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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十一章

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赤ちゃん


 数日が経って……テチさんのお腹が遠目でも分かるくらいに大きくなってきた。


 ……が、そろそろ出産が近いことを考えるとそこまで大きくはない。


 服を着ていると少し目立つ程度でしかなく、もっと大きくなるはずと心配していたのだけど、その辺りの話をしてみると、居間でゆったりと過ごしていたテチさんからは、


「いや、リス獣人はこんなものだ、リス獣人の赤ん坊や子供は小さいからな」


 との答えが返ってきた。


 確かに言われてみるとコン君達の体はとても小さい。


 同じ年齢の人間の子供と比べると小さすぎるくらいで……その赤ん坊もまた当然、小さい体をしているのだろう。


 体が小さいだけでなく、木登りをするためか体重もとても軽く、テチさんが言うにはその分だけ骨の強度が落ちているとかで……赤ちゃんが生まれたらその辺りにも気を使う必要があるそうだ。


 それは逆に言うと産まれる前の母親の負担が軽くて済むということでもあり……そこまで大きくならず、軽くて負担にならないというのはすごく良いことのように思える。


「もう少し負担があってもいいとは思うけどな……中には妊娠していることを忘れたり気付かないまま、体を動かし続けてしまう妊婦もいるくらいだし……」


 と、更にテチさん。


「それは……また何というか困った話だねぇ。

 まぁ、以前と変わらないように動けるというのは、悪いことではないんだろうけども……」


 俺がそう返すとテチさんは、笑いながら言葉を返してくる。


「一応それなりには変わっているのだけどな、まぁ向こうの妊婦と比べればそうなのだろうな。

 まぁー……今回は純粋な獣人の子ではなかったからどうなるかという不安もあったが、医者が言うには他の子と全く変わらないそうだ。

 実椋にも写真を見せただろう? 立派な尻尾があって手足が木登りのための形で、リス獣人の子に育ってくれているな」


「ああ、うん……無事健康に育ってくれているのは何よりだね。

 ……赤ちゃん、赤ちゃんか……元気に駆け回ってくれる子だと良いなぁ」


「なぁに、私の子だ、その辺りの心配はないだろう。

 コンとさよりが一緒に遊んでくれるのだろうし、実椋のご飯をお腹いっぱい食べるんだろうし、元気は保証されたようなものだ」


「そうなると良いねぇ……元気いっぱいでご飯もいっぱい食べて……。

 後はまぁ程々に可愛くいてくれたら、それで良いかなぁ」


「程々でいいのか?」


「いやまぁ……あんまり可愛いとうちの両親がなぁ、おかしくなってしまいそうで……」


 と、俺がそう言うとテチさんは口を大きく開けて「あっはっは」と笑う。


 その理由は最近の俺のスマホにあり……ここ最近毎日のように両親からのメッセージが届いている。


 孫に会いたい、出産に立ち会いたい、早く一緒に遊びたい、会話したい……などなど。


 両親は本気で出産に立ち会いたかったらしく、こちらに入る手続きまでしていたのだが、感染症の絡みで却下となってしまっていた。


 向こうで変な病気が流行っているとか、そういうことではなく……花応院さんとそのお仲間さんが過保護過ぎるくらい過保護にテチさんを守ろうとしているからだ。


 とにかく安全に出産させたい、危険な可能性は僅かであっても摘み取りたい。


 その気持ちは荷物の配送にまで影響していて、ここ最近はまさかのドローンなどでの配送が行われている。


 ドローンだったりラジコン的な自動運転車だったり……自分達であっても妊娠中のテチさんに近付けたくないようだ。


 人間と獣人の子供。


 それは融和派の花応院さん達にとって特別な意味を持っている。


 出産をきっかけに何かもが変わる訳ではないが、確実に一つの流れとなるはずで、それはいつか……何年後かに良い影響となって返ってくるはずだと、そう考えているらしい。


 というか既に俺達の結婚と妊娠の時点でも良い流れが出来上がっていたんだそうで……融和派の議員が増えるなどなど、そういったことが起きているそうで、その流れを断ち切るようなことはなるべく避けたいらしい。


 だから両親であっても許可は出せない。


 花応院さんも孫を持つ身、本当であればそんな真似はしたくないようだし、申し訳なさそうにもしていたのだけど、それでもやらなければならないと考え、そして実際に行動にも移しているようだ。


 そこら辺は流石に政治家なんだなぁと思う。


 そのお詫びなのかは分からないけども、それ以外の点ではなるべく両親の希望に沿いたいとも考えているようで……赤ちゃんが産まれて大きく育って、離乳したなら両親にはフリーパスに近い許可を出すつもりらしい。


 検査とか予防接種とか、やるべきことさえやったらいつでもこちらに来て良い、孫に会って孫と遊んで良い……みたいな。


 それから夏に向こうの海で遊べることにもそれが影響しているようで……申し訳なさからの特別な計らい、ということになるようだ。


 しかしそれもまた流れを作るためでもある。


 獣人達が向こうに行ってたっぷり遊んで、無事に帰ってきたならそれもまた大きな流れとなる。


 これから先の相互交流の先駆けと言える大イベントになる。


 そういった政治的な思惑もしっかり絡めてきての判断のようで……まぁ、うん、そのくらいの思惑があった方がこちらとしても安心出来るというものだろう。


「……しかしあれだね、子供が小さいということは安産になりやすいのかな?」


 あれこれと考えて、いつまでも一人で考え込んで仕方ないと一旦思考を打ち切って、それからテチさんに声をかけると、テチさんはハーブティーを一口飲んでから返事をしてくる。


「赤ん坊が一人だけならそうだな、獣人は双子三つ子、それ以上になることが多くてな……当然数が増えればその分重くなるし、負担も増えるし、出産も難しくなる。

 変に一人だけの出産に慣れていると危険なこともあるらしいが……まぁ、今回は初産の上に一人だから心配することはないだろう。

 ……一人だと早産になることも多いみたいだが、獣人は早産だからと問題になることはないから安心すると良い。

 むしろ元気いっぱいで成長が早いからこその早産、我慢しきれず出てくるという感じになるそうだからな」


「……うん、その辺りの話は何度か聞いたから心配はしていないさ。

 我が家の扶桑の木も守ってくれているんだろうし、きっと良い結果になるはずさ」


 と、そう言って俺は玄関の方へと視線を向ける。


 玄関に勝手に根付いて大きく育った扶桑の木。


 今も成長を続けていて……きっとその不思議な力でもってテチさんと子供を守ってくれるに違いない。


 だから大丈夫、何も心配することはない、今はそれよりも……と、手元の紙へと視線を向ける。


 それは赤ちゃんの命名のための用紙で……未だに空白、どんな名前にしたら良いのか候補すら定まっていない。


 定まっていないのに予定日は着々と迫ってきていて……それから俺はしばらくの間、どんな名前が良いものかと頭を悩ませ続けるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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