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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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ピクルスピザ


 食欲爆発させたテチさん達のために、次々ピザを焼いていく。


 買ってきたカニ全てを使う勢いで、チーズの種類を変えての味変をしたりして。


 そうやって何枚かのピザを焼いた所で、お腹を膨らませたコン君がよたよたと台所に歩いてくる。


 何か欲しいものでもあるのかな? と、首を傾げているとコン君は、流し台の下にある棚の扉を開けて、中に閉まってある保存瓶を一つ、手にとって持ち上げてこちらに見せてくる。


 これ食べて良い?


 と、言いたげなコン君が持った保存瓶の中身は手作りピクルスで、俺は「良いよ」と、言いながらビンを受け取り、中から数本ピクルスを取り出し、食べやすい薄さに切り分けていく。


 このピクルスは少し前にコン君と一緒に作ったもので、ディルハーブを中心に色々な香辛料を入れてある。


 ちょっと辛めで香りが強くて、バーガーやサンドイッチにおすすめな一品。


 ピザに合うかは……正直なんとも言えないのだけど、まぁ味変に使うくらいは悪くないだろう。


 切り分けたなら小皿に盛り付けて……と、そうこうしているとコン君は次の保存瓶を取り出し、さっきと同じようにこちらに差し出してくる。


 それはハラペーニョピクルスの入った瓶で……俺はうーんと首を傾げてから声をかける。


「それ辛いよ? 辛くて酸っぱいよ? 作った時にも言ったけど、子供向けではないというか……マイルドだけどもしっかりとした辛さがあるよ?

 辛さが欲しいのならタバスコって手もあるけど……」


「……うっぷ、これが良い。

 て、手伝った保存食、おじさんとおばさんにも食べてもらいたい」


 と、俺の言葉にそう返してきたコン君は、膨らんだお腹をそっと支える。


 ……さっきからなんで喋らないんだろうと思っていたら、お腹が膨らみすぎて喋るのが大変らしい。


 ……あんまり喋りすぎると口から出てしまうのかもしれない。


「……もう食べすぎないっていうか、食べないのなら用意してあげても良いよ。

 コン君、もう限界でしょ?」


「だいじょぶ、もうちょっとしたらトイレいってスッキリするから」

 

 俺の言葉に更にそう返して来たコン君はもじもじとし始め……俺は先にトイレ言っておいでと、目線でトイレの方を示してから保存瓶を受け取り、ハラペーニョピクルスを切り分けていく。


 ハラペーニョピクルスは、激辛バーガーとかに入っていることが多い、太めの唐辛子の一種だ。


 辛さはマイルド、鷹の爪よりも辛くない唐辛子で……ちょっとした辛さと食感を楽しむための食材だと思っている。


 ピクルスにするとより美味しくなってくれて、辛くて酸っぱいそのピクルスは、バーガーにピザ、パスタにサンドイッチ、ロコモコに合わせても良いもので、結構色々な使い方が出来る。


 細かく刻んでトマトやタマネギと合わせてソースにして、色々なものにかけても凄く美味しく……チーズや肉との相性はかなり良い。


 ピクルスもまた保存食ということで、定期的にあれこれ作っていたのだけど、まさかここで出番が来るとはなぁと、切り分けて小皿に盛り付け……それから居間に持っていく。


 するとトイレですっきりしたのか、お腹をへこませたコン君が洗ったばかりの手をハンカチで拭きながら戻ってきて……俺が切り分けたピクルスを見て目を輝かせる。


「やった! ピクルスだ!

 これ、これ、オレも手伝ったんだよ! このピザにも合うと思う!!」


 スッキリしたことで元気さを取り戻したコン君がそう言うと、テチさんや花応院さん、そして両親は目を細めて微笑ましい気分に浸り始め……それからそういうことならと、それぞれ動きを見せる。


 テチさんは自分の分とさよりちゃん、コン君のピザにピクルスを乗せ始め、花応院さんや両親はピザはなしで、それだけを食べようとし始める。


 ピザを箸で食べるかもと用意しておいた箸でもってちょいとつまみ上げ、口に運んで咀嚼して……コン君に美味しいよと声をかける。


 ……まぁー、普通に作った普通のピクルスなので、味としては普通だろう。


 特別な材料も手法もなし、普通のピクルスは塩水から発酵させたもの、ハラペーニョは酢漬けにしたもので、微妙な味の違いがあったりするのだけど、多分両親は気付いていないんだろうなぁ。


 花応院さんは恐らく舌が肥えていてそこらの違いに気付いていて……何なら俺が作ったものよりも圧倒的に美味しいピクルスとかも食べたことがあるはずなのだろうけども、そのことは一切表に出さず、ただニコニコとしてコン君を褒めている。


 そしてテチさんはハラペーニョたっぷりピザを、コン君達はまずはピクルスたっぷりピザを楽しみ始める。


 上等なカニとモッツァレラチーズ、それに手作りピクルスというピザは、生地が半端でも十分過ぎる程に美味しかったらしく、テチさんの目が見開かれもくもくと食事を進めていく。


 コン君とさよりちゃんも楽しんでいるようで……特にコン君は自分が手伝った保存食だと、美味しい半分自慢半分、得意げに胸を張りながら食べ進めていく。


 普通のピクルスを食べたならハラペーニョピクルスピザも食べて……そしてコン君は、ふんふんと鼻を鳴らしながら口を開く。


「オレ、酢がけっこー苦手でさ、かーちゃんの酢漬けとかあんまりだったんだよね。

 花のやつとか、酢の物とか……いや、食べれるんだけど匂いがきつくてさー。

 でもにーちゃんのはあんまきつくないよね?」


「あー……ハーブとか香辛料で中和しているとか、米酢をあんまり使わないとか、その関係かもしれないね。

 俺は基本リンゴ酢派だから、リンゴ酢だとあまりきつい匂いはしないのかも?

 と、言っても獣人の鼻ほど鋭い嗅覚ではないからよく分からないけど……」


 と、俺がそう返した所で、縁側から二つの声が響いてくる。


「よぉ、美味そうなもん食ってんな? 匂いがそこら中漂ってて誘われちまったよ」


 と、タヌキ獣人の御衣縫さん。


「またきたよー! ピザでしょ、ピザ焼いてるでしょ! あたしも食べる!!」


 と、猫獣人のフキちゃん。


 そんな2人の登場……というか、タヌキそのものの姿の御衣縫さんの登場には両親は面食らったようで、大人のような声と口調、仕草を見せてくる御衣縫さんに視線を釘付けにしている。


「たまに大人のままこういう姿になる獣人もいるんだってさ。

 ……御衣縫さん、こちらうちの両親と花応院さん……俺が色々とお世話になっている人です」


 と、御衣縫さんに両親達を紹介すると御衣縫さんはペコリと頭を下げての挨拶をし……背負籠の中に入っていた干し本シメジをごろごろと落としてしまう。


 ピザの代金として持ってきてくれたらしいそれを見て、両親はただの干しキノコかな? なんて顔をし……そして花応院さんはすぐにそれが何であるかを察して、目を丸くしての物凄い顔を見せてくる。


 そしてすぐに御衣縫さんと交渉したいというような表情になるけども……食事に来た御衣縫さんを邪魔したくないのかぐっと堪えて、簡単な挨拶と雑談をし始める。


 まずはそうやって縁を結ぼうとしているのか……とにもかくにも転がった干し本シメジを拾い上げた俺は、それとカニのピザでも作ってみるかともう一度台所に向かうのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。

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