山菜とチーズ
御衣縫さんの家からワラビとタケノコをもらってきて……食べられるように下処理したなら食べやすいサイズに刻む。
あとはそれをピザトースト……パンにバター、ケチャップを塗ってチーズをたっぷり乗せたものに乗せて焼けば山菜チーズトーストの完成。
「ちなみにケチャップを少なめの醤油にしても良いし、チーズだけの塩分で楽しんでも良い、塩だけとか塩コショウにするのも良い、そこら辺は好みになるかな」
と、そんなことを言いながら完成したトーストを配膳していく。
大きめ多め、獣人達の腹を満たせるようにしたそれがちゃぶ台に並んだら皆で「いただきます!」と声を上げて食事開始。
基本的な味付けはただのピザトースト。
それにワラビとタケノコの食感、それと風味が合わさっての山菜味。
チーズのおかげでクセがなくなり、食べやすくなったワラビとタケノコの食感がなんとも心地よくて……うん、いくらでも食べられる仕上がりだ。
問題があるとするなら洋風ピザトーストを期待するとガッカリというか、やっぱり肉とかハムの方が良いって人がいるんだろうなぁという味になっていることかな。
これはこれで美味しいんだけどピザの美味しさからは離れているというか……山菜を気軽に食べたいのなら凄く良いんだけどね。
チーズの油とワラビの相性はなんとも心地良いし、食べ飽きないのも良い。
気をつけないと食べ過ぎになるくらいの相性で……そしてそれは獣人達にも好評のようだ。
「チーズとワラビとタケノコがここまで合うたぁ予想外だったな。
チーズ焼きとかにしても悪くないし、酒のつまみにも良いんじゃねぇか?
んでちょいっと醤油を垂らしたらもう最高だろう」
と、御衣縫さん。
テチさんは無言で、コン君は美味しい美味しいと連呼しながら、さよりちゃんは何か感想を言おうとしてはトーストに齧りついてというのを繰り返している。
……思ったよりハマってくれているな?
山育ちだから山菜好きとか、そういうのなのか……獣人の味覚と嗅覚が山菜の風味を好んでいる、とかかな?
いやでも山菜自体は前にも出したことあるし……山菜とチーズの組み合わせがクリティカルヒットだったのかな?
「……御衣縫さん、山菜とチーズの組み合わせって特別美味しく感じるものですか?」
夢中なテチさん達に聞くよりはと御衣縫さんに聞いてみると御衣縫さんは、顎を撫で回し鼻をすんすんと鳴らしてから言葉を返してくる。
「おう、特別うめぇな。
ただよ、普通のチーズじゃぁこうはいかねぇと思うねぇ……このチーズ、なんか特別なやつだろ?
普段食ってるのとは全然違う風味だし、あんまいし、高級品なんじゃねぇのか?」
「ああー……それもあったか。
このチーズ、フキちゃんの牧場のやつなんですよ……あそこのしぼりたてミルクで作った手作りチーズで、かなりこだわった方法で作っているらしいです。
……それがあって尚更のこの反応ってことかぁ」
「そりゃお前当然そうなるだろ。
獣ヶ森の天然山菜に、最高級チーズってお前……とんでもねぇ贅沢品じゃねぇか。
こいつは思ってた以上のもんにありつけちまったなぁ……ああ、全く酒も欲しくなっちまうねぇ」
と、そう言って御衣縫さんはピザトーストの続きを堪能し始める。
良いチーズを使っていると知っていてもいなくても味は変わらないのだけど、知っていれば尚美味しく感じるのだろう、その顔は綻んでいて……俺はそれを見て皆の分のおかわりを用意することにする。
食べ過ぎは良くないけど、もう一枚くらいは問題ないだろうと焼き上げて……配膳したならこれで終わりだと示すためにお茶を淹れ始める。
そして食べ終えた人から順にお茶を配っていき……お茶を飲むことで食欲を落ち着かせる。
「思ってた以上に美味かった、ワラビとタケノコの相性も良いもんだな」
と、テチさん。
……今までも何度かセットの煮物出してるんですけどね?
「うまかったー! これならうちのかーちゃんも好きかも!」
と、コン君。
「美味しかったです、チーズと山菜の料理、他にも色々できそうですね」
と、さよりちゃん。
御衣縫さんは満足そうにつまようじを咥えての食後の時間を堪能していて……うん、皆満足してくれたようだ。
「いや、まさかこんなに受けるとはなぁ。
俺からしても美味しかったけど、そこまでじゃぁなかったから、やっぱり獣人の味覚に合ったってことなんだろうねぇ。
そうすると……御衣縫さん、山菜の塩漬け、多めに用意してもらうことになりそうです」
と、俺がそう言うと御衣縫さんはこくりと頷いてから声を上げる。
「いっくらでも手に入るからいくらでも用意してやるが、あんまり多すぎる今度は手が足りなくなっちまうな。
一応神主としての仕事もあるからよ……ある程度の量となったら手伝いをしてもらうことになるかもな。
テチちゃん達には山菜採りしてもらって、実椋には下処理してもらって。
それなら格安っつうか、ほぼほぼタダでも構わねぇよ」
「……良いんですか? タダで?
山菜も手入れした畑で育てているんですよね?」
と、俺が返すと御衣縫さんは、小首を傾げながら口を開く。
「あー……そうと言えばそうなんだが、畑程は手間かかってねぇのよ。
木を伐採して、綺麗に均して……あとは木の葉掃除してるくらいだな。
ほんものの畑のように耕しちまうと逆に生えてこなくなるから、土地を用意して育ちやすい環境を作ってやったら後はほぼほぼ放置だわな。
山菜っつうくらいだからな、山の環境がありゃぁ問題なく生えてくるもんよ」
「あー……なるほど。
車運転してるとたまに見かける、広い空き地がありましたけど、あそこが山菜畑なんですねぇ」
「おう、タラの芽とかになるとまた話は違ってくるんだが、ワラビはそんな感じだな。
タケノコは竹林だが、そこは別のもんに管理任せてて、そこまで苦労はねぇし……タダで全然構わねぇよ。
テチちゃん達がいりゃぁあっという間に山程の山菜が集まるだろうしなぁ」
との言葉を受けてテチさんとコン君、さよりちゃんはぐっと腕を持ち上げて力こぶを作るようなポーズでもって任せておけと示してくる。
そういうことならと山菜の塩漬け作りを手伝うことになり……俺達は後日、皆で御衣縫さんの畑へとお邪魔することになるのだった。
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