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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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しょば


「しょば! しょば!」


 あれ以来由貴はソバを気に入ったようで、事あるごとにそんな声を上げるようになった。

 

 それだけでなくソバ……というか麺類が大好物になり、麺類ばかりを食べるようになった。


 ソバ、うどん、スパゲティ、などなど……とにかく麺類全般をソバ……しょばと呼ぶようになって、しょばが出てこないと駄々をこねるし、時には泣きそうな顔になったりもした。


 幼い頃から偏食というのもどうかと思って、色々食べさせようとはするのだけど上手くいかず……テチさんからそこら辺はもう少し大きくなってからで良いのでは? という意見があって、その通りにすることにした。


 麺類さえ出しておけば文句もなく、しっかりと食べてくれるのだからそれ以上を望むのは贅沢ということで……まぁ、うん、それはその通りなんだろうなぁ。


 毎日元気に食べて、元気に駆け回って病気知らず。


 言葉もだんだん覚えていって……パパ、ママ、コン、サヨリと、皆のことを呼ぶようにもなってきた。


 毎日のように遊びに来ているコン君達も由貴にとっては家族の一員のようで……自分と同じ姿をしているからか、兄弟かのように接している。


 コン君達にとっても妹のような存在のようで……仲の良い子達が側にいてくれているのも、幸運なことなのだろうなぁ。


 そして……普通の食事をし、言葉を話し始めたことで、だんだんと外に出かけるようにもなり、テチさんの仕事場にも行くようになった。

 

 畑に連れていって、他の子供達と接して……そこではかわいいかわいいと皆が褒めてくれるものだから、まんざらでもないらしい。


 畑の中が自分達の領域というか、俺が所有する土地であることをなんとなしに理解しているのか、普段は外に出ようとしない由貴も畑の中では元気に駆け回るそうで……木登りも積極的にしているらしい。


 テチさんが仕事中なら周囲に子供達がいて、由貴が木から落ちたりしないようフォローしてくれていて、いざ落ちてもすぐに助けられるような距離に待機もしてくれているようで、害虫とかそういったものも事前に駆除してくれているので、安心して木登りさせられる環境ということになる。


 そういった環境で練習が出来るのはとてもありがたいことで……木登りをするようになってから食欲がより増した由貴はすくすくと育っていった。


 健康に問題がなく手がかからず……本当に幸運な子育てが出来ていると思う。


 トラブルがなく不満もなく……幸運過ぎて逆に怖くなるくらいだなぁ。


 このまま順調に育って由貴がどんな子供になって、どんな大人になるのか……不安があるとしたらそこくらいかなぁ。


 何しろ女の子、いずれは反抗期とかも来たりして……うぅん、その辺りのことは考えないようにしよう。


 それよりも……今日もテチさんは仕事に行っていて、由貴もそれについていっている。


 そしてお手伝いということでコン君とさよりちゃんも畑に行っていて……そろそろ帰ってくるはず。


 畑でたっぷり体を動かして腹ペコになった獣人が4人……そのための食事を準備しなければ。


 まずは由貴に麺料理、今日はミートスパゲティ……ソースも手作りで、出来るだけ刺激少なめの味にしたものを作る。


 ソースを作って麺はいつでも茹でられるように準備して……それからテチさん達の分。


 テチさん達は全く別の料理にしても良いんだけど、そうすると同じ食卓で別々の料理が並ぶという状況を由貴が良く思わないかもしれないので、出来るだけ似たものにしようと、ミートボールスパゲティにする。


 ある映画で見たアレ、大きめ食べ応えのあるミートボールとそれに合うソース。


 由貴のとは違ってソースにはしっかり香辛料を入れて、ミートボールの中には刻んだシイタケと玉ネギ、ニンジンなんかも入れて食べ応えありつつ歯ごたえありつつ、旨味たっぷりな出来上がりにする。


 それを腹ペコ獣人用ということでゴルフボールより大きいくらいのサイズにしてしまって……それを大皿に山盛り分、作っていく。


 そしてソースも作り……と、作業を進めていると賑やかな声が近付いてきて、玄関から入ってくる。


 洗面台に向かい、手洗いうがいなどを済ませた声の集団は居間へとやってきて、居間から台所へとやってきて……テチさんは由貴のための水筒などの道具などを片付けたり、食器やらコップやらこれから使う道具を準備したりとし、コン君とさよりちゃんは料理と配膳の手伝いをしてくれる。


 その間、由貴はテチさんの背中にベッタリと張り付いていて……畑で存分に遊んできて疲れているのだろう、家の中を駆け回ったりはせず大人しくしている。


 ……が、お腹が空いているので寝たりはせずに、大人しく、視線だけをこちらに向けてきていて……視線でご飯はまだ? と、問いかけてくる。


「あーうー、しょばー、しょばー!」


 それだけでは足りずに声を上げて、しょばを要求。


「しょばはもうすぐ出来るからね」


 と、俺。


「しょばは美味しいからね、待ち切れないよね」


 と、テチさん。


「オレもしょば早く食べたい!」


「私もー、しょば美味しいですよね」


 コン君とさよりちゃん。


 すっかりしょばが定着しつつある……まぁ、これも由貴が幼い今だけのことだろうなぁ。


 そうして少しというか、かなり早い夕食が開始となって……皆でしょばをすする。


 皆でフォークを構えて……由貴も赤ちゃん用フォークをすっかりと使いこなしている。


 ずっと麺類だけを食べていた影響だろう、すするのも上手になって……それほど毛皮を汚さなくなってきた。


 まぁ、それでもソースがはねたりで汚れるんだけども……それでも以前に比べれば全然だ。


 ……と、そんな食事の終盤に何かがコロンッと縁側で転がる。


 俺はそれを聞いてすぐさま音の主が何であるかを察する。


 最近は大人しく……大人しく? していた玄関先の扶桑の木、それが妙に実をつけるようになってきて、周囲を囲っている網を抜け出そうとしていたからだ。


 時には網に穴を開けることもあって……今回もそうやって脱出し、縁側まで転がってきたのだろう。


 ……植物の種がそんな風に動くことに今更疑問を持つことなく、ただ立ち上がって回収しようとすると……扶桑の種は必死になっているかのような様子で激しく動き、由貴の下に向かおうとする。


 ……何か目的があるようだ、そしてそれは恐らく害意ではないのだろう、なんらかの事情あっての扶桑なりのおせっかいなのだろう。


 それでも気味が悪いというか、気分が悪い部分もあり……容赦なく扶桑の種を捕まえた俺は、それを台所に持っていき……厳重に封の出来る保存瓶の中へと入れてしっかりと蓋をしておくのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
しょばだけでなく、そろそろ種も食べて欲しいんでしょうか。 見守ってる人?達も構いたいんですねー(・∀・*) そんなに邪険にしなくてもw
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