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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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そして日常へ


 そうして翌日となって両親と花応院さんは帰っていった。


 両親は獣ヶ森を去ることを残念がっていたけども、別れ際にテチさんが抱っこしていた由貴が両親の仕草を真似てなのか、バイバイといった感じで手を振ったことでご機嫌となって、また来る時が楽しみだと笑顔で帰っていったので、まぁ悪くはない結果だったのだろう。


 突然現れた人達が突然帰っていって、由貴がどう思うのか……寂しがったりするのかな? と、思っていたけども、全くそんなことはなく、人が少なくなったことで家の中が広くなり、たくさん駆け回れるとむしろごきげんで……そういう情緒が育つのはまだまだこれからなんだろうなぁ。


 ともあれ日常が戻ってきて……畑の手入れやら何やらで忙しく過ごすことになり、それなりに暑くなってきた頃、由貴の歯が生え揃ったということで授乳期間が終了となり、離乳食での食事が始まった。


 それと同時に言葉? のような声も出すようになり……うぅん、獣人の成長の早さには驚かされる。


 そんな由貴の好物はバナナで……バナナを加熱して柔らかくしたものも好きなら、バナナと何かを混ぜたものも大好きで……最近の我が家にはバナナの匂いが染み付いていた。


「ば~~、な~~~」


 離乳食を作っていると、由貴がそんな声を上げながら駆けてきて……俺の背中を駆け上り、頭の上に張り付く。


「ば~~~、な~~~」


 バナナと発音しているつもりなのだろう、鍋で煮込まれるバナナをじっと見つめていて……それと混ぜるように茹でたカボチャを用意していると、由貴がその小さな手でペシペシと俺の頭を叩いてくる。


 どうやら今日はカボチャの気分ではないらしい……ならばとパンを冷蔵庫から出すと、手の動きが止まり……どうやら今日はパンが良いらしい。


 バナナが崩れたら牛乳を混ぜてもう一度加熱、それにパンを入れてかき混ぜて……バナナパンがゆというか、そんな離乳食が出来上がる。


 それを由貴のために買った器に盛り付けて、由貴用のスプーンと一緒に居間へと持っていくと、由貴はさっと俺の頭から離脱して、居間のちゃぶ台脇にある、ベビーチェアへと自ら着席する。


 そのベビーチェアには食器を置くためのテーブルがついていて、そこに配膳してあげれば後はもう自分で勝手に食べてくれる。


 とは言えまだまだ綺麗な食べ方は出来ないので、エプロンをつけてあげて、近くでタオルを構えてのお世話が必要なのだけど、それはテチさんやコン君達がやってくれるので任せることにして台所へ。


 それから洗い物などを済ませて居間に戻ると……綺麗に完食した由貴がご機嫌でスプーンを振り回している。


 おかわりが欲しいとかそういうことではなく、美味しいご飯で満腹になれたことをそうやって喜んでいるらしい。


 スプーンでそれをやるのは行儀が良いとは言えないけども、このくらいの赤ちゃんにそんなことを言っても仕方なし、やりたいようにやらせておくことになっている。


 それに飽きたならきちんとテーブルの上にスプーンを置いてくれるし、食後は基本的に大人しくしてくれているし……手間がかからないのだから文句はなしだ。


 由貴が離れたのを確認してから、食器とテーブル板を回収、綺麗に洗って乾燥機へ。


 赤ちゃんが使うものなので毎回しっかり綺麗に洗って、定期的に消毒もしている。


「そこまでやるのは実椋くらいだがな」


 洗い物を終えて居間に戻ると、満腹おねむな由貴を抱っこしたテチさんがそんな声をかけてくる。


「……いや、普通このくらいやるんだよ? 由貴は哺乳瓶をあまり使わなかったけども、使う場合は毎回煮沸消毒するんだよ?」


 と、俺が返すとテチさんは「フッ」との声と共に小さく笑う。


 ……どうやら獣人的にはそこまでしなくて良いことらしい。


 抵抗力が違うのか、それとも扶桑の木の力の影響下だからなのか……おそらくその両方なのだろうなぁ。


 こっちに来てから病気らしい病気していないし、定期的に言っている歯医者の検診でも一切問題なし……扶桑の木の影響は確実にありそうだなぁ。


「……しかしこんなに早く離乳食が食べられるのなら、普通の食事も近いうちに出来るようになりそうだねぇ。

 そうしたら……うーん、どんなご飯を作ってあげるのが良いかな……やっぱりオムライスとかハンバーグとか、子供が好きなご飯になるのかなぁ」


「いや、栗ご飯だろう」

「栗ご飯だよ」

「栗ご飯です」


 なんとなしに発した言葉に、テチさん、コン君、さよりちゃんによる即返信が返ってくる。


 なるほど、栗鼠獣人としての初めてのご飯は栗ご飯になるのか。


 ……もしかして他の家庭の離乳食も栗だったり?


 なんてことを思い立ったけども、離乳食の相談をした時にはそんな意見出てこなかったし……離乳食はまた別物なのかな。


 あるいは赤飯みたいにおめでたいことがあると食べるのが栗ご飯で、離乳食を終えたってことを祝う意味もある……のかもしれない。


「そっか、じゃぁ離乳食が終わったら畑の栗で栗ご飯かな。

 ……ちょっと季節外れにはなるけど、水煮甘露煮、色々あるからどうとでもなる……はず。

 どうせなら新鮮なのを食べて欲しいけど、それは秋までの我慢かな」


 との俺の言葉に一同はうんうんと頷いてくれて……そしてぐぅっとお腹を鳴らす。


 栗の話をしたせいでお腹が空いた、ということだろうか……うぅん、由貴のことを考えると栗はとっておきたいし、他で何か……となるとクルミになるのかな。


 クルミご飯……というのは今ひとつだから、クルミを使った料理でもするかと台所に向かう。


 と言っても、クルミの料理は大体やり尽くしていて……新しいメニューも思いつけないので、クルミ入りの五目いなりでも作るかと作業に入る。


 甘いいなり寿司に五目具材を足して、ちょっとの苦みと歯ごたえのあるクルミを足すことで飽きずに食べられる代物に仕上げる。


 手間はそこまでかからず、美味しく栄養バランスも悪くない、クルミが入っていることによりリス獣人達の満足度もUPということなしの料理だ。


 それを作って作って……大皿に山のように積み上げたら、居間へと運んでいく。


 それからお茶とお吸い物を用意して居間に戻ると……すでに山体崩壊が起きている、あっという間に食べられて山の面影がありやしない。


 まぁ、うん、いつものこと、食欲獣人が相手なのだからこうなるのは当たり前。


 ……とりあえず自分もさっさと食べるかと配膳を済ませたなら、箸を構えて残り少なくなってきた山から、大きめのいなり寿司を掴み上げ、口へと運ぶ。


 甘い汁とクルミの風味と、各種具材の味とご飯の美味しさと……それらを堪能したならお茶を飲んで口の中をさっぱりとさせて……そうしてとりあえずの満足感を得たなら、すぐさま箸を構えていなり寿司を確保する。


 もう山体崩壊ではない、平原になりつつある、土台すら崩れかかっている。


 テチさんはいつものことで、コン君とさよりちゃんは少し成長したのか体が大きくなっていて、その分だけたくさん食べるようにもなっていて……次からは作る量を増やすべきかなと、そんなことを考えながら確保したいなり寿司を口へと運び……そうして最後となってしまったいなり寿司を、しっかりじっくり堪能するのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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