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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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少しずつ


「ちょぁ~~~!」


 買ったばかりの、子供用の小さな棒を構えた由貴がそんな声を上げながら棒の先端で地面を叩く。


 その反動でもって棒を構え直すという、映画でよく見るけど意図は分からない行動を取ったなら、タタッと駆け出し、目の前で野球用グローブを手にはめたテチさんへと駆けていく。


 そして棒を振るう、テチさんはそれをグローブで受け止めるなり受け流すなりし……由貴に棒の使い方を教えているようだ。


 虫退治を教えると言っても、いきなり木に登らせたり虫を退治させたりする訳ではないらしく、まずは棒の使い方から、それから虫退治のいろはを教えるなど、順序があるようだ。


 そして今は棒の使い方で……まだまだ小さい、身長40cmあるかないかの由貴が、10cmほどの棒を振り回している。


 しかしその威力は十分なもののようで、少なくともテチさんが素手で受けるのを嫌がる程度のものではあるようだ。


 狩猟なんて出来る訳もないが、小さな虫くらいならなんとかなりそうで……働けると言えば働けるのかもしれないなぁ。


 今日の畑仕事はお休みの日、他に働いている子供達の姿はないが、畑の様子を自主的に見に来てくれていたり、ただ森林浴に来てくれていたりで、ちらほらと子供達の姿がある。


 そんな子供達も由貴の様子には興味津々のようで……余計な邪魔をしないようにしながらも、応援したりアドバイスしたりと、元気な声を上げてくれている。


 もちろんコン君とさよりちゃんも応援してくれていて……栗畑は結構な賑やかさに包まれていた。


 俺も応援しても良かったのだけど……買い物ついでに寄ったスーパーでテチさん達があれこれと食材を買い込んでいて、これで何かを作って欲しいとの無言の圧を受けたので、素直に調理担当となっている。


 と、言っても事前準備が出来ていなかったので、そこまでこだわった料理にするつもりはない。


 簡単にここでも作れて皆で食べられる……子供達と由貴が喜んでくれるだろう焼きソバにするつもりだ。


 由貴も子供達も大好物で、簡単美味しく栄養バランスも悪くない。


 そういう訳で焼きソバの準備を進めていると、由貴の元気いっぱいな声が響いてくる。


「ちょぁ~~~、ちゃぁ~~~、ちゃちゃちゃ~~~!!」


 由貴なりに映画の掛け声を真似ているのだろう、どこかで聞いたことがあるような、無いようなそんな声で……あんまりにも元気なものだから気になって作業を中断させて視線をやると、本当に元気いっぱい暴れまわっている由貴の姿が視界に入り込む。


 棒をただ武器として使うだけでなく、棒を地面に突き立てて棒高跳びの要領で飛び上がろうとしたり、突き立てた棒を軸にしての回転蹴りをしようとしたり、本当に元気いっぱいだ。


 ただし棒高跳びの際には棒を手放しての、綺麗な棒高跳びをしてしまって武器を失い、回転蹴りの際には棒が固定されていないものだから倒れてしまって、全然回転蹴りになってくれないと失敗続きだ。


「ぶーーーー!!」


 そうして不満の声を上げる由貴、するとテチさんがそっと由貴の方へと手を伸ばし、由貴にどうしたら良かったのかを教えていく。


 棒高跳びの際はジャンプ攻撃と言うよりも、棒を中心にした回転攻撃にすると良いと、由貴の体を持ち上げて実演させてやり、回転蹴りもできるだけ早く……映画みたいに何度も何度も回転するのではなく、一撃だけを放つつもりでやってみろとこれもまた実演させてやる。


 すると由貴は流石の運動神経でもってどうしたら良いのかを完璧に把握し、今度はテチさんの補助なしで見事に棒を軸にしての攻撃を成功させる。


「ちゃぁぁーーーー!!」


 成功したなら棒を片腕でもって脇に挟んで、もう片方の腕を前に突き出して見事なポーズを決めながらの雄叫び。


 可愛い盛りの女の子としてはどうなのかと思わないでもないけど、本人が嬉しそうなので良しとしておこう。


 ちなみにその姿はさよりちゃんがスマホ撮影してくれていて……この動画もまた後で、お互いの実家に送信される予定だ。

 

 お互いの両親にとっては可愛い孫の姿、100%絶対に喜んで、凄まじい量のメッセージを送ってくるに違いない。


 最近では由貴が文字を読めないからとビデオメッセージやボイスメッセージを送ってくる始末で……溺愛っぷりが凄まじい。


 まぁ、悪いことではないのだろう……中々会えない両親にとって由貴の動画はかなり嬉しいものとなっているようだし、科学のおかげと言うか何と言うかだなぁ。


 ちなみにうちの両親は、以前の来訪から帰宅した直後にまたこちらに来たいとの申請を出したようだ。


 孫に会いたくて会いたくてたまらないと出してしまったようで……花応院さんは困ってしまっていたが、一応対応をしてくれているようだ。


 更に花応院さんはある計画……花応院さん達が管理するある地域への、テチさん達の外出の許可取りなんかも進めてくれていて……両親が由貴に会える機会は、それなりにあるのだろうと思う。


 色々なことが前に進んでいる……人と獣人のハーフである由貴の存在も、由貴が成人後、本人が望んだならあちらで公開されるそうだ。


 そうやって少しずつ垣根を取り除いていく……今すぐにではなく、何世代か後に融和出来るようにしていく、というのが花応院さんの計画らしい。


 まぁ、それはそうか……今すぐにというのも難しいか。


 焦らずゆっくり……とか言いながら、花応院さんは人間と獣人のお見合いなんかも、密かに企んでいるらしい。


 んな無茶苦茶なこと本当に出来るのかな? なんてことを思ってしまうけども、完全な無茶でもない……らしい?


 たとえばあのホテル辺りに滞在しているらしい駐在員とか、外交官、色々な品物の売り買いに関わっているらしい商社の人、門で働いている人達など、なんらかの形で獣人と接点がある人の中で希望する者に限る……とかなんとかで、前向きに参加を検討している人も何人かいるらしい。


 なんなら獣人側にも参加を希望している人がいるらしい……と、言うかひっそりと良い仲のカップルも存在しているらしい。

 

 ただ俺のようにこちらに戸籍がある人達ではないので、正式な結婚とかは難しいようで……どうやらお見合いはそのための理由作りになるようだ。


 今の段階でお付き合いとかはやっちゃいけないことなので、お見合いで意気投合して結婚しましたという言い訳を用意してあげるという感じだ。


 もちろん普通にというか、元々の意味でのお見合い効果も期待してのことで……そちらはそう遠くないうちに実現する、とかなんとか。


 と、そんなことを考えながら作業を進めていった俺は、野菜とお肉たっぷりの、梅肉と砕き入りクルミ入りの、山盛り焼きソバを完成させて、見学の子供達を含めた人数分の盛り付けを始めるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
実椋君みたいなお料理上手の旦那さんが良い!とか思ってる獣人さんが結構いるかもですね。 失望しないと良いですけどw
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