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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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両親到着


 そしてついにやってきたその日。


 まず門からの連絡があり、花応院さんも同行するとの電話があり……そして大きなバンが我が家の前にやってきた。


 ナンバープレートがなくてスモークガラス、またおかしな車を用意したなぁと驚いていると、停車したバンのドアが開き、何故か男性用スーツ女性用スーツという両親が慌てた様子で駆け下りてきて、出迎えのために庭に立っていた俺を一瞥してから、用があるのはお前じゃないとばかりに周囲をキョロキョロと見回す。


「テチさんと由貴は居間で休憩しているよ」


 と、俺がそう言うと両親は流石に慌てて家に駆け込んだりはせず、一旦落ち着きを取り戻し、俺へと簡単な挨拶を向けてくる。


 やれ元気にしていたかとか、やれ畑はどうだとか、社交辞令に近い挨拶を受けていると、運転席から花応院さんが顔を出し……配達員姿ではなくスーツ姿の花応院さんとも挨拶を交わす。


 それから両親達を家の中に案内しようとすると、二人はもう凄い勢いで縁側へと早足で進み、そして居間でそんな騒ぎもなんのその、煎餅かじってまったりとしていたテチさんが声をかける。


「お久しぶりです、わざわざ遠いところまでご苦労さまでした」


 そんなテチさんの尻尾が揺れると、尻尾に抱きついていた由貴も揺れて……器用に足だけでテチさんの尻尾にしがみついていた由貴は手にしたクルミをカリカリッと齧りながら、つぶらな瞳で両親のことをじっと見つめる。


 興味津々、人見知りをしないらしい由貴は、両親のことや花応院さんのことを見つめ続けて……ベビー服姿でそうする由貴を見て両親は、か細く小さな声をもらす。


「ち、ちいさい……」

「お人形さんみたい……!」


 そう言ってしばし呆然としてから両親は、テチさんと挨拶を交わし、それから居間に入り……そしてテチさんの尻尾の近くに正座で座り、そっと由貴のことを見つめる。


 可愛くてたまらないが、しかし触れて良いのかが分からず、そっと両手を差し出しはするが、何をする訳でも言う訳でもなく、ただただ見つめる。


 それに遅れてわざわざ玄関から入ってきてくれた花応院さんは、俺が用意した座布団の上にそっと座り……少し離れた場所から両親とはまた違った目でもって由貴のことを見つめる。


 人間と獣人の融和、その象徴。


 それを目の前に出来たことが嬉しいのだろう、頬がゆるみ切って、ヒゲで隠れているけども口角が上がっているのがはっきりと分かる。


 両親と花応院さんと、庭にはバンの点検をしている花応院さんの秘書? のような人もいるけども由貴は気にした様子もなく、興味深げに見回し、耳をピコピコと動かし……そして相変わらずクルミをカリカリと齧り続けている。


 そうやってしばらくの間、齧り続けた由貴は、触りたそうに手を近付けてくるも触ろうとしない両親に興味をいだいたのだろう、テチさんの尻尾から移動をし始め、テチさんの手にクルミを預けてから、テチさんの肩に移動し、それから両親のことをまたもじっと見つめる。


「あ、は、はじめまして由貴ちゃん、おじいちゃんだよ」


「おばあちゃんよ、もう言葉は話せる? おばあちゃんって言える?」


 両親がそう話しかけると由貴は何を思ったか、そっと両手を伸ばし始め……父さんがそれに応えて手を近づけると、更に手を伸ばし……そして父さんの指を掴む。


 それを合図に両親のダムは決壊、由貴をそっと抱きかかえて撫でて撫でて、声をかけての愛でまくりモードに突入する。


 顔がとろけて表情が緩んで、きっと俺が赤ん坊の頃もこんな顔はしなかったんだろうなという顔をして……それは両親にとって手加減したものだったのだろうが、それでも由貴には鬱陶しかったのだろう、すぐに由貴は両親の手から脱出し、テチさんの尻尾へと戻り、尻尾をぎゅっと掴む。


「か……可愛い、なんて可愛いんだ」

「ちょっと実椋、由貴ちゃんはまだ言葉は話せないの? っていうか生まれたばかりでこんなに動き回るものなの?」


 そうして両親がそんなことを言い、それを受けて俺は花応院さんにお茶とお茶菓子を出してから言葉を返す。


「んー……言葉を話せるかどうかは個人差によるみたいで、人としての血が強ければすぐに話せるようになるし、獣としての血が強ければ時間がかかるのが獣人の特徴らしいんだ。

 で、由貴は獣の血が強いみたいで、その分成長も早くて、他の子よりかなり早く動き回れているんだけど……なんで人間とのハーフで獣の血が強くなっているかは、獣ヶ森の皆にもよく分からないみたいだね。

 まぁ、もっと早く動き回ってもっと早く成長する子もいるにはいるらしいから、個人差ってことで産科医の先生も特に気にしていないらしい。

 テチさん達のなんとなくの感覚だと言葉を話せるようになるまで数ヶ月はかかるかもだってさ。

 いやまぁ、それにしても人間からすると十分早いんだけども」


「なるほど……獣人さんというのは面白いものだなぁ。

 そしてコン君達のような年齢になると働き始める訳か……。

 由貴が畑で働くようになったらその様子も見に来たいもんだなぁ」


 と、父さん。


「獣人さんも色々あるのねぇ……リスの獣人さんだけでそんなに違いがあったら、色々な獣人さんがいるここで産科医をするというのは大変そうねぇ」


 と、母さん。


「あ、産科医はそれぞれの獣人ごとに別の産科医があるから、自分の担当獣人の知識だけあれば良いみたいだよ」


 と、俺が返すと父さんも母さんも、そして花応院さんも目を丸くして驚く。


 花応院さんも知らなかったのか……と、こちらも驚くが、まぁまだまだ交流もしきれていないみたいだから、しょうがないのかもなぁ。

 

 未だに向こうの創作物ではおかしな獣人が描かれているしなぁ……融和にはそういった知識の部分もなんとかしていく必要があるんだろうなぁ。

 

 と、そんなことを考えていると、何を思ったか由貴が、テチさんの尻尾を離れて家の中を駆け回り始める。


 棚を登り、長押を駆け、障子戸を階段のようにして上り下りし……アクセル全開、元気いっぱい、駆けに駆けて……両親はすかさずスマホを取り出し、そんな様子を動画で撮影し始める。


 そうやって駆け回った由貴は、最近お気に入りにしている棚の上に置かれたクッションへと到着したなら、そこで丸くなって眠り始める。


 昼寝の前の運動会だったかな? まぁいつものことか……と、そんなことを思って俺とテチさんが落ち着き払う中、両親と花応院さんは立ち上がって眠った由貴の様子を見やり……そうしてその可愛さに負けてか、いつに無いとろけた表情を披露してくるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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