ハニーベーコン
実食開始ということで皆がハチミツベーコンを口に運ぶ。
ベーコンは分厚く、ハチミツの量はたっぷり、出来るだけ両方を楽しめる形にしたけども……うん、やっぱり自分の舌には合わないようだ。
ハチミツの甘さとベーコンのしょっぱさが正面衝突して調和していない、香りもどちらも強すぎて全然合わない。
どちらも美味しいから食べられるのは食べられるんだけども……うん、別々で良いかなとなってしまう。
皆の反応を見てみると……コン君は微妙な顔をしていて、テチさんとさよりちゃんはまぁまぁ悪くないという顔。
どうやら二人の舌には合ったようだ。
由貴にはスプーンですくえる小さめベーコンと一応念の為加熱したハチミツにしたのだけども、加熱したせいなのか今ひとつな様子。
そしてコン君は渋い顔をしながらも食べきり……それからしょんぼりとした顔になる。
それを見て俺は一旦台所に向かい、ハニーマスタードをかけたベーコンを用意してコン君の前に出してみる。
するとコン君は俺を見て、ハニーマスタードを見て、それからまた俺を見て……そして少し迷った様子を見せながらも意を決したようにそれを口に運ぶ。
モグモグと口を動かし、すぐに目を見開き……キラキラと目を輝かせながら楽しそうに、嬉しそうに口を動かし、ごくんとそれを飲み下す。
「こっち美味しい!
ハチミツの香りするし、ちょっと辛くて、んでお肉に合う!」
そう言ってコン君は二切れ目にフォークを刺して口に運んでいく。
うんうん、俺もそう思うと、そんなことを考えながら俺も食べようとする……が、そこでテチさん達の視線が突き刺さる。
「はい、テチさん達の分も焼いてきます……。
ただ由貴にはマスタードはまだ早いから、由貴はハチミツ醤油ソースにするよ」
そう言ってから再び台所に向かい、皆の分と自分の分も用意してちゃぶ台へ。
すぐにテチさん達のフォークが伸びてきて、口の中へ……その表情を見るにテチさん達もこちらの方が良いようだ。
ハチミツだけもそれはそれで美味しいが、こちらの方が良い。
そう表情が語っていて……そして由貴は文句なしの満面の笑み。
やっぱり醤油が一番かもしれないなぁと、そんなことを考えながら俺も自分の分を、コン君達に比べれば小さく少ないハニーマスタードベーコンを口に運ぶ。
おお、予想以上に美味しい……マスタードの辛さもだけど、つぶつぶ食感が楽しくてたまらない。
そしてハチミツの甘さと香りを抑えながら肉に合うように調整してくれていて……ベーコンとの相性も中々だ。
だけども完璧ではなかったかな、ベーコンの薫香がどうしても強く出ている。
まー……元々このベーコンは単体で食べるように強く燻製したものだから、当然の結果ではあるのだけども。
次回は料理用に、もうちょっと香りとクセを抑えたベーコンを作っても良いのかもしれない。
なんてことを考えているうちに皆はぺろりとベーコンを食べあげて……もっともっと食べたい、全然足りないと、そんな視線をこちらに向けてくる。
いやいや、あなた達結構なカロリーと塩分取っていますよ? なんてことを言いたくなるけども、まぁそれは今更か。
あのゲームで出ていたベーコン料理となるとチーズをかけたものになる訳だけども、更にチーズかぁ……うぅん、カロリーと塩分倍付けだなぁ。
せめてもう少し工夫をした料理にしたいなと、そんなことを考えた俺は立ち上がり、台所に向かって冷蔵庫の中を確認し……とりあえず思いついたままに料理を作ってみることにする。
まずベーコンとチーズは必須、この組み合わせならピザにしちゃいたいけども、ピザは既に何度もやっているしなぁ……。
ピザトースト? いや、それよりかは……と、耐熱大皿を取り出し、それにまず野菜を並べていく。
玉ネギ、ジャガイモ、アスパラ、タケノコの薄切り、ついでに本シメジの薄切りも。
それからベーコンを大きく切り分けたものを並べていって……最後にそれらを覆う大量のチーズをどばーっと。
そうやって馬鹿みたいな量のチーズを乗せたなら、大皿をオーブンへ、そしてそのまま焼いてしまって……チーズに焦げ目がついたら完成。
生地なしピザというか、具材のチーズ包み焼きというか、とにかく具材でチーズをすくい上げて食べる感じの代物だ。
そんな大皿を居間に持っていくと、オーブンから漂ってきていた匂いの時点で盛り上がっていたのだろう、今にも飛びかからん勢いのコン君達がよだれを口の中で唸らせながら待ち構えていて……大皿を置いた瞬間、フォークが伸びてくる。
具材をサクッと刺してそのままの勢いでとろけたチーズをすくいあげて、うにょんとチーズを伸ばしながら口の中へ。
由貴の分は俺の箸で運んであげて……由貴は慣れた様子で大きく口をあけて、しっかりとチーズに包まれた具材を受け入れてくれる。
野菜は獣ヶ森産の旬のもの、そのほとんどが御衣縫さんの畑で採れたもので美味しいのは確定している。
ベーコンは俺の手作り、チーズはフキちゃんの手作り。
これで美味しくなければ嘘だろうっていう組み合わせの結果は、やっぱり美味しかったようで、大皿の上のチーズが次々にすくわれていって、布か何かで拭き取ったのかと思うくらいに大皿が綺麗になっていく。
正直ここまで行くとゲーム飯からは遠ざかっているのだけど、流石にここに来てベーコンとチーズだけというのはアレ過ぎる。
ちゃんとベーコンでチーズをすくえば再現料理にはなる訳だし……それで我慢してもらうとしよう。
実際皆も満足げな顔で楽しんでいるし……問題はないはずだ。
そうこう考えているうちに大皿は綺麗に空となり……満足したのかフォークを置きながらコン君が声を上げる。
「……っはー、美味しかったー!
……たまにはご飯もパンもないのも良いね!」
どうやら満足してくれたようだ、ご飯とパンは……今回は無しということで受け入れてもらおう、流石にカロリーがヤバすぎる。
「中々悪くなかったが……こういうのはたまにで良いかな」
と、テチさん。
「ハチミツがもっとあると嬉しいです!」
これはさよりちゃん。
さよりちゃんはどうやらハチミツが大好きのようだ、これからはその辺りを意識してみるとしよう。
「ぱー! もっとっとー」
由貴は全然足りないと抗議の声……いや、うん、塩分多すぎるからこれくらいで勘弁してね。
そんな中またコン君が口を開き……とんでもない言葉を口にする。
「あとはーあとはー、カニとか、でっかいエビとかも食べたい!
なんだっけ、ロブスターだっけ? ああいうのもゲームであったんだよ! カニも美味しそうだったー!
にーちゃん、焼くだけで良いから、できない?」
……ま、まだ食欲があるのか、うぅん、流石の獣人というか何というか……ゲームで頭を使って疲れたからの食欲なのだろうか?
「カニとエビは準備しないとだから、また今度だね。
……特にロブスターは養殖所では取り扱ってなかったはずだし、冷凍のを買うことになるのかな。
あそこらへんはあんまり料理したことないから……うん、今度レシピを調べておくよ」
と、俺がそう返すとコン君は少しだけ残念そうにしながらも頷いてくれて……そして自分が結構なカロリーを取ったことを自覚しているのだろう、ゆっくりと立ち上がって庭に出て、そしてさよりちゃんと一緒に例の鉄の棒を手にして構えて、それからしばらくの間、摂取したカロリーを消費するための運動を続けるのだった。
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