表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

417/496

子育て? 生活


 初めての子育ては苦戦するもの、と警戒していたのだけど、思っていた程の苦労はなかった。


 まずテチさんがとても元気で、あっという間に回復して子育てに集中出来たというのと、テチさんの実家……というかリス獣人の一族が総出で応援と手助けをしてくれたことで、もはや苦労する余地がなかった。


 一族が来られない時も、なんだかんだとコン君やさよりちゃんが手伝ってくれるのでなんとかなり……出産から数日後、我が家はいつも通りの日常を取り戻していた。


「にーちゃん、今日のお昼ごはんなにー?」


 いつも通りコン君が、いつも通りの質問を投げかけてくる。


 いつも通りではない点があるとするとそれは、コン君が由貴を背負っていることだろうか。


 背負っているというか、コン君の背中に張り付いているというか……ベビー服姿の由貴が両手両足でもってがっしりとコン君のことを掴んでいる。


 これはコン君がお気に入り……という訳ではなく、由貴は誰にでもそうするクセがあった。


 俺が世話をしているときは胸辺りに張り付くし、テチさんなら胸だったりお腹だったり尻尾だったりもするし、さよりちゃんの背中に張り付いている時もある。


 成長が早い関係か、ある程度自分の意思で動けるようになってきて、最初にし始めたのがその抱きつきで……木登りのための手足の形が、しっかりとした張り付きを成功させていた。


 そういう訳でコン君もさよりちゃんも、すっかりと由貴に張り付かれ慣れていて、既に気にした様子もなく当たり前のものとして受け入れていた。


 ……が、俺はまだその光景に慣れてなかった。


 コン君達だって普通に可愛いのに、そこに我が子である赤ちゃん獣人が張り付いて、可愛さの相乗効果というかなんというか……とにかく可愛すぎる光景がそこに出来上がっていた。


 という訳で、コン君の質問に答える前にスマホを取り出し、カメラモードにする。


 すると慣れたものでコン君はニカッと笑い手を上げピースサインを作り出してきて……その様子を撮影し、しっかりと保存する。


「今日は焼きソバにしようかなって、肉と野菜がバランスよく取れる上に、簡単に作れる料理だからね」


 それからそう答えるとコン君は、目を輝かせながら元気いっぱいの声を上げる。


「やった! にーちゃんの焼きソバ大好き!

 かーちゃんのも好きだけど、にーちゃんのだとなんか違うんだよなー……なんでだろ?」


「あー……下味つけているからかな? それをやるとやらないじゃ別物だから」


「お肉のやつ? お肉はかーちゃんもしているよ?」


「いや、肉じゃなくて……って、これまで何度か作ったけど、コン君が見ているときにやったことなかったっけ?

 たまたま見逃していたのかな……? ならまぁ、今からやるからよく見ておくと良いよ」


 と、俺がそう言うとコン君は嬉しそうに頷いて……それから居間のテチさんの側へと駆けていき、背中……というか由貴をテチさんの方に差し出す。


 するとテチさんは何も言わずにそっと手を伸ばして由貴を引き剥がそうとし……由貴が軽い抵抗を見せると、由貴の脇腹辺りをそっと撫で回し、由貴が気持ちよさそうに目を細めたところでさっと引き剥がして自分の尻尾に抱きつかせる。


「みぃー!」


 すると由貴は抗議のつもりなのかそんな声を上げるが、テチさんがゆらりと尻尾を振ると、それが面白かったのだろう、きゃっきゃっと声を上げて楽しそうに笑い、笑っているうちに尻尾でも良いと思えたのかテチさんの尻尾にぎゅぅっと抱きつく。


 台所は色々と危険だ、油ハネも起こるし、生肉などを取り扱う過程でなんらかの食中毒菌と接触してしまう可能性もある。


 という訳で我が家では大きくなるまで……由貴がコン君達くらいの年齢になるまでは台所への立ち入りは禁止ということにした。


 コン君はそのルールを守るために由貴をテチさんに預けた訳で……いつもならコン君と一緒にやってくるさよりちゃんは、由貴のことを構いたいのかテチさんの側に残り、俺はコン君と一緒に台所に向かう。


 エプロンをつけて手洗いをし、その間にコン君はいつもの椅子に座り、それから材料を揃えて下拵えを始めて……その過程でまず肉から下味をつけていく。


 まずは塩、コショウ、それから少しの醤油とサラダ油。


 それらをふりかけたならよく揉んで……手を洗ったなら次に麺の下味をつけていく。


 市販の焼きソバ麺はそのまま使っても良いのだけど、下味をつけた方が圧倒的に美味しくなる。


 まずは油、次に顆粒出汁、そして醤油やソース、それらを混ぜ合わせたなら袋から取り出した麺にかけて、麺をよくほぐし全体に馴染ませる。


 市販の麺は十中八九ダマになっているもので、こうやってほぐしておくと炒める時に楽が出来る。


 更に油を足しておけば食感が抜群によくなるし、下味が馴染めば市販の麺とは思えない程に美味しくなるし、肉以上に下味つけが重要になってくる具材だったりする。


「こうやって下味をつけたら8割方完成というか、それくらい重要になる作業だね。

 あとはまず肉から炒めて……野菜を入れたら一気に強火にして、あとは強火でガンガンガンガン熱して水分を飛ばしていく。

 味付けにソースを入れたらソースの水分もガンガン飛ばして……お店とか屋台の焼きソバが美味しいのはこの辺りが理由だね。

 家庭のコンロ以上の火力が出せて、中華鍋や鉄板でガンガン水分飛ばせて、それでいて焦げ付きにくいから自然と完成度が高くなる。

 下味と火力で味の10割が決まって、材料とかは正直安物でも全然美味しくなるのが焼きソバの良い所でもあり、悪い所でもあるかな。

 あとはもうガンガン炒めて、ソースでしっかり味をつけて……盛り付けたが終わったらお好みのものをふりかけて完成、かな」


「お好みのもの? にーちゃんはカツオ節かけるんだっけ?」


「うん、俺はそうしているし……人によっては刻みネギとか、魚粉とかをかけたりもするかな。

 あとはマヨネーズをがっつりかける人もいるけど……我が家ではそれはなしかな」


 と、そんな会話をしながら焼きソバを仕上げていくと、コン君が期待に満ちた……いつになく輝く目でこちらを見てくる。


 恐らくは魚粉という単語に興味を惹かれたのだろう、コン君は調味料棚の方を指さしていて……俺は仕方ないなと笑いながら魚粉入りのビンへと手を伸ばし、ついでに刻みネギも振りかけるかと、長ネギを用意する。


 盛り付けを終えたならそれらをふりかけて焼きソバは完成となり……コン君に手伝ってもらいながらそれらを居間へと持っていくと、テチさんとさよりちゃんは初めての魚粉焼きソバに目を輝かせてくれて、久しぶりの食欲爆発を見せてくるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
焼そばはお店とか家庭どころか人単位で作り方が違いますよねぇ。 自分はそばをちょっとカリっとするくらい焼いてから肉類を投入、お肉の汁やらを吸ってそばが柔らかくなったら野菜投入、野菜がしなっとしたら味付…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ