ジャーマンポテト
「にーちゃーん! なんか洋食作りたい!」
何日かして、家に駆け込んできて手洗いうがいを済ませたコン君がそんな声を上げてくる。
「……洋食ならなんでも良いの?」
居間で由貴と手を合わせての押し合いをしていた俺がそう返すとコン君は、
「ご飯に合うやつ!」
と、これまた元気な声を上げてくる。
「それならまぁ、何個か思いつくけど……料理したくなったの?」
「とーちゃんの誕生日だから、なんか作ってあげたい!」
更に俺が質問するとコン君がそう返してきて……なるほどと頷いた俺は、由貴との遊びを終わらせて立ち上がり、それから倉庫に向かう。
倉庫に置いておいた新ジャガイモと新玉ネギの中から良さそうなのを選び取り……ついでに保存食用の冷蔵庫からベーコンを取り出し、それらを抱えて台所に戻る。
コン君が作れるレベルの洋食で、美味しくてご飯に合うやつ。
それならば今の季節に美味しい材料を使ったこの料理が一番のはずで……台所に向かったなら材料やら道具を並べて準備して、コン君とさよりちゃんの着替えが終わるのを待つ。
「何作るの!」
着替えを済ませるとコン君は流し台の上に飛び乗りながら元気な声を上げて、俺が、
「ジャーマンポテトだよ」
と、返すと、どんな料理か知ってはいるのだろう、あー! という顔になる……が、それって美味しいの? と、少し不安げな様子を見せる。
「簡単で美味しく作れるから安心してよ。
じゃぁまずはジャガイモの下処理からしていこうか」
そう言ってから俺はコン君達と具材の下処理を進めていく。
ジャガイモは丁寧に洗ってから芽を取って皮付きのままカット、それから水を入れた耐熱容器に入れて電子レンジに。
スイッチを押して温めたなら玉ネギを切ってベーコンを切って……これで準備は完了。
レンチンが終わったジャガイモには串を刺して熱が通っているかの確認をしてから、フライパンを用意し……俺がフライパンを持ってコン君が耐熱ヘラを持つという形の調理体制を取る。
まずはバターを溶かし、それからベーコン、軽く焦げ目がついたらジャガイモを入れてしっかり炒めたら玉ネギを入れて炒める。
味付けはまずハーブソルトを軽く振って……全体に馴染ませたら醤油をフライパンの端でちょっと焦がしてから、こっちも全体に馴染ませる。
和食党のコン君の家なら醤油の味濃いめの方が受けが良いはずだ。
更にこの味付けならビールにも良く合うはずで、お父さんも喜んでくれるだろう。
「こんな感じで、お母さんと一緒に作ると良いよ。
ここで作ったのを持っていっても冷えちゃうだろうから、夕食前にお願いする感じでさ。
とりあえずこれは試食ということで、皆で食べちゃおうか」
出来上がったものを皿に盛り付けながらそう言うと、コン君はうんうんと頷いて同意してくれて……着替えのために居間へと駆けていく。
コン君のお母さんとしても子供と一緒の料理は嬉しいし楽しいはず……そう考えての俺の提案は正解だったようで、さよりちゃんからはなんとも良い笑顔を貰えて……もしかしたらさよりちゃんも今晩はお母さんと料理を楽しむのかもしれないなぁ。
盛り付けを終えて居間に戻ると、家で料理をするためなのだろう、着替えた割烹着を丁寧に畳んだ上で、しっかりとリュックにしまっているコン君の姿があり……今晩の様子を想像しているのか、とても楽しそうだ。
それが終わるのを待ってから山盛りご飯と味噌汁とサラダと一緒に配膳をし……皆で手を合わせて「いただきます」と声を上げての昼食タイムだ。
由貴にも味付け薄めの同じものを用意し、赤ちゃん用フォークを握らせてあげると、一つ一つ具材を丁寧に刺して持ち上げて、あーんと大きく開けた口の中に運んで、モグモグモグと食べてくれる。
由貴は意外なことに……と言うと失礼だけども、そうやってフォークやスプーンを持たせてあげると食欲に負けることなく、丁寧な食事をしてくれる。
自分の毛並みが汚れることが嫌なのか、エプロンやお気に入りのオーバーオールが汚れるのが嫌なのか、とにかく丁寧にゆっくりと、こぼしたり落としたりしないように口に運んでの食事をしてくれる。
変に俺達が手伝ってしまうと、逆に食欲を炸裂させて雑な食べ方をしてしまうという、ちょっと不思議な性格をしていて、最近はそうやって自分で食べてもらうことが多くなっていた。
モグモグモグと丁寧に噛んで、そうすることで新ジャガと新玉ネギの美味しさをしっかりと引き出してご満悦の笑顔。
「美味しいねー?」
と、俺が声をかけると口の中のものをしっかりと飲み込んでから、
「おーしー!」
との返事。
それを受けてコン君も笑顔を炸裂させて「美味しい美味しい!」と言いながらジャーマンポテトを食べていく。
「ジャーマンポテトで注意することは、ジャガイモの芽をしっかり取ることくらいだから、きっと上手に出来るはずだよ。
ベーコンとバターの時点である程度塩味がついているから、濃すぎる味付けにならないようにっていう注意も必要かな。
あとはさっきやった通りにやれば問題ないはずだよ」
俺がそう言うとコン君は、笑顔のままうんうんと頷いて……そして茶碗をガシッと掴んで、モリモリモリとご飯を食べていく。
最近のコン君は段々と食事量が増えている。
その分だけテチさんと体を動かしているので太ったりはしていないが、少しずつ体が大きくなっている。
テチさんが言うにはようやく第一次成長期になった……らしい。
第一次ではまだまだリスの姿のまま、第二次で人間に近くなっていくそうで……しばらくは今のままの姿なのだろうけども、確実に身長が伸びて体重も増えていくそうで……そのうち肩車とかをするのにも苦労するようになるのかもしれないなぁ。
嬉しくもあり寂しくもあり……いつか由貴にもそういう日が来るのかと思うと、ちょっとだけ目頭が熱くなってしまう。
「早い早い、そんなのまだまだ先のことだ」
俺の表情などから何を考えているのか察したらしいテチさんがそう言ってきて……俺は内心で照れながら箸を動かし、皆の成長を喜びながらの昼食を存分に楽しむのだった。
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