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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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タラ料理


 タラの煮付けにタラ鍋、ムニエルと……テチさんも食べたいというので塩焼きも用意した。


 煮付けは醤油ベース、タラ鍋はシイタケ、白菜、豆腐にニンジン、長ネギを具にした味噌ベース、そして塩焼きと、はからずも色々な味付けのタラを食べられるメニューとなり……出来上がって、それらを配膳すると、コン君がもうワクワクが止まらないといった顔で、ちゃぶ台で待ち構えていて……そんなコン君に引っ張られたのか、テチさんもなんとも良い顔で料理を待っていた。


 テチさんに抱っこされた由貴にもタラメニューを用意していて……薄味塩焼きのほぐし身と、具材を細かく刻んだ薄味タラ鍋が由貴専用メニューだ。


 タラの美味しさを知らない由貴にとっては、未知のメニューでしかない訳だけど、周囲の皆がワクワクしているのと、初めて目にするご飯ということもあってか、由貴もやはりワクワクとしてくれていて……配膳を済ませたなら、俺が由貴を抱っこしての食事係となる。


 正直俺はさっきの味見と、料理途中の味見でお腹いっぱいで……少しのご飯があれば十分なので、今回は食事係に徹するつもりだ。


『いただきます!』

「しょば~」


 と、皆で声を上げたなら箸に手を伸ばし……タラ尽くしのメニューへと箸を伸ばしていく。


 テチさんは美味しい美味しいと笑みをほころばせ、さよりちゃんも似た感じでの食事をし……そしてコン君は目の前の食事に真剣に向き合っていると言うか、まるで食べながら料理一つ一つを研究しているかのような表情で、じっくりゆっくり食べ進んでいく。


 恐らくは一口食べる度に感動してしまっているのだろう、先程見せた硬直っぷりを見せているのだろう、いつにないスローペースで食べ進んでいって……そして由貴もタラを気に入ってくれたようで、由貴用のスプーンで口に運んであげると、スプーンごと噛みちぎらん勢いでガチガチッと食らいついてくる。


「これはタラって言うお魚なんだよ、タラ。

 本来は海っていうとこに住んでる、とっても美味しい魚なんだ。

 タラだよー、タラ、タラ」


 食べさせて上げながらそんな声を上げると、由貴は、


「ちゃら~、ちゃら!」


 なんて声を上げながら、次を寄越せとばかりにベビーチェアの上で手足をジタバタとさせて……そっと手を握って暴れちゃダメだよと教えて、落ち着かせてから次のタラの身を口に運んであげる。


 するとまたガチガチッと自慢の歯を鳴らしながら食いついて……タラ料理を存分なまでに堪能していく。


 タラだけじゃなく野菜もしっかり食べてくれて……どうやら由貴に好き嫌いはないらしい。


 薄味にしている関係で、野菜そのものの味と言うか、子供が嫌いそうな野菜の風味が残っている状態でもお構いなし、スプーンで運んであげればすぐに食いついて……その小さな目を煌めかせながら頬を膨らませ、もっぐもっぐと楽しそうに咀嚼してくれる。


 実のところ、子供が嫌いな野菜の代表格であるニンジンを入れたのはちょっとした冒険だったのだけど、由貴は特に気にした様子もなく食べてくれている。


 タラの風味と脂がニンジンの嫌な臭みを消してくれたのか……いや、でもここまでしっかり咀嚼したらいくらかは感じ取るはず。


 ……うん、これは由貴の味覚のおかげなんだろうなぁ。


「よく食べたねー、えらいえらい。

 残さず食べて由貴はえらいねー」


 キレイに食べ上げたのを確認してからそう褒めて、頭をちょいちょいっと撫でて上げたなら、ご褒美ということで、クルミを殻のままあげる。


 これは由貴用ということで、しっかりと消毒してあるもので……クルミを見るなり目を輝かせた由貴は、両手でクルミを抱きかかえてカリカリッと齧り始める。


 まだまだ安定せず疼いてしまう歯にはこれが一番らしく、その上頑張って齧り割れば美味しい美味しい実が食べられるとあって由貴にとってはクルミが何よりのご褒美だったりする。


 栗の実でも良いらしいのだけど……我が家の栗の実は美味しすぎるというか、一度食べてしまうと栗以外を食べなくなってしまう可能性があるので、もう少し成長してからということになっている。


 まぁ、クルミの実だって十分な高級品かつ上等な品なのだけど、栗に比べればまだ普通の範囲なので、大丈夫……なはずだ。


 ……それよりも今はコン君か。


 用意したご飯をキレイに食べ上げ、その状態のまま硬直している。


 茶碗と箸を持ったまま、口をぽかんと開けて何を見る訳でもなく虚空を見つめて……よっぽど好みにハマったようだなぁ。


 そんなコン君に声をかけるべきかと悩んだけども……せっかく余韻に浸っているのを邪魔することもないだろうと、由貴の歯磨きや食器の片付け、洗い物などを済ませていく。


 それでもコン君は硬直し続け……そろそろコン君達を家に送らないといけないなと、なった頃、ようやくコン君が覚醒して……なんとも恥ずかしそうに台所へとやってきて、手にしていた茶碗と箸を片付けてくれる。


「へへっ……」


 なんて誤魔化し笑いまでしていて……まぁ、あえて突っ込むのも可愛そうだと触れないようにして、片付けだけを済ませる。


 そうしたならいつもより遅くなってしまったということで、2人を車で送ることにし……チャイルドシートの準備を始める。


 そうして車に乗り込み、出発し……少し進んだ所で、コン君がゆっくりと口を開く。


「にーちゃん、オレ、タラ料理人になりたいなー」


「ああ、いいねぇ、タラ料理と言うか、日本料理を極めたら色々な料理に応用出来るだろうし、和食党のお母さんがいるコン君なら向いていると思うよ」


 子供の語る夢というのは、日々移り変わるものだけどだからと言って否定するのは良くない。


 とにかく肯定的な、コン君の夢にとって良いことだけを言ってあげようとの考えでそう言うと、コン君は声を弾ませて、どんな料理を作りたいとか、どんな料理人になりたいとか、どんなお店で働きたいかといったことを語っていく。


 それはコン君にとっても、横で話を聞いているさよりちゃんにとっても、そして俺にとっても楽しい時間で、あっという間に時間が過ぎていく。


 そしてコン君の家についてもしばらくの間、それは続いていて……ご両親が何事だろうと心配して見に来るその時まで、コン君の夢語りは続けられるのだった。


 


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
お鍋の〆はしないのか…
タラタラしてんじゃねーよにも反応するのだろうか… 駄菓子なら、お手軽に味わえるよね。
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