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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十一章

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荷物


 それからの日々は特に何事もなく過ぎていった。


 畑仕事をし、家事をし、肉の加工をし……テチさんの世話をし。


 そうして訪れた月曜日、花応院さんからのメッセージがスマホに届いた。


 曰く、かなりの大きさの結構な量の荷物をこれから持ってくるらしい。


 差出人は俺の両親で……荷物の内容は『家具』。


 そこら辺で俺は大体の事情を察し、花応院さんに今日は一日家にいるからいつ持ってきてもらっても構わないと返事のメッセージを送り……それから家事をこなしていった。


 ついでに縁側の掃除や片付けも行い、そこから荷物を搬入出来るようにし、荷物を置くための空間を居間に作り……そうこうしていると、いつもとは違う、大きめのトラックと思われるエンジン音が、門の方からやってくる。


 そうして現れたのは、引っ越し用のトラックで……家の近くまでやってきたなら停車し、助手席から花応院さんが降りてきて、こちらにやってくる。


 それからはいつも通りの挨拶と、受け取りのサインをし……それから荷物搬入のために連れてきたらしい運転手さんと俺とで荷物の搬入を行う。


 大きな箱やら何やら……組み立て式の家具が中心らしい結構な量な荷物を運び込み終えると、花応院さんが助手席からいくつかの荷物を取り出し、こちらに差し出してくる。


「大したものではありませんが、お子様へと用意させていただきました」


「ありがとうございます、あとでテチさんと一緒に開封させていただきます」


 そう言って荷物を受け取り、別れの挨拶をし……運転手さんにも挨拶をし、荷物を手に家に戻る。


 それから荷物の整理と開封作業を始めていると、散歩に出ていたテチさんとテチさんに付き添っていたコン君達が帰ってきて……荷物の山を目にするなり目を丸くしたコン君達が駆け寄ってくる。


「にーちゃん、またなんか買ったの?」


「いやいや、両親や花応院さんからの贈り物だよ。

 多分だけど赤ちゃんのための家具で……ベビーベッドとかを気を利かせて送りつけてきたんじゃないかな」


「お~~~、全部赤ちゃんの荷物かぁ」


 なんて会話をコン君としているとテチさんも興味を持ったのか、こちらにやってきて……俺が少しだけ、うちの実家が勝手に買って申し訳ないと、そんな気分になっていると、テチさんは、


「これは助かるな、選ぶのも買うのも面倒だったからな」


 と、なんとも気楽な発言をしてくれる。


 自分で選びたいとかこだわりたいとかは一切ないようで、箱を一つ一つ触って……箱に書かれた商品説明を読みふける。


「ちなみに花応院さんからも贈り物があって……赤ちゃん用らしいけど、全部が桐箱なんだよねぇ。

 桐箱に入っている赤ちゃん用の贈り物って一体どんな贈り物なのやら……」


 俺がそんなことを言いながら居間のちゃぶ台の上に置いた桐箱を指差すと、テチさんはそちらにも興味を持ったようで、近寄って手に取り……1つめを開封する。


「……これは、犬の置物か?」


 と、そう言ってテチさんが持ち上げたのは……でんでん太鼓を背負った犬張り子だった。


 それを見て俺は、確かその縁起物について曾祖父ちゃんが話をしていたことがあったっけなと、古い記憶を引っ張り出して言葉にする。


「確かそれは……犬張り子だったかな、犬は安産なことが多い上に子供がすくすく育つから、赤ちゃん関係の縁起物として贈るらしいよ。

 背中のでんでん太鼓は丸いから子供が丸い、優しい性格に育つっていうのと、でんでん太鼓の音に魔除けの効果があるんだったか……。

 最近ではあまりみない古い縁起物だけど、今でも贈る人は贈るものなんだねぇ」


「なるほど……良い縁起物なんだな」


 と、そう言ってテチさんは次の箱を開けて……中からガラガラを取り出す。


 木製で、彫刻で模様が刻まれていて、恐らく金箔や螺鈿と思われる装飾があって……こちらも多分縁起物なのだろう。


 そして最後の桐箱からは赤ベコが出てきて……うん、これも縁起物だ。


 花応院さんらしいというか、何というか……それだけテチさんの妊娠を嬉しく思っているということなんだろうなぁ。


 そして実家からはベビーベッド、ゆりかご、赤ちゃん用の防柵、乳母車、赤ちゃん用のミニお風呂、おまるなどなどなどなど、たくさんの赤ちゃんグッズが送られてきていた。


 大きなものから、細かいもので言えば赤ちゃんが戸棚の戸を勝手に開けないようにするチャイルドロックのような細かいものまで。


「……人間用のを貰っても、使えない場合もあるんじゃないかなぁ……体の大きさとか」


「……まぁ、無駄にはならないさ」


 そんな俺の言葉にテチさんは、肯定するでもなく否定するでもなく、そんなことを言って、他の荷物も開封を進めていく、


 それをコン君とさよりちゃんも手伝って……俺は段ボールを畳んだり細かいゴミを捨てたり、組み立てたりの作業を中心にやっていく。


 いや、今から組み立てる必要はないのだけど、バラバラのまま放置してパーツをなくしても困るし……多少邪魔になるのは覚悟の上で、今から組み立ててしまう。


 そうやって作業を進めていって……ベビーカーに取り掛かった折、それが普通のベビーカーではないことに気付く。


 普通にフレームとかが頑丈なだけでなく、しっかりとした日除けもあって……空冷と思われるファンまでがある。


 バッテリー搭載、配線が複数あり、ハサミ式の扇風機もあって……真夏の熱さをなんとか緩和しようという工夫が見て取れる。


 更には蒸す背中を冷やすための水冷ポンプと管があり……本当に無駄に多機能になっているなぁ。


 安くはないだろうことはその出来の良さからも察せられて……後でお礼の電話をする必要がありそうだ。


 まぁー……獣ヶ森の夏はそこまで暑くならないんだけどね。


 山の上で、木々に囲まれ、爽やかな風も吹いていて……有名な避暑地には負けるかもしれないけども、それにも劣らない爽やかな夏が特徴的だ。


 ……ああでも、夏になって海の行く時には役に立つのかな?


 海の近くはそれなりに暑いところが多いから……うん、その時には活躍してもらうとしよう。


 なんてことを考えながら作業を進め……結局、荷物の整理やら何やらで一日が潰れることになるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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