表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

456/498

カンフー娘


「ちょぁ!」


 そう声を上げた由貴が拳を突き出すと、テチさんが手の平でそれを受け止める。


「よし、良いぞ!」


 同時にそんな声をテチさんが返すと由貴は嬉しそうに「ちょぁちょぁ」と拳を放つ。


 最近由貴は映画を見ることにハマっている……丸顔のパンヒーローは飽きてしまったのか、あまり見なくなり、その代わりに映画……特にアクション映画がお気に入りだ。


 それもワイヤーアクションとかをガンガン使う派手めの映画が好きで、地味な映画はあまりお好みではない。


 どうしてかと言うと、ワイヤーアクション的な派手なアクションでも獣人の身体能力なら素で再現可能だったりする訳で、派手なアクション映画を見ては、その真似をして遊び回るのが大好きだからだ。


 そんな中、地味めの映画も全く見ないという訳ではなく、地味な中でのお気に入りは俗に言うカンフー映画だ。


 それも古めの、俺が生まれる前とか子供の頃の映画がお好みで……今はそれを真似をしてのカンフーごっこに興じている。


 服はカンフー服……映画とかでよく見るアレを真似して俺とテチさんで作ったものを着ている。


 女性物ではなく男物がお気に入りで、今は真っ白なカンフー服でパンチの練習中だ。


 他にも黄色いツナギだったり、女性用チャイナドレスもどきみたいなのもあるんだけども、今はカンフー服がお気に入りらしい。


 いずれは由貴も畑で働くようになる……棒を使った虫退治をするようになる。


 護身術的な意味でも戦い方を覚えておくことは悪いことではなく……そういう訳でテチさんは、ノリノリで由貴のカンフーごっこに付き合っていた。


 俺はそんな由貴のことをスマホで撮影し、コン君とさよりちゃんは由貴お気に入りの映画を夢中で見ていて……きっと見終わったならコン君達もごっこに参加するんだろうなぁ。


 ちっちゃな足を大きく振り上げて踏み込んで、小さな拳を懸命に突き出す。


 映画を真似をしているだけにしては、中々堂に入った構えが出来ていて……テチさんの手の平に拳が当たる度にペシペシと良い音がしていることから、中々の威力を出せているらしい。


 ……しかしまさかカンフーごっこか、いや、俺もカンフー映画は好きだから良いんだけど、予想外にも程があったなぁ。


 女の子ならもっと魔法少女的なアレとか、そうじゃないにしても今放送中の戦隊モノととかなら分かるんだけど、まさかが過ぎるなぁ。


 まぁ、由貴が好きなのだから、それは尊重してあげるべきなのだろう。


「ちょー……あ~!」


 先程とはまた違った声を上げた由貴が綺麗な蹴りを放つ。


 しっかり足を上げて勢いよく……と、言っても足が短い関係でどうしても不格好になってしまうが、しかし本人は得意げで、それを受けるテチさんも満足そうだ。


 しかしどうしてもヒット位置が低くなってしまい……その点だけは不満だったらしい由貴は、テテテッと駆けてテチさんから距離を取り……それから勢いよく駆け出し、


「ちゃぁ!」


 との掛け声と共に跳び上がっての綺麗な飛び蹴りを放つ。


 テチさんはそれを手の平で受けると同時に、軽く押し返してやり、由貴はそれを受けて空中に飛び上がり……クルッと尻尾を振り回しながら回転し、なんとも華麗なこれまた映画でよく見るヒーロー着地を決める。


 由貴の腕と足の長さだとだいぶきついだろうに、それでもあえてポーズを決めて……そこで俺が撮影終了ボタン押すと、なんとも満足げな顔を上げて、鼻息をふんすふんすと吐き出す。


 この撮影はうちの両親やテチさんの両親に送るためでもあるのだけど、それと同時に由貴のための撮影でもあり……由貴にとってはスマホが映画カメラという訳だ。


 撮影が終わったならお互いの両親に送り……送り終わったなら次々届く感想返信を無視しながら、由貴に使わせてあげているタブレットにも動画を送信する。


 それからタブレットを専用スタンドに立てかけてあげて、それから動画を再生。


 タブレットの前に座った由貴にとってはそれが映画のスクリーンで、つい先程の光景が流れ始める。


 由貴によるアクションシーンは、中々派手で、画面の中を元気いっぱい暴れまわっている。


 そしてシメのヒーロー着地が決まったなら大満足、自分で拍手をして……振り返って俺達にも拍手を求めてきて、皆が拍手をすると更に大満足。


 と、同時に、ぐぅーっとお腹が声を上げ……俺は笑いながら立ち上がり、台所に向かう。


 こういった運動後におやつを出すのは定番になっているのだけど、最近の由貴はあるものしか受け取ってくれないので、作り溜めしておいたそれを蒸し器で蒸し直してから、お皿に乗せて居間へと持っていく。


 それは小籠包サイズの中華まんだった。


 つまりは由貴用のもので……中身は出来る限り以前の海鮮まんに寄せたものとなっている。


 以前食べたものが美味しかったというのもあるようなのだけど、何より映画の中でよく登場するというのが、由貴が中華まんを気に入っている理由で……それを両手で持ってもふもふ食べるのが最近の由貴のおやつタイムだった。


 居間に持っていくと、由貴はまずお気に入りのカンフー服を脱いで、由貴なりに丁寧に畳んでから、テチさんが用意したアルコールティッシュで手を拭き、それから中華まんを持ち上げ……ふーふーと息を吹き付ける。


 今日まで何度も食べてきたこともあって、中身が熱いということはよく知っている。


 まずそうやって冷まし、手で皮を割いてからまた冷まし……それからゆっくりゆっくり食べていく。


 由貴の理想としては映画の中の主人公達のように片手でぐわっと鷲掴みにしてガブッと食べたいらしいが……流石に由貴の手の平サイズの中華まんを美味しく作るというのは、素人の俺では難しく、小籠包サイズで我慢してもらっている。


 その分、具はしっかり入っていて……目を細めて嬉しそうに食べているのを見ると、今日もしっかりと美味しく出来たようだ。


 そんな由貴を微笑ましい気分で眺めていると……テチさんが唐突に口を開く。


「そろそろ由貴に畑の仕事を教え始めても良いかもしれないな。

 棒の扱い方を教えるついでに虫退治……由貴の元気さなら出来るだろう。

 由貴も畑で悪いもの退治してみたいよな?」


 すると言葉をある程度覚えてきた由貴は、中華まんをもふもふ食べながら目を輝かせ、コクコクと頷いてみせて……コン君とさよりちゃんもそろそろ行った方が良いとか、そんなことを言い始める。


 俺としてはまだまだそんなこと早いだろうと思ってしまうのだけど……幼い頃から働く獣人ならではのことなのだろうと、特に反対はせずテチさんに任せることにする。


 何しろテチさんはその道のプロだからなぁ、素人かつ獣人への理解が足りない俺があれこれ言うべきではないだろう。


 そうして由貴のお仕事デビューが正式に決まり……まずはそのための武器、由貴のための棒を手に入れようということになり、おやつの後は皆で買い物に出かけることになったのだった。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
どこぞのタヌキさんに地下牢に繋がれてもらいましょうw フキちゃんには蛇意八歩あたりを練習しといてもらいましょ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ