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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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駆け始め


 両親が獣ヶ森にやってくるまであと2日、という所でついに由貴が覚醒した。


 リビングに設置したベビーベッドをよじ登るようになり、梁というか壁のてっぺんというか、そんな所に立つようになり……そしてジャンプし、近くにあった棚に飛び移った。


 たまたまそのシーンを見ていた俺は、落ちてしまうんじゃないかと驚き慌てて手を差し伸べていたが、そんな必要は全くなく、華麗に棚に飛び移ってみせた由貴は、そのまま棚をスイスイと登り始める。


 自由に動けるのが楽しいのだろう、自分の世界が広がるのが嬉しいのだろう、由貴は躊躇することなくどんどん登り進んでいって……どうやら由貴の成長はかなり早いようだ。


 テチさんの話では子供がこうやって遊び回るようになるのはまだまだ先にことだったはずだが、由貴は全く問題なく遊び回れていて……うん、元気いっぱいなのは良いことだけども、そろそろテチさんから教わった対処法を試してみるとしよう。


 まずは落ち着く、焦っては駄目。


 焦って声を荒げると子供は驚いて逃げてしまう。


「由貴、こっちにおいで、撫でてあげるよ」


 落ち着いて優しく、柔らかに声をかけて……名前を呼ぶことで興味をしっかりと引く。


 毎日由貴、由貴と語りかけたおかげか、由貴はそれが自分の名前であると認識しているようで、すぐにこちらに振り向き、興味を示してくる。


「ほーらほらおいで、由貴が大好きな撫で撫でしてあげるよー」


 更に優しく声をかけて、両手を広げて懸命に動かして、ここにおいでと示してやると……興味が勝ったのか、少しは俺に懐いてくれているのか、こちらに向かってピョンッと飛び込んでくれる。


 それを内心で激しく慌てながらも優しくキャッチして……そうしたならそっと抱きかかえてあげてから、頭やお腹、背中などなど由貴のことをそっと撫でてあげる。


 丁寧に優しく、とにかく由貴が喜ぶように撫でてやって、俺の呼びかけに応えてくれたらこんなに良い思いが出来るのだとしっかり教え込む。


 危ない場所に行きかけたり、何かを壊しそうになったりしたら、慌てて怒鳴るのではなく優しく声をかけて撫でてあげて……素直に従った方が良いのだと分かってもらえば、後々楽になる……らしい。


 そうやって撫でていると由貴はうとうととし始め……眠ったのを確認したらそっとベッドに戻し、タオルケットをかけてあげる。


 と、そこでようやく俺は縁側に来客がいることに気付く。


「レイさん、こんにちは、由貴の様子を見に来たんですか?」


「おう、良いお父さんしてるじゃないか。

 いや、由貴の様子だけじゃなく実椋の様子も見に来たつもりだったんだが、思っていた以上に上手くやってて感心したよ。

 いきなり獣人の子供を育てるなんて難しいと思ってたんだが、これなら心配はいらなそうだな」


 俺の挨拶にそう返してきたレイさんはニカッと笑ってみせて……そんなレイさんをリビングへと迎え入れた俺は、お茶を淹れてからいつもの座布団の上に座り、それから先程のレイさんの言葉への返事を口にする。


「上手くやれているかどうかは、正直まだ分からないですね。

 子育ても始まったばかりなのに何もかも早送りって感じで……獣人の成長の早さに圧倒されてばかりですよ。

 ああ、でも夜泣きをあまりしないのは助かりますね、たまにおむつ交換で起こされるくらいで、熟睡させてもらっています」


「あ~……まぁ、獣人の子はどんどん体が大きくなるから、その負担で体力の消耗が激しいんだろうな。

 だから熟睡しがちというか、睡眠時間が長くなりがちだしなぁ……人間の子どもの夜泣きってのはアレだろ? 悪夢とかを見て泣いてるのもあるんだろ?

 だけど獣人の子は悪夢を見る暇もなくぐっすりって訳だ」


「夜泣きはまぁ、色々説があるみたいですけど、その通りならありがたい話ですね。

 ……ただ獣人の子育てはこれからが本番だとも聞きますし、油断はしないでおくつもりです」


「おお、それが良いそれが良い。

 親が本気で子育てに取り組んでいれば、子供もなんとなくその気持を受け取ってくれるもんさ。

 ……なんて独り身のオレが言っても仕方ないけどな。

 ああ、そういや実椋の両親がこっち来るのってそろそろなんだろ? 

 来たらその日の夜とかにうちの両親を呼んでの食事会をやるつもりだから、準備しておいてくれよ。

 たまーにしか会う機会がないからなぁ、その機会を逃したくないって両親がうるさいんだよ」


「ああ、そういうことなら全然問題ないですよ。

 うちの両親のそのつもりのようですし……なんか色々お土産も持ってくるつもりみたいです。

 テチさんとも色々メッセージやり取りしているみたいで、こっちでは手に入りにくいものを質問して選んだ……らしいです。

 今の時代、通販で大体のものは買えちゃうと思うんですけどね……まぁ、うん、それらの検疫もあって、来るのが少し遅れているみたいなんですよ」


 と、俺がそう言うとレイさんは「へぇ~」なんてことを言いながらお茶を飲み、それから頭の上のリス耳をピクリと揺らす。


 それからベビーベッドへと視線を向けて、ニヤニヤとした表情をし始めたのを受けて、俺もその視線を追いかける。


 すると寝たはずの由貴が起きてベッドから這い出ていて……さっきと全く同じ方法で棚に飛び移り、棚を駆け登っていく。


「ゆ、由貴おいでー、こっちおいで、撫でてあげるよー」


 と、先ほどと同じ対応をする……が、すでに十分に撫でられ満足しているらしい由貴は、あっさりと俺のことを無視して棚を駆け上り、長押へと到達し本物のリスのような姿で長押を一気に駆け抜けていく。


「おおー、おおー、元気じゃないか! いいぞ! それでこそオレの姪っ子だ! もっとやれ! あっちこっち元気に駆け回れ!」


 それを見てレイさんは、そんな歓声を上げながら手をパンパンと叩き、囃し立てる。


 すると由貴はそれに気を良くしたのか、由貴はニコッとした笑みを浮かべながら駆け続け……リビングの長押を、天井近くの横に渡された板をチャッチャッと駆け回る。


「実椋、そろそろだぞ」


 そしてレイさんの一声。


 一体何がそろそろなんだろう? と、首を傾げた俺はすぐに答えに思い至り、慌てて立ち上がって由貴のことを追いかけ始める。


 その数十秒後、由貴の動きがだんだん鈍くなり、体力が尽きたのかふらふらとし始め……そしてそのまま長押で寝始めてしまうが、狭い長押の上で寝たものだからすぐに落ちそうになり、それを俺は慌てて受け止める。


 落ちないよう起こさないよう、慎重に受け止めたならそっとベッドまで運ぶ。

 

 そうしたらもう一度そっとタオルケットをかけてやって……それから良い夢を見ているらしい、満足げに頬をぷくぷくと膨らませた由貴の寝顔を、存分に堪能するのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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