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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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カニマヨピザ


 リス獣人の歯の強さを見せつけられた俺は、少し怯みながら台所に戻り、蒸し鍋を用意し始める。


 すると同じくいつもの椅子に戻ったコン君が、首を傾げながら声をかけてくる。


「あれ? さっきは茹でたのに、今度は蒸すの?」


 それを受けて俺は蒸し鍋の準備を進めながら言葉を返す。


「カニを食べる方法として茹でるのも良いんだけど、蒸すのもそれはそれで悪くないんだよね。

 蒸すことでぎゅっと身が締まるし、必要以上の水分に晒されないせいか、水っぽくならず旨味も凝縮された感じがするし……全然ありなんだよね。

 あとは香りかな……蒸すと茹でるより香りが強くなるから、カニの香りを楽しみたい時は断然蒸しだね。

 で、これから料理するのはピザ、焼き料理で水分が無いほうが美味しく仕上がるし、香りも大事だから、蒸しでやってみようと考えたんだ」


 と、そう言いながら俺はカニの腹にある三角の部分、通称ふんどしをぺらりとめくる。


 そこを軽く水を流して洗ったなら、結構多めの塩をとって中に塗り込み……それからふんどしを閉じて準備完了、蒸し鍋のお湯が沸くのを待つ。


「今のお塩は?」


 と、コン君。


「ああ、ここに塩を入れるとカニ全体に味が行き渡るらしいんだよ。

 茹でる場合も蒸す場合もここにお塩、蒸す場合はどんどん溶けて落ちていくから、多めにしてもしょっぱくはならないよ。

 あとはしっかり蒸して……蒸し終わったら殻を剥いて身を取り出して、ピザ生地に乗せて焼いたら完成だね。

 味付けは……チーズだけにするか、マヨネーズソースもかけるか、やや酸っぱめのドレッシングソースを作っても良いと思うけど―――」


 と、俺がそう言いかけた所で、


『マヨネーズ!』


 コン君とさよりちゃんが同時に声を上げる。


 多分有名なチェーン店のCMを思い出したのだろう、カニマヨカニマヨと結構な頻度でCMが流れているからなぁ……。


 CMで流れはするけどお店はなく食べられなかった憧れの味になる訳か……そういうことならマヨネーズメインで行こう。


 という訳で蒸し上がるまでまってから、カニの解体を開始。


 コン君達にも手伝ってもらって、できるだけ身の形を崩さないようにし、崩れてしまったものはほぐしてしまい……ほぐし身と棒肉、両方用意してピザ生地の上に綺麗に並べていく。


 まずほぐし身、そこにチーズをふりかけマヨネーズ、そして棒肉、またマヨネーズ。


 最後にイタリアンパセリとハーブのミックスを軽めに……香りが出過ぎない程度にふりかけたならオーブンへ。


 そしてじっくり焼き上げ。


 生地が焼ける匂いとチーズのとろける匂いと……カニのたまらない匂いがオーブンから漏れ出してきて……オーブンの前に椅子を置いてオーブンを睨み続けているコン君のお腹が盛大な鳴き声を上げる。


 ……が、コン君は気にした様子もなくオーブンを睨み続け……焼き上がったならすぐさま俺に早く早くと視線を送ってくる。


 オーブンから取り出したなら大皿に乗せてカッターでカット、そのまま居間へと配膳し……俺はそのまま2枚目の準備を始める。


 あの様子では瞬殺は約束されていて、早く次を焼く必要があるのは明らかだった。


「うっまー!」


「おいしいー!」


 まずコン君とさよりちゃんの声、テチさんは恐らく無言で夢中で食べている。


「うわっ、このレベルのカニがあんなに安いのか」


「……たくさん買って配送とかしちゃ駄目かしら?」


 そして父さんと母さん、花応院さんは……恐らく無言だと思う。

 

 もしかしたら花応院さんも配送を考えているのかもしれない。


 解体をしている時に気付いたのだけど、ただの毛ガニではなく、かなり上等な毛ガニだった。


 身が詰まっていてプリプリ、養殖でたっぷり餌を食べているおかげか、足一本一本も太くて……普通の毛ガニとは明らかに別物なのが分かる。


 うぅん、他の色々な料理にしても美味しいかもなぁ……と、考えながらピザをどんどん作っていく。


 すると誰かが台所へとやってきて……やってきたのはまさかのまさか、花応院さんだった。


「……この養殖所、どうしてこんなにカニがお安いのか、理由をお伺いすることは可能でしょうか?」


 そしてそんな問いを投げかけてきて……俺は作業を続けながら言葉を返す。


「買い物の時にチラッと聞いたのは、増えすぎて困っているとかなんとか、そんなことを言っていましたね。

 今の所は共食いとかは起きていないみたいですけど、このまま増えすぎると養殖プールが狭くなって共食いが起きるかもってんで、安く売って数を減らそうって感じらしいです」


「……なるほど。

 では輸出するくらいの量はある訳ですね……防疫の観点から今すぐにというのは無理かもしれませんが、先々に……というのは可能かもしれないと」


「……まぁ、可能なんじゃないですか? 本土でも遠方の冷凍カニとか普通に買える訳ですし……。

 あ、缶詰とかどうです? 缶詰なら殺菌の工程もあるし、防疫もやりやすいと思うんですけど……?」


「……缶詰、缶詰ですか、なるほど。 

 確かに缶詰なら外装ごと殺菌処理できますし、内部の検査も容易……。

 まず缶詰で獣ヶ森の毛ガニを定着させてから冷凍配送……悪くないかもしれませんね」


「これだけ身が詰まっていると缶詰でも絶対美味しいですし、安売りする程余っているならかなりの量が作れるはずですよ。

 ……アジとか他の魚も美味しいですし、養殖所と直接交渉してみてはどうです? 多分嫌がらないと思いますよ」


 との俺の提案を受けて頷いた花応院さんは、スマホ片手に家の外へと出ていく。


 そして車のドアが閉まる音がして……車の中で誰かと密談をするのだろうなぁ。


 ……まぁ、うん、俺なんかがそんなことを気にしても仕方がないし、今はとにかくピザを作るかと作業を進めていく。


 ……そして、5枚のピザを焼き上げた所で、流石に疲れが出てきたので作業を切り上げて俺も居間に。


 それからお茶を用意してからピザを一切れ食べると……うん、べらぼうに美味しいな、これ。


 香りも味も強い、カニがマヨネーズとチーズに負けずにしっかり主張していて、むしろマヨとチーズが押されている感じだ。


 味付けはマヨネーズで正解という感じで……弱い味付けだったらカニに完全敗北して駄目になっていたかもしれないなぁ。


 ピザ生地は急遽用意したもので今ひとつだけど、しっかり寝かせたものならもっと美味しくなるはずで……具もまだまだ調整のしがいがありそうだ。


 そんなことを考えながら二切れ目を食べようと手を伸ばすと、大皿の上には最後の一切れしか残っておらず、それを確保した俺は、まだまだ食欲が失せていないのかと、完全な傍観者モードとなった母さんと父さんと一緒に驚き、戦慄するのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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