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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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駆け回る由貴


 朝食や家事を終えて……テチさんは畑へと出勤し、家には俺と両親、そして由貴が残ることになった。


 由貴はそろそろ離乳食もいけるし、リス獣人用の哺乳瓶にも慣れてきた、テチさんが側にいなくても問題ないだろうとの判断で……実際特に問題はなかった。


 家の中を疲れるまで駆け回り、疲れたらクッションで眠り……そして家の外に出ることはない。


 正直由貴の小ささと俊敏さで外に出られると大騒ぎになるのだけど、今のところ出ても庭くらいのものでそれ以上家から離れることはない。


 テチさんによるとリス獣人の赤ん坊は大体そんなものらしく……元気なのは巣、家の中だけなんだそうだ。


 食事が出来ないとか喉が乾いたとか、巣が汚れているとか事情があれば出ることもあるらしいけども、生活が十分に満たされているなら出ていくことはないんだそうだ。


 だから家事で少し目を離しても安心で、テチさんがいないことに気付いて寂しがっても、撫でて構ってやればすぐに忘れてくれて……昼食まではこれで大丈夫なはずだ。


 昼食タイムになればテチさんが戻ってきてくれるはずだし、うん、問題はないだろう。


「由貴ちゃんきたよー!」

「きましたー!」


 それにコン君達も来てくれるしなぁと、そんなことを考えているとナイスなタイミングでやってきてくれて……コン君達の声を聞くなりユキは駆け出して、コン君とさよりちゃんに飛びつき、抱きつく。


 自分とそっくりの姿をした2人、ふわふわの毛皮を持っている2人。


 由貴にとってコン君達は特別な存在であるようで……そうやって抱き合う子供達を微笑ましく眺めていた両親は、どこか羨ましげにコン君達を見つめ始める。


 自分達には寄ってきてくれないのに……抱きついてくれないのに……と、そんな目だ。


 まぁー……会って数日では由貴が慣れてくれるはずもなく、仕方ないことなのだけど、それでも両親はそんな目をするのを止めず……その目に気付いたコン君が気を使ってくれたのか、どうしたら良いのかな? と、そんな顔をして腕を組んで首を傾げて悩み始める。


 俺は……何をしても無理だと思うなぁと静観の構えを取るが、コン君はそれでも悩み続け……そして何か思いついたことがあるのかポンと手を打っておもちゃ箱へと駆け寄る。


 その箱の中には由貴用のオモチャやヌイグルミが入っていて……コン君はその中から、新体操に使うようなリボンを小さくしオモチャ化したものを取り出し、それでもって由貴を構い始める。


 リボンを揺らして振り回して、上手い具合に由貴の興味を引いたなら、そのリボンでもって父母の所へと由貴を誘導していき……そうやって由貴と母さん達を引き合わせるつもりらしい。


 そしてそれは上手くいっていて、小さな両手をワタワタとさせながらリボンを追いかける由貴がどんどん母さん達の方へと近付いていって……そしてあとちょっとで抱き合えるという所で、コン君が母さんを避けるためにリボンを振り上げたことでちょっとした奇跡が起きる。


 リボンがうねって跳ね上がり、それに釣られて由貴も飛び上がり、まさかの母さんの頭の上に着地。


 なんとも予想外の接触となってしまう。


 それを見てコン君が口に手を当ててあちゃーという顔をする中、母さんは全く気にした様子もなくご満悦で、父さんはすぐさまスマホを構えての撮影会を開始する。


 あ、それで良いんだ? と、そんな顔をするコン君。


 さよりちゃんはコン君の失敗が恥ずかしいのか両手で顔を覆っていて……そして由貴は急にリボンが動かなくなったことできょとんとした顔をし……すぐに他の遊びを始めようとする。


 そこでコン君はまたもリボンを振り回し……由貴に部屋の中を駆け回らせ、由貴に十分遊ばせてからまたも母さん達の方へと誘導する。


 が、今度の狙いは母さんではなく父さんで……由貴の駆け回り方もあって結果は、父さんの背中に由貴が張り付く形となる。


 それを受けて父さんはおんぶみたいだとご満悦、母さんは何故か悔しげに撮影を始めて……数分の後、何も起きないことに飽きた由貴は駆け出し……棚の上のクッションでの昼寝を始める。


 それから両親は由貴を起こさないように小声でコン君にお礼を言って……コン君が恐縮していると財布を取り出し、お小遣いをあげようとし始める。


 しかしコン君はそんなの受け取れないと首を左右に振り、両親はそれでもと迫り……流石にこれは良くないなと大きめの咳払いを一つする。


「ゴッッホン」


 すると両親は空気読めよ、みたいな顔でこちらを見てくるが、それでも財布をしまってくれて……どうにか事態が収拾する。


 するとコン君はホッと胸を撫で下ろし……それから器用に棚を駆け上がり、眠る由貴のすぐ側に立って、由貴のことを覗き込み始める。


 サヨリちゃんもそれに続いて、同じように覗き込んで……こうしてみると獣人の親子のように見えてしまうなぁ。


 コン君もさよりちゃんもそんな年齢ではないのだけど、そっくりの姿の3人が並んでいるとそう見えるもので……なんともほっこりとする絵面が出来上がる。


 そこに花応院さんがやってきて……静かに車から降りてきて、用意した座布団に腰を下ろし、出したお茶をゆっくりと飲み始める。


 ……花応院さんがやってきたのは単純に由貴の様子を見に来たとか、遊びに来たというのもあるのだけど、両親を見張る意味も含まれているのだろう。


 両親が立ち入って良いのは、俺が所有する土地だけ、この家か畑だけで、獣ヶ森そのものに入ることは許されていない。


 もし入ってしまったなら法的にも防疫的にも大問題で……それを避けるためなのだろう。


 また同時に、両親がそろそろ帰りたいと言い出したらすぐにでも対応出来るように、というのもある。


 両親は今回、数日間の滞在許可を得たそうだけども、その日数全てをフルに使わなければいけない訳ではない。


 昨日帰っていても良いし、今日帰っても良いし……防疫的には早く帰った方が良いらしい。


 こちらでの滞在が長引けば長引く程、門での検査や待機時間が長くなるそうで……場合によっては丸一日拘束されることもあるらしい。


 なので早く帰るのならそれにこしたことはないのだけど……両親の様子を見ると期日をフルに使い切りそうだなぁ。


 と、そんなことを考えていると良い時間になってきて……お昼になってテチさんが帰って来る前に昼飯を作っておくかと立ち上がり、慌てて追いかけてきたコン君達と共に台所に向かうのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。

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