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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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由貴の威嚇


 あれ以来、由貴はチーズのことが大好きになったようだ。


 もちろん『しょば』も好きなのだけど『ちー』も大好きで、事あるごとにちーちーと要求してくるようになった。


 ……が、食べ過ぎも良くないと毎回要求に応える訳にもいかず、あげる機会を絞っていたのだけど、由貴的にはそれが許せないようで、最近では……、


「ちー!!」


 と、声を上げながらの威嚇をするようになってきた。


 コアリクイの威嚇のように仁王立ちになって両手を広げて……精一杯にこちらを睨んでくる。


 今日はちゃぶ台の上に乗ってそれをやってきていて……俺は顔を両手で隠してニヤけているのをバレないようにしながら、立ち上がって台所に向かう。


 ここでニヤけていると由貴は更に怒ってしまうのでバレないように気をつけながら移動し……冷蔵庫のドアを開けたなら、中から一つの袋を取り出す。


 調べてみたところ、離乳食にチーズという選択は悪くはないらしい。


 カルシウム、タンパク質、鉄分が豊富で、塩分が多すぎることを除けばむしろ積極的に食べさせたい食品ですらあるようだ。


 そうなると当然離乳食というか、塩分控えめの赤ちゃん用チーズなんてのも作られている訳で、それを一つ取り出して居間へと持っていく。


 個包装になっているそれの包装には可愛らしい動物の絵がプリントされていて、あえてリスのプリントされたものを持っていき……開封して由貴に渡すと、両手でしっかりとそれを掴んだ由貴は、なんともごきげんな笑みを浮かべてガブッと噛みつく。


 噛みつき、噛みちぎってモグモグモグ。


 ……そしてなんとも不満そうな目をこちらに向けてくる。


 ……まぁー、うん、気持ちは分かる。


 あの時食べたチーズは焼いてとろとろに溶けていたから、冷やして固めてあるそれは全くの別物なんだろう。


 このチーズは寒天を使って固めているので、普通のチーズと違って簡単に溶けるようなものでもなく……そのまま食べてもらうしかない。


 他の選択肢としてはカッテージチーズが良いらしい。


 こちらはまぁ焼けば溶けはするけども、由貴が望むとろとろ感には遠いはずで……そちらはあくまでたまに、ということで我慢してもらうしかない。


 溶けずともチーズはチーズ、風味も味もしっかりしていて、子供用だけに子供が楽しめるように調整されているはずで……実際由貴も不満顔をしつつもモグモグと食べ進めているので、美味しいは美味しいのだろう。


 基本的に由貴は好き嫌いをしない、こちらが出せば苦めの野菜でもちゃんと食べてくれる……けども、その顔でしっかりと不満を表明してくる。


 何ならピザを食べて以来、市販のパンでもちょっとした不満顔をしてきたりもする。


 ……しっかり舌が肥えているなぁ、悪いことではないんだろうけども。


 そしてそんな由貴の食事シーンは、最近の我が家で一番注目されるイベントというか、皆が一番楽しみにしているイベントとなっていた。


 表情をコロコロ変えながら夢中で、ほっぺたを大きく膨らませながらモグモグモグモグと。


 そんな由貴を見ていると、なんとも幸せな気分になると言うか、癒やされると言うか……用事がある時でもついつい見てしまう。


 今はおやつタイムで、食事の時間ではないのだけど、それでもテチさん、コン君、さよりちゃんはちゃぶ台の近くに座ってチーズを食べる由貴のことをじぃっと見つめている。


 一方由貴は両足を開いて仁王立ち体勢のまま、両手で掴んだチーズをモグモグ食べていて……食べるのに夢中で座ることも忘れているようだ。


 そんな由貴の服はベビー服から、テチさんお手製のオーバーオールとなっている。


 だぼっとした灰色シャツに青色オーバーオール、耳の近くにはクリップ式のリボンをつけて……これが由貴のお気に入りの服だった。


 恐らくだけどもオーバーオールはコン君の真似をしていて、リボンはさよりちゃんを真似している。

 

 普段よく目にする服装だからと選んだ可能性が高そうで……特に姿が似ている二人を真似たのだろうなぁ。


 服装だけでなく仕草なども積極的に真似していて、特にコン君がよくやるぎゅっと目をつぶっての笑顔を真似することがあり……コン君がその笑顔をすると由貴もすぐに真似するのだけど、目をつぶる関係上コン君がその笑顔を見ることが出来るのは稀で、最近のコン君はどうにかその笑顔を見ようと四苦八苦していたりする。


 そんなコン君が俺の方へと視線をやってくる。

 

 由貴が笑顔になるような、心から喜んでくれるようなオヤツはないの? と、言いたげだ。


 ……いやぁ、うぅん、舌が肥え始めている由貴を楽しませることが出来る代物っていうのもなぁ……。


 クルミやクリなら大喜び間違いないのだけど、今度は夢中になりすぎて真顔になるというか、笑顔を忘れてしまうし……程よく由貴を楽しませるおやつかぁ。


 なんてことを考えながらもう一度台所に向かい、何かあるかなと棚を見ていく。


 すると少し前にフキちゃんが持ってきた、手作りビーフジャーキーが視界に入り込む。


 それは味薄めというか、塩分控えめを意識して試作したものらしく、塩分をかなり控えめにした分、しっかりじっくり燻製しての保存処理がしてある。


 その分だけ固くて正直美味しくはないのだけど、使っている肉が上質というか、長森牧場の上質な肉を使っているためか、固いのを我慢して噛んでいるとじわじわ旨味が染み出してきて、本来の肉の美味しさを堪能出来る代物となっている。


 なので口寂しい時には良い相棒になってくれるというか、ちょっとしたガム感覚で楽しむことが出来る代物で……これならあるいはと、手にとって、食べやすい大きさに料理用ハサミで切り分けてから皿に盛り付け、居間へと持って行く。


 居間ではチーズを食べ終えた由貴がちゃぶ台の上にペタンと腰を下ろしての休憩モードに入っていて……そんな由貴のことを皆がかまっていたのだけど、俺が何かを持ってきたことに気付いた由貴は、そちらよりも俺に注目して……物凄い力強い視線をこちらに向けてくる。


 そんな由貴に皿ごとではなく切り分けたジャーキーの一欠片だけをそっと手渡すと、由貴はそれを一口齧り……渋い顔をしながらもガシガシと噛み続ける。


 ……噛んで噛んで、噛めば噛む程旨味が滲み出てくることに気付いたのだろう、渋い顔がだんだん嬉しそうな顔となり……いつまでも噛めるのが嬉しいのか笑顔になっていく。


 そしていくら噛んでも中々なくならず、いつまでも味が出てくるのが嬉しいのかついにぎゅっと目を閉じての笑顔となって……そんな由貴の笑顔にやられたコン君は、ゆるんだ笑顔でその様子を眺め続けるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
更新されているのが楽しみです。いつも有難うございます。ユキの成長が待ち遠しいです。
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