそのつもりで待機しているから」


 と、俺がそう言うとフキちゃんは居間へ、いつもの椅子のコン君達はまだまだ見学モードのようで……脂身ハム料理をいくつか仕上げていく。


 と言ってもやることはシンプルだ。


 まず薄切りを焼く。


 脂身ハムは塩漬けしたことにより、融点が下がっているらしいので、あっさりと溶けてくれるので、溶け始めたらお皿に。


 次にトースト。


 オーブンでしっかり焼いたバケットの上に脂身ハムをしいて、砕いたクルミをふりかけ、最後にハチミツ。


 そしてご飯。


 炊きたてご飯にサイコロ状に切った脂身ハム、そして醤油を垂らしたら完成で……完成した品々を居間へと持っていき、皆で手を合わせて「いただきます」と声を上げての試食タイムだ。


 まずはそのまま食べてみる。


 食べた印象としては生ハムの脂の部分なんだけど、熟成とスパイスのおかげで更に旨味が追加されたような味があり……食感は柔らかめのグミのようでもある。


 そしてトースト。


 抜群に美味い、上等なバターというかスパイスバターというか……普通のバターよりも明らかに旨味が強いし、燻製の香りもたまらない。


 ナッツとハチミツの相性も悪くなく……うぅん、かなり美味しい。


 最後に脂身ハム丼。


 これが予想以上に美味しかった。


 ただのラードなら飽きてしまうのだろうけど、旨味が多いしスパイスと燻製の香りが飽きを遠ざけてくれていて……どんどん食べられてしまう。


 口の中で溶けた脂身とご飯を飲み下す時のするっとした感触もたまらないし……いくらでも食べることが出来ちゃいそうだ。


「……まぁ、脂身だからカロリーはやばいんだけどね。

 獣人の皆は良いけど、俺はたまにしか食べられないかな」


 と、俺がそう言うとテチさんとフキちゃんの手が止まる。

 

 ……が、テチさんは構うことなく食事を再開させ、フキちゃんもテチさんよりは悩んだけども、結局は再開させて食べ進めていく。


 まぁ今回はただの試食、量も多くはないし、そこまで気にする必要はないだろう……と、思っていたんだけども、コン君達を含めた全員が、食べたりないという顔をし始める。


「……え、いや、流石にただの脂身ハム丼をお代わりは飽きるでしょ? 2杯目はきついでしょ? 1杯は美味しくいただけるだろうけど、何かおかずがないと……」


 俺がそう言って止めるが、食欲獣人達は表情を変えることなく……仕方なく俺は台所に向かって、何か適当なおかずとサラダと味噌汁と、おかわりの脂身ハム丼の大盛りを用意するのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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