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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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撮影会


 由貴が昼寝を始め、両親と花応院さんはそんな由貴をただただ眺めるモードに入り……ただ寝ているだけでも構わないのだろう、黙って眠る由貴を眺め続ける。


 ちょっとした呼吸や寝返り、尻尾の動きさえもが愛らしいらしく、口元を抑えて声が漏れないようにしながら気持ち悪いくらいに夢中だ。


 そんな中、テチさんは音を立てないようゆっくりと立ち上がって台所に向かい……俺もそれに付き合って台所へと向かい、両親のために準備をしていた料理の仕上げにかかる。


 今日の料理はテチさんも手伝ってくれたもので……テチさんが作ろうと言い出したものだった。


 両親を歓迎したいのだろう、フキちゃんに大量の肉まで発注しようとしていて……いや、流石に肉は無理だと慌てて止めることになったりもした。


 本人達はまだまだ若いつもりでもそれなりの年齢で、魚や野菜の方が良いだろうとなり、養殖所に真鯛を注文し、御衣縫さんに野菜や山菜を持ってきてもらっての鯛鍋だ。


 軽く焼いて香ばしくした鯛を丸ごと鍋に入れて、煮込んで出汁を取り、少しの塩で味付けしたなら豆腐と水菜、エノキと葉物野菜やら山菜やらをごっそりと入れる。


 それで完成、テチさんは塩だけの味付けを物足りなさそうにしていたが、味見をさせると納得してくれて……獣ヶ森養殖所の旨味たっぷりの真鯛なら、それだけで十分な程に美味しいスープになってくれた。


 あとはアジの刺し身とご飯があれば大満足なごちそうで……それらを居間のちゃぶ台へと運んでいくと、香りに負けてか流石に両親の意識がこちらに向いて、そして母さんが慌てた様子でテチさんを手伝い始め、父さんと花応院さんも座布団を並べたり、追加のちゃぶ台を出したりと、自分に出来ることをやってくれる。


「今日のご飯はテチさんが提案して、テチさんがメインで作ってくれたんだよ」


 大体の配膳が終わった所で俺がそう言うと、両親は予想以上に喜んでくれて、由貴を起こさないように小声ながら、かなり熱のこもったお礼をテチさんに何度も投げかける。


 それを受けてテチさんは嬉しそうに……本当に嬉しそうにはにかみ、そうして食事が開始となる。


 当たり前に美味しい、天然ものとはまた違った味わいの真鯛やアジを両親は存分に楽しんでくれて……そうやって箸が進んでいると由貴が目を覚まし、そして興味を持ったのかこちらへとテテテッと駆けてきて……周囲をキョロキョロと見回した後、テチさんの方へと飛び込み、テチさんはそれを受け止めての抱っこをする。


 ぎゅっとテチさんに抱きついた由貴は、両親に興味津々といった様子で、視線を両親に送り続け……両親がそれを喜んでいると更に興味を深めたのか、テチさんから離れて畳の上をテテッと、警戒しながらゆっくり走っていく。


 そして正座していた母さんの膝の上にちょこんと乗って、首を傾げながら母さんのことを見つめて、母さんは気絶しそうなくらいに顔を赤くしながら喜び、それからどうしたら良いのかと、こちらに視線を送ってくる。


「指でそっと撫でてあげてください」


 するとテチさんがそう返し、それを受けて母さんが指で由貴のことを撫で始めると、由貴はそれを受け入れて……撫でられることを喜び、母さんの膝の上で丸くなり始め、そしてまたそこで昼寝を始める。


 それに激しく反応したのは父さんだった。


 何故母さんだけ!? という表情で、わなわなと震えて自棄になったかのように鍋をバカバカと食べ始める。


 そんな父さんを見てテチさんはフォローしようとするが、今何を言ってもやっても面倒だと考えた俺は、仕草と視線でもってテチさんを止めて食事を再開させる。


 そうやって用意した食事の大体を食べ終えた頃、いつもの足音が外から聞こえてくる。


「きーたよ!」

「きましたー!」


 コン君とさよりちゃんが声を上げながら縁側へと駆け込んでくる。


 そして洗面所へといつものように駆けていって……手洗いうがいをすませたなら居間へとやってきて、両親を見て「こんにちはー!」と、元気な声を上げながら座布団を自分で用意し、ちょこんと座る。


 するとすぐに由貴が反応を示し、いつもの二人が遊びに来たと元気いっぱい飛び上がって駆け寄って、そしてコン君が両手を広げて歓迎ムードを出す中、さよりちゃんへと飛びついてぎゅっと抱きつく。


 するとさよりちゃんはよしよしと由貴を撫でてやり……コン君もまた父さんと同じような顔をする。


 ……まぁ、うん、父親である俺も中々抱きついてもらえないからそこら辺は諦めてもらうしかない。


 そして両親は……リス獣人の子供と赤ちゃんという組み合わせにやられてしまったのか、素早くスマホを構えてすごい勢いで写真を取り始める。


 ……うん、後でさよりちゃんに許可とか取っておかないとなぁ、いや、そもそも花応院さんがチェックしてくれるかな?


 その花応院さんは食事会が始まってからはずっと静かに見守るモードになっていて、今もそうなのだけども、その表情には明らかな変化がある。


 嬉しそうと言うか……感極まっているというか、今にも泣き出しそうにも見える。


 ……まぁ、それもそうか。


 人と獣人が同じ食卓を囲んで、その間に生まれた子供までがいる。


 この光景を作り出し、広めるのが花応院さんの夢だった訳で……感無量なのだろうなぁ。


 俺達の結婚式の時も似たような顔をしていたけども、今日のはひときわ強く感情が出てきて……こちらまで嬉しくなってしまうなぁ。


 と、そちらに意識を向けていると両親達は、いつの間にかさよりちゃんとコン君に許可を取ったのか、色々なポーズを取らせての撮影を始め……コン君もさよりちゃんもノリノリでそれに応じ始める。


 由貴はそれに少し困惑した様子を見せているが、特に嫌がってもいないようで、きょとんとしながらも両親の撮影を受け入れている。


 そして……我慢できなくなったのか花応院さんまでがスマホを取り出して、撮影を始めてしまう。


 由貴を抱っこする二人、由貴をおんぶする二人、由貴を尻尾に抱きつかせる二人、二人の真似をして自分に出来る範囲でのポーズを取る由貴。


 一番見事だったのが三人並んで仁王立ちになってピースサインをするというもので……由貴がうまくそのポーズを取れたことで、完璧な絵が出来上がり、シャッター音が猛烈な唸り声を上げることになった。


 そうして皆はしばらくの間、撮影会に夢中になり……ため息を吐き出した俺はテチさんと一緒に、食器やらの片付けを始めるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
三人そろってピースはクリティカルヒットだわな。
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