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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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新しい好物


 タラと諸々の材料を買い終えて帰宅し……それらを台所に運んでいく。


 タラはしっかり解体してもらったので切り身状態になっていて、そのままでも食べられる状態……だけども、色々と料理をしていく予定だ。


 運び終えたなら手洗いうがい、エプロンをつけて料理の準備、コン君達がいつもの椅子に座ったのを見計らってまずは味見ということで、シンプルにタラを焼いていく。

 

 ただ焼いただけ、味付けもなし、火をしっかり通す必要もないので程々に火が通ったら皿に乗せて、箸で3人分に切り分ける。


 脂がしっかりあって身がすぐにバラバラになるようなこともなく、しっかりしていて……新鮮さを感じられる。


 解体したばかりなので臭みもなし、それぞれ自分の箸を用意して口に運んでみると……うん、塩なしでも美味しいと感じられる濃厚な旨味と、独特の食感がたまらない。


 トロっとしているというか、まったりしているというか、上等かつ新鮮なタラでしか味わえない食感がなんともたまらない。


「うーむ……門の向こうで食べたどのタラよりも美味しいなぁ。

 上等なタラと言えば傷つけないように釣り上げた釣りダラなんだけど、これはそれ以上だなぁ……まぁ、養殖なんだから当然なんだけども」


 と、俺が感想を口にする中、さよりちゃんは満足そうにうんうんと頷いていて……そしてコン君は、タラを飲み下した状態で、箸を口の側に近付けた状態のままで硬直している。


 ……え? 大丈夫? 何かの病気??


 なんてことを言いたくなるくらいの硬直っぷりで、思わず手をコン君の目の前で振ってみると、コン君はハッとした顔となって、両手をワタワタさせながら声を上げる。


「すっげー! すっげーうまかった!

 なんだろ、オレ、アジよりサバより、マグロより好きかも! タイより美味しい!!

 タラすげーおいしい!!」


 どうやらコン君の好みにタラがベストマッチしたようだ。


 正直ただ焼いただけなので物足りないというか、完成度で言うと全然低いのだけど、それでもコン君にはたまらなかったようで、


「もっと、もっと食べたい! 焼いたのもっと食べたい!」


 と、そんなことまで言ってくる。


 これから色々料理するんだけどな? と、思いつつも、コン君の喜び様がいつにない勢いだったので、少しくらいは良いかとタラを焼くことにし、今度はしっかり味をつけることにする。


 切り身に塩を振ってしっかり馴染ませて、それからフライパンに。


 焼き上げる時にも日本酒を使い、回し入れて蓋をしての軽い蒸し焼きのような状態にする。


 ただの塩焼きではあるのだけど、しっかりと手間をかけて作ってみて、食べるのも台所で雑にではなく、居間に移動してしっかり配膳して食べることにする。


「いただきます!」


 配膳を終えてそれぞれ席について、そう声を上げたなら箸を取って、焼き立て塩焼きタラへと箸を伸ばす。


 さっきと違ってしっかり日本酒を使ったからか、よりふっくら柔らかくなっていて……うん、塩味もちょうど良い塩梅だ。


 塩が追加されたことでより旨味が引き立つというか、脂の美味しさが伝わってくるというか……うぅん、これだけで既に完成された料理だなぁ。


 さよりちゃんは、


「上品で美味しくて……これがタラなんですね、皆も一口食べたら好きになると思います」


 と、言いながらゆっくりタラを楽しんでいて、コン君は……一口食べて硬直、一口食べて硬直といつにない態度でタラを楽しんでいる。


 本当に好みにハマったというか、新たな好物を発掘出来たというか……そうやって美味しいという感動を存分に味わっているようだ。


「今日は他にも色々作るつもりだから楽しみにしてくれて良いよ。

 タラはそのまま食べても美味しいけど料理向きの魚でもあるから、料理次第でうんと美味しくなったりもするんだ。

 早速今夜色々やるから、期待していてよ。

 ……ちなみにタラは新鮮なものほど美味しくて、そうでないものは美味しくなくなるから、タラならなんでも美味しいとかは無いからね。

 ひどいものは本当にひどいから……うん、他のとこでタラを食べる時はそのつもりでね」


 と、そんなことを言ってみても、コン君の耳に届いているのかいないのか……まぁ、タラを楽しんでくれているのは嬉しいことだけども。


 とりあえず綺麗に食べ上げたなら台所へ。


 今日の夕飯を作らなければと準備をしていく……とりあえず鍋、煮付け、それとムニエルを作るつもりだ。


 タラの料理は他にも色々あるのだけど、とりあえずこれらを作ればタラを堪能したと言えるはずだ。


 それらの料理のための下拵えの間、いつもの椅子に座ったコン君はいつも以上に無口で、そしていつも以上の集中力でもって料理の工程を見つめていた。


 好物となったタラの料理を覚えたい、自分でもやってみたい、早く目の前のタラを食べてみたい……と、そんな感情でもって見つめているらしく、あまりの様子に心配をしたさよりちゃんが声をかけても、微動だにしない。


 ……まさか、こんなにハマってくれるとはなぁ……本当に予想外というか何と言うか……。


 まぁ、悪いことではないのだろう。


 美味しいものを食べたいという欲求が、料理が上達する一番の近道だし、新しい好物が出来てコン君の世界が広がったことも喜ばしいことだし、夢中になれる何かがあるというのもとても良いことだ。


 さよりちゃんへの態度が少しアレだけども……まぁ、さよりちゃんなら今だけのことだと理解を示してくれることだろう。


 なんてことを考えているうちに大体の下ごしらえが完了となり、テチさんと由貴も帰ってくる。


 手洗いうがいをすませたテチさんは、居間で由貴の着替えやらのお世話を始めて……それが終わったなら由貴を抱っこして台所へと来てくれる。


 そして調理中の俺に由貴の顔を見せてくれて……同時にコン君の様子がおかしいことに気付く。


「……コンはどうしたんだ?」


 と、テチさん。


「……どうやら新しい好物を見つけたようで、それに夢中なんだよ。

 養殖所が新しく売り出したタラが美味しくてね……俺もこんなに美味しいタラは初めて食べたよ」


 と、俺が返すとテチさんは「なるほど」と頷いて……台所の中を見て回る。


 鍋を覗き込んで、魚焼き器の中を覗き込んで、そして美味しい夕ご飯が食べられると確信出来たのだろう、満足そうに居間へと帰っていく。


 由貴もまた興味深げに料理を眺めていって……「しょばしょば」なんて声を上げている。


 ……いや、うん、今日は麺類はないんだ、ごめん。


 なんてことを考えながら作業を進めていった俺は、早く由貴と遊びたい一心で手早く料理を仕上げていくのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
由貴ちゃんの中で『しょば』が『美味い』の代名詞になりそう …鍋の〆に麺類出るといいね
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