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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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花応院さんと御衣縫さん


 本シメジとカニのピザは……まぁまぁの出来だった。


 どちらもクセが強いというか、旨味が強い品だったので、正面からぶつかり合ってしまうのが欠点で、完璧とは言えなかったけども、具材そのものが抜群に美味しいので、そのおかげでのまぁまぁだった。


 そんなピザでも皆は楽しんでくれて……特にフキちゃんは、おしゃれな料理が楽しめたと大喜びだった。


 言う程おしゃれでも無いというか、俺からすると普通の料理なのだけども、外と違って獣ヶ森には各種チェーン店がなく、中々接することがないからおしゃれに感じるのかもしれないなぁ。


 そして食欲が爆発したらしいフキちゃんからリクエストが相次ぎ、それに応えてどんどんピザを作ることになり……その日は結局ピザパーティで終わることになった。


 それはそれで楽しく、花応院さんも御衣縫さんと交流出来たことを喜んでいたし、両親は目を覚ました由貴と遊べて嬉しそうだったし……まぁ、良い日だったのだろう。


 ……そして翌日。


 朝から花応院さんに連絡があり、何やら門の向こうであったようで、それ以上の滞在は難しくなってしまったようだ。


 だけどもすぐに帰ってこいという訳ではないようで……明日の昼頃までがタイムリミット、そのつもりで準備をして欲しいとのことだった。


「……何か大変なことでもあったんですか? 急に帰ってこいだなんて」


 朝食を終えて母さんと2人で家事を終わらせての休憩時間、お茶を入れて縁側に腰掛けながら問いかけると、先に縁側での休憩をしていた花応院さんが言葉を返してくる。


「そこまで騒ぐことではないのですが、わたくしが顔を出す必要のある案件のようでして……まぁ、よくある騒動のようですから、お気になさらず。

 世の中には偉そうな老人に言われないと納得してくれない、おかしな人達が多いのですよ」


 にっこりと微笑みながらのその言葉には、結構な感情が込められているようで……楽しい獣ヶ森での時間を邪魔されたことに、少なからず思う所があるようだ。


「そんなことよりも、ご両親には大変なご迷惑をかけてしまったようで……せっかくの家族との時間をこんな形で奪うことになるのは、本当に申し訳ない限りです」


「ああ、いえ……気にしないでください。

 花応院さんのおかげで俺達の今がある訳ですし、毎回の配達とか両親のこととかお世話になってばかりですし……感謝の気持ちしかないですよ。

 御衣縫さんも花応院さんと話が出来たことを喜んでいましたし……。

 ……そう言えば御衣縫さんとはどんな話をされたんですか? 随分と会話が弾んでいたみたいですけど……?」


「御衣縫さんとは大変意義のあるお話をさせていただきました。

 獣ヶ森のこと、外のこと……わたくしの活動にも良い助言をいただきました。

 御衣縫さんの助言は素晴らしいものばかりで……目が開かれた想いです。

 率直であり卓見であり……ああいう方がいらっしゃるのであれば獣ヶ森も安泰なのでしょう」


 ……一体どんな会話が繰り広げられていたのやら。


 ピザ作りのために台所にいてばかりだったから、内容を想像することも出来ないのだけど、これはかなりのことがあったようだ。


 ただまぁ……悪い内容ではなかったというのは確かなようだし、花応院さんがまさかこんな状況で嘘を言うとも思えないから、意義のあるものだったのだろう。


 そういうことならまぁ良いかと、そんなことを考えていると、トトトッと小さい何かが駆けてくる足音がして、そしてそれが物凄い勢いで俺の背中に飛びついてきて、パシッと背中にしがみつく。


 どうやら昼寝をしていた由貴が起きてきたらしい。


 そして珍しいお散歩要求モードに入ったようだ。


 こうやって背中に張り付いた由貴は、そのままにしておかないと不機嫌になってしまうので、あえて何もせずそのままにして……そしてそのままの状態で家の近くを軽く散歩して回る。


 これもまたしておかないと由貴が不機嫌になってしまうことで……要するに外に行きたいけど、一人は怖いから連れていけ、という意思表示が背中への張り付きだった。


 ぎゅっとしがみつき、俺の体温を感じながら周囲を見回し……外の風景に慣れようとする。


 ……が、獣ヶ森には生命感が多いというか、様々な音や気配、鳴き声が潜んでいて、時には空を舞い飛ぶ猛禽類の姿なんかもあって、それらを感じ取ると由貴は怯えてしまって、ぎゅっと俺のシャツを強く強く握りしめてくる。


 これのおかげでシャツの何枚かには爪による穴が開いていたりして……まぁ、うん、子育ての勲章みたいなものなんだろう。


 そうやって怯えながらも由貴は外の世界に興味津々で……何回かぐるぐると回ってやらないと満足してくれない。


 それを終えて家に戻ると、途端に怯えなくなり元気を取り戻し……家の中を元気に駆け回る。


 家の中は安全だと理解しているようで、無警戒に自由に、思うがままに駆け回る。


 そうやって駆けたなら棚の上のクッションで休憩が常なのだけど……今日は居間で休憩していた母さん達の下へと向かうようだ。


 ようやく母さん達に慣れてきたらしい由貴は、それなりに近い距離まで近付き……そして何かを期待している視線を送る。


 遊んで欲しいのか、構って欲しいのか……それともただ眺めていたいのか、よくは分からないが、とにかくじぃっと見つめて……母さんがそっと手を伸ばすと、仕方ないから撫でさせてやるかってな態度で手に体を預けて……かゆいらしい背中をぐいぐい押し付ける。


 それを受けて母さんは、いつになく嬉しそうな顔で由貴の背中を撫でてやり……それを羨ましがった父さんもそっと手を伸ばして参戦する。


 ようやく2人にそうさせることを許したらしい由貴……明日でお別れとなってしまう訳だけど、その前にあそこまで懐いてくれたのはありがたいことだった。


 次いつ会えるかは分からない訳だし、両親にとってのいい思い出となってくれたはずだ。


 由貴にとっては……うん、すぐに忘れてしまう程度の思い出なのだろうなぁ、俺も赤ん坊の頃のことなんて、全く覚えてないし。


 ……と、そんなことを考えながら様子を見守っていると、由貴がうとうととし始めて……それを察した母さんは両手でそっと由貴のことを抱き上げ、撫でてやりながらベビーベッドへと持っていき……そっと寝かせてタオルケットをかけてあげる。


 それから2人でじっと寝顔を見つめ始め……恐らくそのまま2時間でも3時間でも眺め続けるのだろう。


 そうなったらもう何を言っても動かないことを知っていた俺は……いつものように遊びに来たコン君達と合流し、今日はテチさんが家にいるからと車に乗っての買い出しへと出かけるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
知り合いのとこの猫が、いつも甘えて踏み踏みしながら自分のズボンと皮膚に穴を空けるのですが、実椋君の背中は無事でしょうか…(・∀・;)
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