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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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風邪


「ああ、ご飯に合わせるならチーズより卵が良いかもねぇ。

 フキちゃんとこの卵もかなり品質が良かったよね?」


 一通り食事が終わっての休憩時間、ふと思いついたことがあって俺がそんな声を上げると、フキちゃんが両耳を立てて興味津々といった表情をする。


「たとえば卵とじとか、卵とじで丼にしちゃうとか。

 ……ああ、ビビンバ丼とかに入れても良いのかな、そっちならお肉の出番もあるし、牧場向きかもね」


 更にそう言葉を続けるとフキちゃんは、すぐさまスマホを取り出して今の言葉をメモし始めて……いつになく興奮した様子で尻尾をくねらせる。


 すると、それを見て突然テチさんが立ち上がり、フキちゃんの側へと言って手をおでこに当てて、そして一言。


「少し熱があるな」


 と、そんな言葉を口にする。


 おや、風邪っぽいのかなとすぐさま俺は棚に置いてある救急箱へと手を伸ばし、テチさんはタンスにしまってあるタオルケットなんかを取り出し、それでもってフキちゃんをぐるぐる巻きにしていく。


 体を冷やさないためだろうか……それを見ながら救急箱から葛根湯を取り出した俺は、水を用意してそれらをフキちゃんに差し出す。


「ひき始めは葛根湯が良いよ、体が温まるから」


 するとフキちゃんは薬を飲むなんて大げさだと思ったのか、少しだけ嫌そうな顔をしてから……すぐ側で仁王立ちになっているテチさんを見てへにょりと耳を垂れさせ、素直に受け取り葛根湯をしっかり飲み干す。


「……ありがとございます。

 ……でもこんなに温めなくても良いですよ? 微熱あるだけですし……むしろ熱でてる時に温めたらのぼせません?」


 それからそんなことを言い……俺は人数分のマスクを用意しながら言葉を返す。


「ひき始めはとにかく体を温めることが大事なんだよ。

 病気になった時、抗体が体内で戦いを始めるんだけど、この際体は体温を上げようとするんだよね。

 そうすると抗体の戦いが有利になるとかならないとか……とにかく体は体力を使って筋肉を震わせて熱を作り出す訳だ。

 すると体力が失われて筋肉痛になって……どんどん体が弱ってしんどくなる。

 この時に薬とか布団とかで体を温めて上げると、余計な体力を使わず筋肉を震わせる必要もなく、体力が十分に残っているからしんどくないし、治りやすくなる……という感じだね。

 早く治るし辛い思いをしなくて済むんだから、その方が良いでしょ?

 まぁ、症状によっては体温を上げすぎてしまう時もあるから、その際は頭だけは冷やすとか、工夫が必要だけどね」


 そう言いながらフキちゃんを含めた皆にマスクを配って……そして早く家に返して上げたほうが良いだろうと、外出の準備を進めていく。


 フキちゃんが乗ってきた配達車で牧場まで送ってから、徒歩で帰ってくるつもりで準備をし……それで俺が何をするつもりを察してか、テチさんは家に残って由貴の世話をすると表情で語ってくれて……そして何故かコン君が俺の背中に張り付く。


「オレも行くよー、にーちゃん一人じゃ暇でしょ?」


「……いや、マスクをしているとは言え伝染るかもしれないんだし、家に帰った方が良いんじゃない?」


 と、返すがコン君はしっかりと張り付いて離れない。


「まぁ、大丈夫だろう……獣人の時は抵抗力も強いから、早々風邪を引いたりはしないんだ。

 由貴だって生まれてからずっと体調を崩すことがなかっただろう? 扶桑の実を普段からかじってるコンなら心配する必要はないはずだ」


 更にはテチさんまでがそんなことを言い出してしまい……そういうことならまぁ仕方ないかと準備を進める。


「私は残って先生の手伝いをしてますね」


 と、さよりちゃんにそんなことを言われながらコン君を愛車から持ってきたベビーシートに乗せて、タオルケットお包みとなったフキちゃんを配達車に乗せて、いざ牧場へ。


 牧場についたなら長森さんに事情を話し……それからコン君を肩車して徒歩で我が家へ。


 ……その道中色々な人に話しかけられる。


 大体が赤ちゃんの話題で……元気かとか、何か困ったことはないかとか、二人目はどうするのかとか、そんな話題。


 今までここまで気軽に話しかけられることはなかったので少し驚いてしまったけども、由貴が産まれたことで距離が縮まったということなのだろう。


 更にコン君肩車効果もありそうで……うん、この一年と少しで獣ヶ森の一員になることが出来たようだ。


 ……と、そうやって歩いていると、今までに見かけなかったお店が視界に入り込む。


『ハンバーガーレストラン、タケ』


 なる看板を掲げた、赤色と白色を中心とした原色カラーの壁と内装のお店。


 ガラス張りになっているため中が覗けて、カウンター席が6席くらい……古めかしいラジオやら鉄看板やら、アメリカンテイストを意識した店構えになっているようだ。


 気になるのはハンバーガー中心のレストランなんて珍しいな、ということと看板のタケの文字。


 いや、まさかそんな……と、思って覗き込んでみると、カウンターの奥でエプロンをしていたのは、いつぞやにお世話になったクマ獣人のタケさんだった。


 それを見て俺はコン君に入ってみる? との確認を取り「うん!」との元気な返事を受けてから入店、タケさんに声をかける。


「お久しぶりです、お店始めたんですか?」


 するとタケさんはどこか申し訳なさそうに首を左右に振る。


 え? タケって店名でエプロンをしながら働いていて、お店を始めた訳ではない? そんなことある??


 と、疑問符まみれになっていると、お店の奥から随分と可愛らしいクマ耳を頭に乗せた女性が現れ、声をかけてくる。


「いらっしゃーい、タケちゃんのお友達?

 このお店はねー、私が始めたの……旦那さんの名前のお店とかおしゃれでしょ?」


 綺麗な黒髪をボブにして、タレ目を細めてそう言った女性は、どうやらタケさんの奥さんらしい。


 そしてこのお店は奥さんが始めたお店のようで……なるほどなぁと心の中で呟いた俺は、


「テイクアウトは出来ますか?」


 と、声をかけ「出来ますよ!」と帰ってきたのを受けて、お土産として買って帰るかと、とりあえずカウンター席に腰を下ろすのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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