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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十一章

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フキちゃんの決意


 何個も何個も肉を焼き上げ……流石に数が多かったのかテチさん達の食欲も落ち着いていって、ガツガツ食べるという感じではなく、椅子に腰掛けお茶を飲みながらゆっくり楽しむと言ったムードになり……これで最後にするかとブリスケットを焼き上げた所で、フキちゃんが立ち上がり、まな板の前までやってくる。


 そして肉用フォークでもって切ったばかりのブリスケットを上から軽く押し……断面からじゅわっと流れ出る肉汁をじっと見つめる。


 普通これだけしっかり熱を通したならこんな風には肉汁が出ることはないものだけど、この調理法はとにかく水分を外に漏らさず、中に閉じ込める形になっている。


 火力を上げずにじっくり、しっかりと火を通すのも効いているのか、本当にジューシーで……そんな肉を見ながらフキちゃんが口を開く。


「本場バーベキューの定番っていうのがこれを見るとよく分かる。

 ステーキとか色々、お肉の美味しい食べ方はあるけど、これも一つの完成形って感じだぁ。

 ……うぅん、うちが本気で作ったら売れたりしないかな? これ。

 本当に美味しいし……スパイスの調整で好きな味に出来たり、チップで好きな香りつけられたり……獣人好みになると思うんだよねぇ」


「うーん……時間がなぁ、かかるのが欠点だから、そこら辺をどうクリアするかになるかなぁ。

 たとえば完全予約制にするとか、あるいは楽な調理法を作り出すとか……。

 あとはバーベキュー屋さんというか、そう言う感じのお肉を食べられるお店もあったはずだから、そこらを参考にしてみるとかになるかなぁ。

 ……なんだっけ、焼き上がった肉をカートに乗せて店内巡って、それを見て食べたいと思ったお客さんは手を上げて、その場で切り分けてもらうんだったかな」


「あ~……なるほど?

 注文受けてとか、そういうんじゃなくて、とにかく作り続けて出来上がり次第お客さんにご提供みたいな?

 うーん……そういうのは人口が多い、外ならではのやりかたって感じがするなぁ」


「いやまぁ、こっちの人口は確かに少ないけど、その分個々の食欲が物凄いから需要はあるんじゃないかな?

 食べ放題コースとか用意して……値段はしっかり決める必要はあるだろうけど、そこが上手くいけばチャンスはあるかもねぇ。

 ……ただ牧場でそこまでのことをする必要あるのかな?」


 と、俺が返すとフキちゃんは、元気いっぱいな笑みを浮かべて、これまた元気いっぱいな声を返してくる。


「もちろん!

 美味しいお肉を振る舞えば、うちのお肉のファンになってくれるはず!

 そしたらもっともっとお肉が売れるようになるからね! 頑張る価値はあるよ!

 美味しいステーキ、美味しいハンバーグ、美味しい燻製、そして美味しいバーベキュー。

 お肉と言えばこれっていう料理は出来るだけマスターしておきたいね!」


 すると大量のお肉でぷっくりお腹を膨らませたコン君とさよりちゃんが、


「フキねーちゃん、がんばれ!」


「お店でこれ食べられるようになったら嬉しいです!」


 と、声援を送り、そしてテチさんが、


「フキなら出来る、ずっと良い子だったしな」


 との声を送る。


 すると元気付けられたらしいフキちゃんはぐっと拳を握り……それからこちらを見やってくる。


「あの、これの細かいレシピ、あとで良いんで教えてください。

 それとおじーちゃんに食べさせてあげたいんですけど、いくらか持って帰っても良いですか?」


 そしてそんなことを言ってきて、頷いた俺は持ち帰り用の肉の準備を始める。


 まずはミートシートで丁寧に包み、勝手に開かないようにテープでしっかり固定してからアルミホイルを用意して、ミートシートごと包んでいく。


 アルミホイルで包んだなら更に以前フキちゃんの牧場でもらった、お肉運搬用の保冷バッグ……今回は保温バッグになるそれに入れて、チャックをしっかり閉じて少しでも肉から熱が抜けないようにする。


「美味しく食べられるのはこうやっても1時間もないだろうから、早めに持って帰ると良いよ。

 それとレシピとかはあとでテチさんに送ってもらって……レシピの参考にしたサイトや動画とかも送ってもらうから、それを見て自分で色々考えると良いよ。

 それと長森さんにとても美味しいお肉でした、また遊びにいかせていただきますって伝えておいてね」


 との言葉と一緒に保温バッグを渡すとフキちゃんは「ありがとうございます!!」と元気な声を上げ、保温バッグを抱え……そしてそのままダッシュで帰ろうとする。


 ……が、フキちゃんもまたお腹いっぱい食べちゃった人、いきなり走れるような状態にはなく、何かがこみ上げてきたのか「うっ」と声を上げて足を止める。


 それを見て俺は、バーベキュー台の状態を一通り確認し、問題ないことを確認してから、テチさん達に声をかける。


「フキちゃんを車で送ってくるから、その間バーベキュー台の炭の様子を見ておいて。

 それと残ったお肉は好きに食べて良いし、パンが欲しいなら冷蔵庫、ご飯が欲しいなら炊飯器の中にあるから自由に食べていいよ。

 ……もちろん野菜も一緒に食べるようにね」


 するとテチさん達はその目をギラリと輝かせてから、親指をぐっと立ててサムズアップでもって任せておけと伝えてきて……なんとも言えない不安を抱いた俺は、さっさと送ってこようと車の鍵を取りに行く。


 そうして長森牧場までフキちゃんを送ったなら、寄り道はせずに家へと帰り……そして特におかしいことのない庭の様子にホッとする。


 食事は終わっているようで片付けが始まっていて……しっかり炭は炭用のドラム缶に入っているし、洗い物も選り分けてあるし、油で汚れた食器もちゃんと洗剤を溶かした水につけてあるし……うん、そこまでの時間があった訳でもないのによくやってくれているなぁ。


 ……コン君達のお腹が妙に膨らんでいるのは無視するとしよう。

 

 テチさんも出産間近って感じになっているけど気にしない。


 妊婦さんがそんな食べて良いの? と思わないでもないけど……もう気にしても仕方ない。


 体調には気を使って何かあればすぐに病院に連れていけば良いだろう。


 そんなことを考えて片付けをし始めた俺は、台所で空っぽの炊飯器と冷蔵庫の中のパンが全滅していることに気付いたのだけども……特にあれこれは言わず、今はとにかく片付けだと大量の食器とバーベキュー台を時間をかけて片付けていくのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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