表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

397/496

春の保存食


 テチさんが作ったブラシが完成して……更にテチさんの実家から色々な道具、獣人の子供用の哺乳瓶とかおしゃぶり、抱っこ紐、おまるにミニお風呂など様々なものが届いて、俺の実家から届いたものも合わせて、子育てに必要な道具は大体揃った。


 あとはオムツと粉ミルクくらいだけど……そこらは注文済み、生まれてから届く手はずになっていて……ほとんど準備完了と言って良いだろう。


 テチさんの体調なども順調で、定期的に行っている検診では毎回問題なし。


 医者からすると順調すぎて不思議というか、普通ならもう少し体調が崩れたりなんだりとあるものらしいが……特にそういったこともなく、お腹の子も元気いっぱい……元気過ぎるくらいに元気に暴れているらしい。


 テチさんがお母さんだからそうなのか、人とのハーフだからそうなのかは、なんとも言えないらしいけど……まぁ、その両方が理由というのもあるのかもしれないなぁ。


 そしてやる気を入れ直して進めた作業の方も順調で、冬の間にテチさん達が貯めに貯め込んだ肉の処理がほとんど終わり……ジャーキーとなった肉の出荷も概ね終わった。


 自分達で消費する分はしっかりパックした上で冷蔵庫や冷凍庫に入れて、それ以外を出荷して……出荷する際にはフキちゃんの力も借りることにした。


 我が家の名前で出荷するのではなく、長森牧場の名前で出荷してもらい……最終的な衛生検査や真空パックなども長森牧場の設備でやってもらう。


 その分だけ手数料というか、売上の一部を支払う形になるけども、プロのお墨付き……安全性を担保してもらえるというのは、これ以上になくありがたいことで、こういう形ならばこちらも安心出来る。


 そうして衛生検査などは問題なく合格となり、売上の方も……悪くはない程度に出ていて、これならば家計の足しになってくれそうだ。


 まぁー……肉の調達はもう出来ないし、全部売り切ったらそれで終わり、継続的な収入ではないのだけど……そこは仕方ないことなのだろう。


 また今年、冬が来たら皆で狩って肉を仕入れれば良い訳で……安全に売れると分かった以上、大量に貯め込んで売っても良いかもしれないなぁ。


 まぁ、冬になる頃には、色々と状況が変わっているだろうから、またその時改めて計画をし直しても良いのかもしれない。


 子供が生まれてコン君達も成長して……色々なことが変わって、一体どんな状況になっているのやら……楽しみでもあり、不安でもあり。


 と、そんな事を考えながら赤ちゃんグッズまみれとなった部屋の中を眺めていると……家の外からか、聞き慣れた声が響いてくる。


「―――くら~、みくら~~、助けてくれ~」


 その声はタヌキの神主、御衣縫さんのもので……助けてくれとは何事だと驚いた俺は、慌てて縁側に向かい、サンダルを履いて家の外に飛び出す。


 すると背負籠に山盛りの荷物を入れて、両手で大きな風呂敷包みを抱えてヨタヨタ歩く御衣縫さんの姿が視界に入り……どうやら荷物が多すぎることに悲鳴を上げているようだと理解した俺は、安堵半分呆れ半分で近付いて荷物を受け取り、御衣縫さんを縁側に誘導する。


「どっこいせっと……はぁ~、助かった助かった。

 荷物が多すぎて転びそうになってな~」


 なんてことを言う御衣縫さんに適当に返事をしたなら、一旦台所に向かいお茶を淹れてから縁側に戻ると、御衣縫さんは風呂敷包みや背負籠の荷物を広げていて……どうやらそれらは、御衣縫さんの畑や山で採れた作物らしかった。


 山菜各種にタケノコ、ソラマメ、ニンジンもかなりの量があって……一体なんだってまたこんなに山菜や野菜を? と、首を傾げていると、御衣縫さんが事情を説明し始める。


「いや、どういう訳か、最近になって急に山や畑が元気になってなぁ、どれもこれも豊作、一つも枯れず全部大きくなって、んなこと今までなかったもんだから、困っちゃってんのよ。

 うちだけじゃ消費しきれねぇし、周囲の家々の家庭菜園全部豊作でやる相手もいねぇしで……ここしかなかったって訳だ。

 んでお前んとこと言えば保存食だろ? うちでも色々作ってはいるんだが、手が足りなくてなぁ……これ、やるからなんか作ってくれよ、美味いもん出来るだろ?」


「はぁ……豊作過ぎるとは嬉しい悲鳴ですねぇ。

 んー……ニンジンはまぁ、ちゃんと保存したらそのままで保つんでどうとでもなるとして……タケノコは酢漬けですかね、それか唐辛子を入れて南蛮漬け。

 山菜各種は佃煮にして……ソラマメは油漬けにでもしますか? 主な使い道はパスタとかピザの具になりますけど」


「ほぉ~~~……タケノコの水煮は見かけるが酢漬けと来たか。

 ソラマメも面白そうだなぁ……和食には使えねぇもんか?」


「いやまぁ、使えはしますけど、中々合わせるのが難しいかなって。

 逆にパスタとかならただ入れるだけで良いですからねぇ……オリーブオイルを使うつもりですし、どうしても洋風になっちゃいますよ」


 との俺の説明を聞いて御衣縫さんは、そういうことならそれで良いと頷いて……そしてどんな調理をするか気になるから見学したいと、台所までテテテと歩いていく。


 そして台所のテーブルの椅子に座って……そこからの視線を受けながら作業を進める。


 と、言ってもこれといって難しいことをする訳でもない。


 タケノコはまずアク抜き、これをしなければ始まらないので、皮を向いて切り分けて、御衣縫さんが持ってきてくれたアク抜き剤と一緒に煮込み……しっかり煮込んだらそのまま明日まで放置コースへ。


 ソラマメは茹でる、大きな鍋で一気に茹でる。


 その間に、山菜各種を洗って下ごしらえして切り分けて……佃煮にしたなら保存パックに入れて冷蔵庫に。


 そして茹で上がったソラマメは、薄皮を丁寧に剥いていって……剥き終わったら煮沸した保存瓶に、ソラマメ、塩、ニンニク、唐辛子を入れて、それらが完全に浸かるまでオリーブオイルを入れて……これで完了、あとは冷蔵庫にでも入れておけばOKで、こんな簡単な調理でも中々美味しい具材へと進化してくれる。


「あとは明日改めてタケノコを保存瓶に入れて、水、塩、唐辛子、酢を入れてからしっかり蓋をして、瓶ごと茹でて空気を抜いたら完成です。

 普通に酢漬けにしたい場合は唐辛子なしで……ちなみに茹でる段階から唐辛子を入れておくと、更に保存性が増すらしいですよ。

 今回は南蛮漬けにするのでそこまではしませんでしたけど……普通の酢漬けや水煮にする場合は、唐辛子を入れて茹でても良いかもですね」


 と、説明をすると御衣縫さんは、いつのまにか取り出していたらしいスマホをこちらに向けながらうんうんと頷いていて……どうやら調理過程を録画していたようだ。


 まぁ、メモを取るよりかは楽なんだろうけども……。


 なんてことを考えていると、いつもの足音がしてコン君達が駆け込んできて……洗面所で手洗いうがいを終えたコン君達は台所に入ってくるなり、


「御衣縫のじーちゃん!? っていうか料理もう終わってる!?」


「もうやっちゃったんですか!?」


 と、御衣縫さんと俺を見てそんな声を上げる。


 すると御衣縫さんはにんまりと笑い、録画していたことをコン君達に告げてから、そのデータをコン君達のスマホに送り始めるのだった。


お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ