豊作の原因
コン君達が御衣縫さんの動画を見る間、残りの野菜の下処理を進めて、全部が全部保存食ではつまらないので、今日の夕飯用に使うことにし……それらの処理を進めていると、御衣縫さんが椅子の背もたれに背中を預け、ギシギシと音を上げながら口を開く。
「しっかしまぁ、何が原因やらな。
いや、獣ヶ森の作物の成長速度が門の向こうとは別物ってのは知ってたんだが、それにしてもこれは中々ないことでなぁ。
……やっぱ扶桑の木の影響なんだろうが、ここに来て急にってのは少しおかしくも思える。
……テチちゃんの出産関連の影響かとも思ったが、んでもここの家の扶桑の木は相変わらずだしなぁ」
その言葉の通り、我が家の玄関に勝手に生えたというか巣食った扶桑の木に特別異常はない。
いつも通りに鎮座していつも通りに枝葉を揺らして……最近は種を作ることもなく静かにしている。
一時期はすごかった時もあったけど、今ではそれも落ち着いた……という感じで、仮にまた暴走するとするなら、それはテチさんの出産が終わった後になるのだろう。
……ただ人と獣人の結婚とか出産とかは、大昔には当たり前にあったことらしく、そう考えると特別珍しいことでもないはずで、そこまでの大騒ぎにはならないだろう。
出産の度に大騒ぎになっていたら、その辺りが逸話なり神話として残っていそうで……程々の騒ぎで終わる……はず。
「……俺達以外のどこかで起きた何かが原因と考えても良いんじゃないですか?
なんでもかんでも俺達が原因って訳でもないんでしょうし」
「んん~……そうは言うがなぁ、他の連中の暮らしなんて平年通りの平和なもんだぞ。
最近なんか景気の良い話ばっかりでトラブルもなくて……特筆することがなさすぎってなもんだよ」
俺の言葉にそう返した御衣縫さんの言葉にはちょっとした穴があるのだけど、御衣縫さんはそれに気付いていないようで、作業を進めながら言葉を返す。
「いや、何事もなく平和な上に景気が良いって最高じゃないですか。
人によってはそれこそが最高の幸せって人も多いんじゃないですか?」
「んん? ……そういやそうだな、言われてみればその通りだ。
なんだってそんなことに気付かなかったのかねぇ……ここんとこ良いことばっかりの、平和続きで、ちょいとボケちまってたかねぇ」
「いやぁ、俺達が来たばかりの頃とか、テチさんと交際し始めた時とか、それなりに騒動ありましたよ?」
アレな商売人がやってきたり、交際を認めない連中が暴れようとしてみたり。
だけどもそれらは大した騒ぎになる前に鎮火出来たというか、上手く事を収めることに成功していて……被害らしい被害もなかったものだから、どうしても忘れがちになってしまう出来事でもあった。
「あーあーあーあー、んなこともあったって聞いたな。
……いや、それもあっての平和なのか、アレ以来、おかしな連中は皆大人しくしてるからなぁ。
年かさ連中に見張られて身動きできないとかなんとか」
ポンと手を打ってからそんなことを言った御衣縫さんは、なるほどなるほどと何度も頷く。
おかしな連中が大人しくなったから何も起こらず、何も起こらない平和な時間が皆の幸福を育てて、その影響が扶桑の木を通じて畑などに出て。
恐らくはそんな所だろうなぁ、なんてことを考えていると、家の外から女性の声が響いてくる。
「つるけしさーん」
……つるけし、確か御衣縫さんの下の名前だったか。
そうなると声の主は御衣縫さんの奥さんであるけぇこさんのはずで……御衣縫さんを迎えに来たのかな? なんてことを考えながら作業を中断して、居間に向かって縁側から顔を出すと、両手で大きなカゴを抱え、これまた大きなカゴを背負ったけぇこさんが姿を見せる。
着物の上に割烹着といった姿のけぇこさんのカゴには大きな……驚く程大きなシイタケが山のように入っていて、俺と同じように顔を出した御衣縫さんが驚きいっぱいの顔で声を上げる。
「ぬお!? シイタケもそんなになったのか!?
春子とは言え、大きいわ多いわ……こりゃぁシイタケ畑も手入れしなきゃならねぇなぁ」
「じーちゃん、春子って? 春子さん?」
すると俺達の真似をしてか顔を出したコン君が声を上げ、御衣縫さんは軽く笑ってから声を返す。
「栽培シイタケの旬は年2回、春と秋でな、春にとれるシイタケを春子、秋にとれるのを秋子ってんだ。
春子はたくさんとれる上に肉厚で旨味もあってなぁ……焼いて食べるには最高なんだが、それにしたってこりゃぁ大きすぎる上に多すぎるわなぁ。
……畑にはまだまだあるんだろ?」
と、御衣縫さんが問いかけると、けぇこさんはその通りだと頷いて見せて……御衣縫さんは頭をかきながらけぇこさんの下に向かい、カゴを受け取ってこちらにやってきて……そしてそれを差し出しながら言葉を続ける。
「おう、実椋、これもらってくれや。
とりあえず新聞紙でも広げてよ、そこに投げときゃぁ良いから……適当に広げてくれや。
このカゴ空にしたら畑いってどんな様子か見に行かなきゃならんから、手早く頼むぞ。
……なぁに、量が多すぎるっても焼けばご馳走、旨味たっぷり栄養満点の最高の一品だ、お前ん家の連中があっという間に食べ尽くしてくれるだろうよ」
そう言われて俺は、買えばうん万円しそうな質、量のシイタケを貰えるならと即頷いて、新聞紙を縁側に広げていく。
すると御衣縫さんとけぇこさんは、そこにシイタケを広げていって……広げ終わったなら二人仲良く畑があるらしい方向へと歩き去っていく。
そんな2人にお礼を言いながら見送り……それが終わったなら早速、夕飯分のシイタケを回収して台所に向かう。
「にーちゃん、シイタケで何すんの? シイタケ料理ってなんかあったっけ?」
「シイタケって言うと……お鍋ですか?」
するとコン君とさよりちゃんがそんなこと言ってきて、俺はシイタケの下処理をしながら言葉を返す。
「さっき御衣縫さんが言っていた通り、普通に焼いて醤油垂らして終わりの、シイタケステーキにするよ。
これだけ肉厚なら食べごたえも旨味も抜群で、それだけで美味しいはずさ。
茎は輪切りにして味噌汁の具にしたら良い出汁にもなるだろうし……うん、今日は野菜もたっぷりあるからご馳走になるね。
それこそお鍋にしても良いんだけど……せっかくだし、今日はステーキにしておこうかなって」
と、俺がそう言うとコン君達は、ステーキという単語だけでよだれが出てきてしまったのだろう、ごくりと喉を鳴らしてから、いつもの椅子に飛び込むのだった。
お読み頂きありがとうございました。




