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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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贈り物


 それから数日経って、テチさんの調子はじんわりと良くなっていった。


 玄米が良かったのか、ヨーグルトが良かったのか……それともただただ自力で良くなったのかは分からないけど、とりあえずは順調だ。


 ただ完治という訳ではなく、不調は不調のままで……原因がホルモンバランスの乱れである以上はゆっくり付き合っていくしかないのだろうなぁ。


 そんな中、花応院さんがいつものように荷物を持ってきてくれて……俺が玄関に向かっていると、由貴がそれを追いかけてくる。


 廊下を小さな足でトテトテと、大きな瞳をクリクリさせながら駆けてくる様子はなんとも可愛らしく、思わず背後や足元を見ながらの移動となってしまう。


 そして玄関の戸を開けると、いつもの配達員姿の花応院さんがいて……それを見た由貴が元気な声を上げる。


「かお~~! いらっしゃー」


 だいぶ喋れるようになってきた、あと一歩というところまで来たけども、まだまだ足りない部分がある元気な声に、花応院さんの表情が思わずほころぶ。


 由貴にとって花応院さんは見慣れた顔となっていた。


 由貴が生まれてからも何度も荷物を配達してくれていたし、受取の際に由貴を抱っこしながら向かうこともあったし、会う機会はそれなりにあったからだ。


 そのため顔見知りすることなく挨拶が出来ていて、花応院さんも、


「由貴ちゃん、こんにちは」


 と、笑顔で挨拶を返してくれる。


 それを受けてニッコリと笑った由貴は、花応院さんの足元をすり抜けるような形で玄関から出ていって……そしてそこに置いてある荷物をよじ登って鼻をすんすんと鳴らし、由貴なりの荷物チェックが始まる。


 その間に俺と花応院さんは受取の手続きを進めて……それが終わったなら花応院さんと由貴の交流タイムとなる。


 いつもならすぐに帰る花応院さんだけども、最近は由貴と交流する時間を取ってくれている。


 ただ見つめ合うこともあるし、ちょっとした遊びをすることもあるし、会話をすることもある。


 今日は元気に駆け回る由貴を眺める形での交流をするようで……駆け回った由貴は、時々足を止めて花応院さんを見て、花応院さんはそんな由貴に一つ二つ言葉をかけてから、また眺める。


 その間俺は荷物を家の中に運んでいって……そしてその中に母親からの荷物があることに気付く。


 一体何を送ってきたやら、何かを送るという話は聞いていなかったが……? また由貴への贈り物かな? なんてことを考え……とりあえず由貴と一緒に開封するかと決めて、それを最後に運ぶことにし、そんな風に片付けが進んだのを見てか、花応院さんが帰るための準備を始める。


「またねー」


 そんな花応院さんに声をかけて小さな手を振る由貴。


 花応院さんは顔をくしゃくしゃにしながら笑みを浮かべて手を振り返し、運転席へと入ってエンジンをかけ……門の向こうへと帰っていく。


 それから由貴は玄関へと入ってきて、最後に残していた荷物……段ボール箱の上にちょこんと座り、玄関の鍵をかけた俺はそれを由貴ごと持ち上げて居間へと持って行く。


 ちゃぶ台の上にそれを置き、ガムテープをカッターで切り、それから開くと……早速玩具の箱がお目見えして、やっぱり由貴への贈り物であったようだ。


 玩具玩具、知育玩具とそれと服。


 由貴がオーバーオールが好きだと聞いたからか、花に動物に果物に色々な種類のアップリケ付きのオーバーオールが入っていて……また全部手作りなんだろうなぁ。


 何しろ由貴サイズの服は向こうでは売ってないからなぁ、手作り以外に入手手段がないんだよなぁ。


 こちらだと多少は売っているのだけども、まぁそれもお店の人が作った手作り品で、結構なお値段がしたりする。


 種族が豊富過ぎる獣ヶ森では、工場で大量生産って訳にもいかないんだろうなぁ。


 ……と、そんな荷物の奥底から『テチさんへ』と書かれた紙袋が発掘される。


 一体なんだろ? と、思いつつもテチさん宛の荷物を勝手に開封する訳にもいかないので、それは大切に棚にしまっておく。


 と、そこでスマホに着信、まさかと思いつつ確認すると表示されている文字は『母』。


 花応院さんから連絡が行ったのかな? と、思いながら応答すると一言、


『由貴ちゃん出して!』


 との声。


 気持ちは分かるけども、どんだけ由貴と話したいんだと呆れながら俺はスマホスタンドを取り出し、ちゃぶ台の上に置き、それにスマホを置いた上でビデオ通話モードに設定する。


 すると由貴も慣れたもので、玩具の箱を眺めるのを止めてスマホの前へとやってきて、そこに両足を投げ出す形でちょこんと座ってから元気な声を上げる。


「ばー! やー!」


 おばあちゃん、こんにちは。


 恐らくそう言いたいだろう由貴の声に母さんはすっかりやられて、両手で顔を覆いながら悶えている。


 どうやら父さんもいるらしく、その背後からあれこれと何かを言っているらしい声が聞こえてくるが、母さんは『今は私の番!』と譲らず、由貴との会話をし始める。


 その間に俺は、荷物の片付けを進め……そうこうしているうちに仕事を終えたテチさんが帰ってくる。


 帰ってきたテチさんは由貴が通話中であることを察し、その邪魔にならないよう着替えたりなんだりとし始めて……そして母さんとの会話が終わって父さんとの会話が終わって、由貴が少し疲れた様子を見せた所で通話が終了となる。


 そこら辺は父さんも母さんも空気を読んでくれるらしい。


 通話を終えた由貴を抱き上げたなら背中を撫でて上げて、眠気を促してあげたならベッドへ移動させ……一旦お休みタイムに。

 

 また夕飯時になったら起きるだろうから、それまでは放置でもOKなはずで……その時間にと、例の紙袋を取り出し、テチさんに手渡す。


「これ、母さんから。

 さっき届いた荷物に入っていたんだ」


「ああ、届いたか」


 と、そう言って受け取るテチさん、どうやらテチさんは何かを送ってくることを聞いていたらしい。


 ……なんか母さんとテチさん、通話アプリとかで結構話しているみたいだからなぁ、その時に話を聞いたのだろう。


 そして気になる中身は……と、見ているとテチさんがさっと紙袋を開封し、それを取り出して見せてくれる。


 ミドリムシサプリ。


 ……なるほど、お通じ対策か。


 母さんもかつて悩んでいて、その時にそれを飲んでみたら改善したとかで、それ以来のお気に入りとなっていた。


 他にも漢方茶なども入っていて、それも同じ目的のものらしい。


 母さんに効いたものがテチさんに効くかは分からないけども、まぁ試す価値はあるのだろう。


 そういうことならと俺は早速台所に向かい、漢方茶を飲むためのお湯を沸かすのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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