備えのあれこれ
「しっかしアレだね、保存食色々にカセットコンロに、防寒具とかラジオとか、寝袋とかとか。
色々揃えるとすっごい金額になるよね? これで災害がなかったら無駄になるってのはきついかも」
食後の休憩時間、スマホをポチポチと弄っていたフキちゃんがそんな声を上げ、俺は笑いながら言葉を返す。
「いやいやいや、災害がないっていうのは幸せなことなんだから、それで良いじゃないか。
買った品だって無駄になる訳じゃなくて、こうやって食べたり、何かの料理に使ったり……道具だって他のことに使えるんだから、無駄にしたくないならそういう活用法を探れば良いんだよ。
それにほら、安心っていうのは大事だからね……車買ったら色々な保険に入るのと同じ、むしろ災害時の備えは生存とか健康に直結する話だから、より重要なものと言える訳で……毎月毎年払う保険料を思えば、このくらいの備え大した金額じゃないとも言えるよ」
「あー……なるほど、そういう感じかー。
うちも動物とか設備とか色んな保険入ってるって言ってたしなぁ……そう考えると大したお金じゃないのかも。
それに……うん、無駄になったらなったで笑い話だし、悪くないねー。
……よし、帰ったら牧場に何があるか確認して、ないのを揃えていこ。
んー……あ、実椋さん、この保存食詰め合わせってよくないです? 通販のやつ」
「あ~……公式で詰め合わせているのなら良いけど、よく分からないショップが詰め合わせているのは注意した方が良いよ。
賞味期限ギリギリのを在庫処分気味に詰め合わせにしているのもあるからねぇ……大手通販サイトでも保存食なのに賞味期限ギリギリのを送ってきたりすることもあるし、信頼出来る所以外からは買わない方が良いかもね。
まー、大手だとそういうのは返品に応じてくれることもあるんだけど、それはそれで面倒だからねぇ」
「なーるほどー……ならできるだけスーパーで買って、ないのは店員さんに頼もっか。
あそこはそういうの対応してくれるしー……道具とかは通販でも良いかな。
……うん、うん、後はそうだ、常温保存出来るジュースとか言ってたけど、それってどんな感じなの?」
と、そう言われて俺は説明しようとするが、実物を見せた方が早いなと立ち上がり、台所から人数分のジュースを持ってくる。
それは紙パック式のジュースで……中身は至って普通のジュースで、それらを皆に渡してから口を開く。
「まぁ、普通のジュースだよ。
ペットボトルのと変わらない感じで、特別どうという訳でもないね。
まー、ペットボトルだって常温保存可能なんだから、紙パックも出来ておかしくないよねって、それだけかな。
……ちなみにだけど、保存用ペットボトルの水はしっかり殺菌してあるもので、水道水はそこまでしっかり殺菌はしてないから、ペットボトルに水道水を詰めても保存は出来ないからね。
……前に同僚がそれをやろうとしていたんだけど、多分2日もしないうちに飲めなくなるんじゃないかな」
水そのものも殺菌しているだろうし、ペットボトル内部も殺菌した上で密閉しているだろうし、しっかりと品質管理のされた工場で作られたものと、ただ水道水を詰めたものとでは比較にもならないだろう。
仮に保存瓶を用意して、煮沸消毒した水をしっかり詰めたとしても、数日が限度のはずで……うん、そんなことをするくらいなら市販のものを買った方が良いはずだ。
彼は結局、俺が止めても聞かずおかしな水入りペットボトルを量産していたけどもあれも結局どうなったのか……。
まぁ、口に含む以前に色とか滞留物で違和感があるだろうし、流石に捨てている……はずだ。
「これで保存食とか防災グッズはOKで~……あーとーはー、なんだろ?
電気とかガスない状態での料理の練習とか?
まぁ、それもキャンプグッズ使ったら簡単なのかな?」
なんてことを考えているとフキちゃんがそう言ってきて……俺はあることを思いついて、在庫がどのくらいあったかな、なんてことを考える。
「……なんだ? 実椋、何を考えている?」
そんな俺の表情を見てか、テレビを眺めていたテチさんがそんな声を上げてきて、俺は顎を撫でながら言葉を返す。
「いや、災害時の料理ってそこまでは難しくないんだよね。
保存食を温めるだけとか……野菜と肉を鍋に入れてカレールーを入れるだけ、コンソメスープの素を入れるだけでも十分美味しくなるから。
ただご飯を炊くとなるとひと手間必要で、今のうちから練習してみるのも悪くないのかなって。
俺も子供の頃、飯盒炊爨とか言って、学校行事でやっていたのを思い出してさ……コン君とか、畑で働いている子供達にそういうことを教えても良いのかなって。
後はこれから夏になるから、川とかに落ちた時用に着衣水泳の練習をしておくとかも考えたけど、獣人の身体能力ならそういうのも必要はないのかな?」
「……おお、それは悪くないかもな。
覚えておいて損のない知識ではあるし、着衣水泳なども無駄にはならないだろう。
……それなら、着衣水泳をしてからご飯を炊いて、皆でキャンプご飯を食べて……という形になるかな。
定番はやっぱりカレーか?」
「うん、そうだね。
野菜を切って煮込んでルーを入れたらとりあえず形になるからね。
美味しくしようと思うとひと手間必要だけど、まぁ子供達にそこまでさせるのは酷かな。
……コン君ならカレーくらいは簡単に作れちゃうだろうし、しっかり教えれば他の子供達も出来るはずだね。
飯盒とかメスティンとか、ご飯を炊けるアイテムはそこそこ持っていて、以前キャンプ用品をレンタルしたお店でも見かけたから、数は揃うはずだよ。
あとは鍋だけど……まぁ、鍋もなんとかなるか」
俺がそう言うと褒められたことを嬉しく思ったのか、それともキャンプ飯にワクワクしたのか、目を輝かせるコン君。
さよりちゃんもまた嬉しそうにし……基本的に関係のないフキちゃんまでが目を輝かせる。
今回の企画はあくまで子供達向けのものなのだけども……と、テチさんの方を見やるとテチさんはこくりと頷いて、
「フキも来ると良い、私達の手伝いという形で、子供達がやけどしたりしないよう、しっかり見てやってくれ」
と、声をかける。
「やった! 楽しみ!」
するとフキちゃんはそんな声を上げて、満面の笑みを浮かべ、そうして何故だかコン君達と自撮りを始めて……そうしてワイワイと盛り上がっていくのだった。
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