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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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まさかの昼食


 俺達が台所で作業をしていると郵便屋さんが来たようで……玄関のポストのカコンという音を聞いて母さんが郵便物を取りに行ってくれる。


 そうしてくれとお願いした訳ではないのだけど、条件反射みたいなものなのだろう……実家では郵便物の確認と整理は母さんの仕事だったので、ここでもそれをやってくれるつもりのようだ。


 ……と、言っても門の向こうからの手紙なんかは花応院さんが持ってきてくれるし、獣ヶ森の知り合いは用事があれば直接やってくるので、今の我が家に届く郵便物はお店のチラシがほとんどだ。


 外のチラシよりはもっと手作り感があるというか、それぞれのお店が自分達で作って郵便局……ではなく郵便屋に預けて配送してもらうという形になっている。


 ……そう、獣ヶ森に郵便局はないらしい、いや、郵便屋さんがそれらしい建物で、それらしいポストを管理し、それらしい仕事をしているのだけど、元々公営だった門の外の郵便局とは全く関係ない人が運営しているんだそうだ。


 だから郵便局ではなく郵便屋と皆呼んでいるそうで……そしてその郵便屋さんが持ってきてくれたチラシは、父さんと母さんにとって中々興味深い内容だったようで、居間に持ってくるなり夢中になって目を通している。


 あまりの夢中っぷりに花応院さんも気になったのか目を通し始め……俺も一体何が来たのだろうと気になって居間に戻り、軽く目を通すと……今日届いたのはスーパーからのチラシと、レイさんのお店からのチラシと、養殖所からのチラシの三枚だったようで、そのどれもが門の外の人からすると興味深いものであるらしい。


 ……まぁ、そうか、俺もここに来たばかりの頃はスーパーの品揃えとかに驚かされたもんなぁ。


 外の品が普通に売ってたり、外では高いものが激安だったり……最近出来た養殖所のチラシなんかは特に興味深いものになるだろうなぁ。


 山のど真ん中もど真ん中、日本のどこよりも海が遠いような地域で新鮮な海魚が商品として並んでいるのだから驚いて当然か。


 花応院さんは養殖所の存在を知っていて……というか、花応院さんが設備や技術、元となる魚とかの提供に協力したらしく、設備が順調に稼働していることは知っていたようだが、まさかこんなに成功しているとは……丸々太った美味しそうな魚が結構な割安で提供されているとは知らなかったようで、目を丸くしながらも嬉しそうにチラシに夢中になっていた。


 そんな三人の様子を確認した俺は、台所に戻ってさて、昼食は何にするかなと冷蔵庫を眺めていると……居間から物凄い声が響いてくる。


「え!? カニ!?」

「毛ガニがこの値段!?」

「か、カニの養殖は不可能なはずでは!?」


 母さん、父さん、花応院さんの順。


 どうやら養殖所のチラシに養殖毛ガニの販売に関する記載があったようだ。


 ……そう言えば聞かないな、養殖のカニって……。


 と、思いながらスマホで調べてみると、どうやらカニを水槽で飼育すると共食いをしてしまうので養殖には不向きであるらしい。


 生育にも時間がかかるし、コストもかかる……一部のカニは養殖可能らしいけど、大体のカニは不可能ということらしい。


 それが獣ヶ森の養殖所では可能になっている……と、また扶桑の木がなんかやらかした結果なのだろうか。


 なんてことを考えていると父さんがチラシを持ってきて……、


「実椋、毛ガニを食ってみたい! この値段なら山程食えるぞ!」


 と、そんな声を上げてくる。


 うぅん、昼から毛ガニかぁと怯む俺だったが、椅子にちょこんと座ったコン君とさよりちゃんの目が輝いているのを見て、これはもう決定してしまったかと抵抗を諦める。


「じゃぁ今から買ってくるからちょっと待っていてよ。

 テチさんが帰ってきたら買い物に行っていると伝えておいて……それと由貴だけど―――」


 と、俺がそういった所で、両親が自分達に任せておけと良い笑顔を向けてくる。


 いや、懐かれていない2人に任せておけないでしょという顔を返すが、今度はコン君とさよりちゃんが自分達が手伝うからと向こう側に参戦し……そういうことならと財布と鍵を引っ付かんで、車へと向かい、養殖所へとさっさと向かう。


 到着したなら受付で注文、また見学しますか? とか、聞かれたけども今日は時間がないのでお断りして、毛ガニの準備だけしてもらい……本当に驚く程に安い、エビかってくらいの料金を払って、大きな発泡スチロールの箱にぎゅうぎゅう詰めになった毛ガニを受け取り……車に詰め込んでさっさと帰宅する。


 帰宅すると由貴は寝たままだったようで……一安心だと胸を撫で下ろしてから手洗いうがいを済ませ、発泡スチロール箱と一緒に台所に向かう。


 そして箱から一匹……ハサミと足を縛られたのを取り出して、流し台に置くとモゾモゾと動こうとし始め、それを見たコン君が、耳と尻尾をピンと立てながら声を上げる。


「生きてる!」


「うん、新鮮なカニは生きたままお渡しってことは結構あるんだよ。

 海近くの市場とか大体そんな感じで……これも養殖所で元気にしていたのをさっと梱包してもらった感じだね。

 ……まぁー、すぐに調理するからそれまでなんだけどさ」


「なるほどなー。

 ……川にいるのと違ってでっけぇ! 冷凍のは食べたことあるけど、足だけとかだったから、丸々は初めてかも!」


 なんて会話をしながらどんな料理にするかと考えて……何はともあれシンプルに茹でようと大鍋で茹でていく。


 と、同時にパン生地作りを開始、チーズやらも用意して……首を傾げるコン君に分かるようにピザカッターを用意して見せつける。


 するとコン君は椅子から跳びはねて喜んで……手伝いたくなったのだろう、さよりちゃんと一緒に居間に駆けていき、割烹着の準備をし始める。


 個人的にだけどカニとピザの相性は悪くないと思っている。


 焼くことでカニの旨味と甘みが強調されるし、チーズとの相性が良いし、他の具材がなくても成り立つし……本当に美味しくなってくれる。


 大手のチェーンとかが冬になるとカニのピザを強烈に推していたりするけども、それも納得の美味しさとなる。


 それを自分で作ったなら……チェーンのものより美味しいカニをたっぷり使うことが出来る訳で、凄まじい満足感のピザが出来上がるという訳だ。


 その上、あの養殖所のおかげでコスパもよく、下手をするとチェーン店で買うよりも安く済んでしまうかもしれない。


 そうなったらもう作るしかなかった。


 という訳でコン君達に手伝ってもらいながらピザ作りを進めて……そうこうするうちにテチさんが帰ってきて、生地を熟成させないでピザ作りを敢行、同時に茹でただけの毛ガニを食卓に運ぶ。


「急いでピザ作っているから、それまでこれで我慢してね。

 カニ用の道具とかはないから……こう、どうにか身をほじって食べてよ」


 と、俺がそう言うとテチさんはニッコリと笑い、毛ガニからハサミを一本もぎ取り、結構な硬さのはずのカニのハサミを、その自慢の歯でもってバキリと噛み砕く。


 ……さすがリス獣人。


 その光景を見て苦笑した俺は、コン君とさよりちゃんにも「食べながら待っててよ」と声をかけ……カニピザの仕上げに取り掛かるのだった。




お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
蟹は美味しいけど、うちの息子(高校生)は見た目がグロいと絶対拒否です。もったいないと思いつつ自分は納豆が絶対拒否なので同族です。 蟹が安いのはうらやましい!
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