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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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浮気について


 色々な果物を使ったフルーツアップルパイは、食べてみると「なるほど」という味だった。


 アップルパイがベースなんだけども色々な味と食感があって、色々な果物を楽しめて……もっと種類を増やしてみるのも良いかもしれない。


 フルーツサラダとかフルーツポンチとか、そういった美味しさと楽しさがあるとも言えて……皆からの評判も上々だ。


 父さんや母さんだけでなく花応院さんも楽しんでくれていて……お茶と一緒にゆっくり味わってくれているようだ。


 テチさんを始めとした獣人組はあっという間の完食、完食しただけでなく視線でもっておかわりをねだってきているが、さっき食事をしたばかりということでNG、流石に食べ過ぎラインを越えてしまいそうだ。


 もっと食べたいと視線で抗議してくる獣人組を無視して片付けていると、車の音が聞こえてきて……何か予定でもあったかな? と、首を傾げながら縁側に行って顔を出すと、牧場からの配達車がやってきたようだ。


「やっほー、由貴ちゃん、今日も元気にしてるかなー?」


 なんて声を上げながら縁側へとやってきたのはフキちゃんで、配達車の中から大きな保冷バッグを持ってきてくれている。


「いらっしゃい、フキちゃん……なんか注文してたっけ?」


 と、俺が返すとフキちゃんは、にっこりと笑って言葉を返してくる。


「今日はねー、あたしが作った料理の味見してもらおーと思ってさ、色々持ってきたんだよ。

 結構ねー、うまくなってんだよー、これでも」


 なんてことを言いながらいつものように縁側に上がったフキちゃんは、普段いない面々を見て……それから花応院さんが運転してきたバスの存在に視線をやってから、俺へと視線を移してくる。


 バスが視界に入ってなかったのか、入っていたのにスルーしていたのか……とにかく説明をした上で紹介をするとフキちゃんは、社会人一歩手前らしい新鮮さがありつつ真面目な挨拶をしっかりとしてくれる。


 テチさんの生徒であるということで父さんも母さんも花応院さんもすんなりフキちゃんを受け入れてくれて……フキちゃんも俺の家族と仕事仲間? だからとすんなり受け入れて、すぐに緊張感を解いて……そして保冷バッグを冷蔵庫に置いてから、ベビーベッドに張り付けになる。


 耳を立て尻尾をくねらせ、眠る由貴をじぃっと見つめ……父さんと母さんはそんな光景を驚き半分、好奇心半分といった表情で眺め、そして花応院さんは満面の笑みでもって見守る。


 獣人に興味津々、可愛らしい尻尾から目が離せないといった様子だ。


 獣人のいる世界、当たり前に生活している世界……結婚式などで見かけてはずだけども、あの時はイベント中というか特別な時間だったのでそこまで意識が行ってなかったのかもしれないなぁ。


「……まさかとは思うが実椋、浮気とかは駄目だからな?」


 そしてそんな中で父親の、小さな小声での空気の読めない一言。


 なんでまたこんな場で、こんなタイミングで、そんな馬鹿を言ってしまうんだろうなぁと呆れていると、母さんも同じ気持ちだったのだろう、かなり強烈な肘打ちが父さんを襲う。


 そして父さんの小声はしっかりと獣人の耳が拾っていて、それぞれ微妙な顔をしての反応を見せる中、フキちゃんが振り返りからから笑いながら声を上げる。


「あはははは、ありえませんよ、そんなの。

 実椋さんは好みじゃないですし、何よりテチせんせーに殺されたくないですし。

 ……だってテチせんせー、ここらの女性で最強に近いでしょ?」


 ◯◯さんに殺されたくないです、という文言自体は、こういった会話の中ではよく聞くものだ。


 冗談の一つで、場を和ませるためのなんでもない話……のはずなのだけど、最後の一言で冗談が冗談ではなくなってしまう。


 テチさんの強さがどうとか……どうやらフキちゃんは本気で殺される可能性を心配しているらしい。


 そのことに気付いた大人陣がなんとも言えない顔をしているとフキちゃんは、更に笑いながら言葉を続ける。


「獣ヶ森ではふつーですよ? 群れを守るための本能っていうか、大事な心構えっていうか……身体能力も高いですし、素手でも普通にやりあえちゃうし、男の子達も決闘みたいなことしちゃうし」


 そんなフキちゃんの言葉を受けて冷や汗を流した俺は視線でもってテチさんに「本当?」と問いかける。


 するとテチさんはニッコリとした……のっぺりとしてもいる感情の読めない笑みを浮かべて、小首を傾げてとぼけてくる。


「私はコン君の方を締め上げちゃう方ですかね、相手より!」


 と、さよりちゃん。


 隣りに座っていたコン君は毛を逆立たせながら、


「え、あ、うん、しないよ? 浮気とか、絶対しないよ」


 との言葉を口にする。


 するとさよりちゃんもまたニッコリとした笑みを浮かべて……テチさんから何かを学んでしまったらしい。


「まー、そのくらいじゃないと、家庭は守れないかもしれないわねぇ。

 森谷家の家訓にしても良いんじゃないの? 浮気したらーみたいな」


 これは母さん。


 俺の記憶にある限り、父さんは浮気やそれに近いようなことをしたことはなかったはずだが……それでも長年連れ立った夫婦には色々あるのだろう、父さんは真っ青な顔をして震え上がっている。


「一昔前には浮気は男の甲斐性なんてことを言う人もいましたが、時代が代わりましたね……いや、良い時代になったものです」


 と、花応院さん……花応院さんも浮気には色々と思う所があるらしい。


 正直に言って浮気なんてことは考えたこともないし、そういった行為を嫌ってもいるし、絶対にしないと誓える訳だけども……それでもこの空気にはビビってしまう。


 獣ヶ森での浮気は命がけ……自分の命が助かったとしても相手の命がどうかは分からない……。


 うん、肝に銘じておこう、絶対にしないようにしよう。


 テチさんは優しいから命までは奪わないだろうけど、それでも相応の……まぁまぁ酷い目には遭わされそうだ。


 そう心に決めた俺はテチさんに向けて、絶対にしないよとの視線を送り……それに満足したのかテチさんは頷いて、由貴のおむつを変えるためなのか、尻尾をくねらせながらゆっくりと立ち上がるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


浮気展開とかは絶対にないッス

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