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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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エビ


「エビの王様と言えばロブスター……ではなく伊勢海老だろうねぇ」


 翌日、家事を終えての昼食前の時間、居間でスマホをいじり、通販の注文をしながらそんな声を上げると、由貴に抱きつかれた頭を左右に振って、由貴をあやしてくれていたコン君が言葉を返してくる。


「伊勢海老ってそんな美味しいの? おっきいエビだよね?」


「うん、大きくて肉厚、食べ応えがあってそれだけでも美味しいんだけど……伊勢海老は伊勢海老独特の風味があるんだよね。

 カニにも他のエビにもない、伊勢海老だけの風味で……爽やかっていうか何て言うか、食べた瞬間ハッキリと分かるその特徴が、伊勢海老が愛されている理由の一つだね」


「へぇー……そうなんだ。

 それってどんな料理にしても美味しいの?」


「うん、そうだね……焼いても煮ても、味噌汁にしても風味が出てくるよ。

 料理し終わった後の殻だけでもしっかり出てくるからねぇ……和食に限らず洋食にしても美味しくて、チーズなんかとの相性も悪くないね。

 ただスパイスとかを使いすぎるとせっかくの風味がなくなるから、そういうのには向かないかなぁ……そういう料理するなら他のエビでも良いって感じで」


「なるほどー……えっと、お高いんだよね? 中々食べられない感じ?」


 と、コン君は少しだけ遠慮気味に言ってくる。


 たしかに伊勢海老は安くないけども……たまに食べるくらいならまぁ、いけなくはないくらいの値段だ。


 それにコン君は由貴の面倒を見てくれているし……結構な頻度で狩猟肉を分けてくれてもいるし、このくらいはそれらのお礼の範疇だろう。


 という訳で人数分の冷凍伊勢海老を注文し、注文完了画面をコン君に見せる。


 するとコン君はぱぁっと顔を輝かせて「あははは!」と嬉しそうに笑いながら由貴のことを構いまくる。


 余程に嬉しいらしく、その高いテンションはしばらく続き……由貴が疲れたからと自分でベッドに戻った辺りで我に返り、また声をかけてくる。


「ロブスターはどうなの? ロブスターも独特の風味する? 伊勢海老のが王様だから伊勢海老よりは美味しくない?」


「ロブスターはエビっぽい見た目なんだけど、ザリガニの仲間でね、そういう意味ではエビの王様は伊勢海老になるかな。

 味としては……伊勢海老とは全く違う味になるね。たんぱくな味だけども旨味が強くて、料理に向いた味をしているって感じかな。

 伊勢海老とロブスターはどっちが美味しいとかじゃなくて好みの問題って感じなんだけども……俺は伊勢海老が好きかな。

 まぁ、日本だと天然ものが手に入っちゃうから、輸入がメインのロブスターとはどうしても味の差が出ちゃうよね」


「へーへーへー……にーちゃんがたまにエビを焼いて出してくれるけど、アレより美味しいのかな?」


「あー……車海老とかブラックタイガーの串焼きかな?

 あれよりはうんと美味しいだろうねぇ……いや、車海老やブラックタイガーも悪くないんだけどさ」


「うん、オレあれ好き!!

 でもそっかー、アレより美味しいのかぁ……ゲームみたいに焼いたやつのバリッって食べたい! バリッって!」


 と、コン君がそう言ってくれる串焼きは、その名の通りエビを串にさして魚焼きグリルで焼いただけのものだ。


 味付けも軽く塩を振るだけで、あとは焼き立てのエビの美味しさのみを堪能するものとなっている。


 焼き立てで熱いアレを殻を剥きながら食べるのが、カニの食事に似ていて中々楽しいのだけど、コン君やテチさん達は殻のまま、頭も尻尾もそのままで串から外しながら食べてしまう。


 バリバリと良い音をさせながら何の躊躇もなく……しかもそれがコン君達には美味しいらしい。


 一度気を利かせて綺麗に殻を向いた状態で出したこともあったのだけど、物足りないと言われてしまっていて……コン君達的には殻もエビの味の大事な要素であるらしい。


 そんな風に殻を食べるとなると……ロブスターの方が良いのかなぁ?


 伊勢海老は結構トゲがしっかりしてるし、殻も硬いからなぁ。


 丸ごとなら……丸ごとなら焼くよりも蒸しのが良いかもしれない。

 

 その方が身がプリプリになるだろうし……ロブスター本来の味も楽しめるだろうから。


 あれこれ足して調理するなら焼きなんだろうけども……と、そんなことを考えながらスマホを操作した俺は、冷凍ロブスターの注文も完了させる。


 そしてそれをコン君に見せるとコン君は、寝ている由貴に気を使ってか大声は出さないものの、拳をぐっと握ってのガッツポーズ。


 それから寝転がり、ちゃぶ台の側に置いておいたクッションに突撃してから手足をバタバタとさせて……全身を使って喜びを表現する。


 まぁ、注文してすぐに来る訳ではないし、門を通る関係上、届くのはかなり先になるんだけども……と、そんなことを考えた俺は、ふと思いついたことがあって郵便受けに入っていた、今日のチラシ束へと手を伸ばす。


 ……確か今日は養殖所のチラシが届くはず。


 そして車海老は養殖法が確立していたはず……。


 まさかなぁと思いながらチラシをチェックしてみると……あった、養殖車海老特売中の文字。


「……通販が届くまでは結構あるから、それまでは養殖所の車海老で我慢しようか。

 なんか今日は養殖所で特売やっているらしいから、テチさんが戻ってきたら買いにいこう」


 と、俺がそう言うとコン君は頭をぶんぶんと縦に振って、お出かけのための準備を始める。


 今日のテチさんはお出かけ中……さよりちゃんと一緒に服を買いに出かけている。


 女の子だけでショッピングを楽しむための大事な時間……だとかで俺達は由貴の面倒を見ながらの留守番中という訳だ。


 俺もまた由貴を起こさないように静かに外出の準備をし……テチさんが帰ってきたなら、それと入れ替わりになる形で車に乗って買い物に出かける。


 そして養殖所に向かうと……駐車場は満車、係の人が案内誘導をしていて、駐車までしばらく待つことになる。


 ようやく獣ヶ森の皆もここの魚介の美味しさに気付いたらしく、最近はいつもこんな調子だ。


 それでもスタッフがしっかりしているからか、そんなに待つ必要もなくすぐ駐車場に入ることが出来る。


 駐車場に車を止めたならエビを売っているらしいコーナーへ。


 そこでは水槽での販売をしていて……コン君が水槽の中を楽しそうに覗き込む中、俺はどの車海老が活きが良いかを見極めるために、水槽でゆったり過ごす車海老を、これでもかと凝視するのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
獣ヶ森産ならザリガニも美味しそうですねぇ。
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