釣り終えて
バケツが釣った魚でいっぱいになった頃、どんどん新しいお客さんがやってきて、あっという間に釣り堀がいっぱいになる。
まぁ、これだけ釣れるのだから人気になるのも当然で……それを見て俺達は目配せで頷き合ってから、バケツを手に受付へと移動する。
すると受付のスタッフさんがバケツを一旦引き取り……奥のガラス張りとなっている調理場へと持っていって、そこで下処理をしてくれる。
鱗をとってアジはゼイゴもとって、エラを取り内臓を取り……頭はアラ汁用なのかそのまま残してくれて。
凄まじい手際でどんどん魚を処理していって……プロの手際の良さをまざまざと見せつけられる。
エラ取りが特に驚く程早く、エラに包丁の先端を差し込み、細かく包丁を動かし何かを切り、包丁でエラを押さえつけて魚の頭を持って、引っ張ったらずるりと出てくるという俺とは全く違う手順での作業で、1尾に2秒か3秒か、そのくらいの早さでもって処理をしていく。
エラと内臓を取ったら、恐らくプールと同じ水でもって綺麗に洗い……洗い終わったなら保存パックに詰めてから、こちらに持ってきてくれる。
餌やら何やらとそういった処理代含めての1500円……うぅん、安い、安すぎる。
というか多分、かなりの赤字経営だ……急遽始めたサービスだから、まだそこら辺のさじ加減が分かっていないのかもしれない。
「ありがとうございます、助かります」
と、そう言いながら皆でそれぞれ釣った魚を受け取って……それから改めてお礼を言って車へと移動し、車に積んでおいたクーラーボックスにパックを入れて、車に乗り込み……エンジンをかけると同時に、コン君とさよりちゃんのエンジンもかかる。
「すっげー! 釣りすっげー! 楽しかった! 面白かった! 魚がかかるとビビビってさー!」
「うん、とっても面白かったです、魚ってあんな感じに食事をするんですねー」
釣っている最中も「おー!」とか「やったー!」とか色々声を上げて楽しんでいたが、感想みたいなことは他のお客さんを気にしてか口にしておらず……それが今一気に放出されていく。
「海いったらさ! 海ならさ! もっとたくさん、いろんな魚いるんだよね!
すっげー大きいのとか! 美味しいのとか!」
「いるはずですよー、テレビとかで凄い群れで泳いでるの見ますもんね!」
「あー……一応言っておくと、海は釣り堀と違って広くて、魚はその広い海をあっちこっち好き勝手に移動しているから、釣れる時は釣れるけど、釣れない時は何をしても釣れないからね?
釣り堀みたいに水の中が見える訳でもないから、釣り堀よりも何倍も大変だと思うよ」
念の為俺が釘を刺すがコン君達は……、
「うん! 分かってるよ、にーちゃん!
そんでアレでしょ、海だと凄い釣り竿使ったりするんでしょ! 色々道具がついてるやつ! 今から買っておかないとかな!」
「テレビでよく見るやつですね! 電動のとかもあるんですよね、どんなの買うか迷っちゃいますね」
なんてことを言って止まらない。
「まぁ、しょうがねぇわな。
子供に楽しいを我慢しろっていっても無理な話で、しばーらくは楽しい気分が続いちまうんだろうさ。
……海に行くのはまだまだ先のことなんだろ? ならその頃には落ち着いてるさ。
落ち着かないようなら……また釣り堀に連れていってやるとか、川での釣りを教えてやっても良いだろう。
川釣りに関しちゃぁ、獣ヶ森の住人皆が得意で知識があるんで教わることも出来るし……釣具店もあるからな、そう苦労もしねぇだろう」
「……なるほど、そうします」
という御衣縫さんと俺の会話もコン君達の耳には届いていないようで、コン君とさよりちゃんは上がったテンションのまま会話をし続ける。
テチさんはそんな二人の会話を楽しそうに見守り、御衣縫さんは目をつむって会話を聞きながら鼻歌を歌い始め……俺は来た時と同じような安全運転で、自宅へと車を進める。
途中スーパーに寄ってちょっとした買い出しをしてから自宅に向かい……御衣縫さんに別れを告げてから家に入り、料理の準備を始める。
するとテンション高いまま、物凄い勢いでコン君達がいつもの椅子に飛び込んできて……テチさんが居間でだらっと休憩する中、調理を始める。
「今日は何するのー?」
「刺し身となめろう、それとフライかな。
ちなみに刺し身となめろうはそんなに多くは作らないよ、刺し身は新鮮なのも美味しいけど、一晩寝かせたのも美味しくてね……刺し身の本番は明日になるかな」
コン君の質問に俺がそう答えると、コン君はふんふん言いながら頷き、まな板の上の魚をじぃっと見つめる。
魚の刺し身は……新鮮な方が美味しい魚もいるのだけど、寝かせた方が美味しいともされている。
その方が旨味が増すからで……冷蔵庫でピチッとするシートを使えば尚のこと美味しくなるだろう。
他にも臭みを抜くための塩振り刺し身なんてのもって……美味しい食べ方は色々と存在している。
だけども新鮮な刺し身が不味い訳じゃない、新鮮だからこその臭みのなさ、歯ごたえ、独特の甘みなどなどがあり、それはそれでたまらない。
という訳で刺し身は今日明日の両方楽しむ、そして……。
「フライもまた美味しいから気合入れて作るよ。
新鮮な魚をフライにすると、衣の中に旨味がぎゅっと詰まって……たまらない美味しさになるんだよね。
噛んだ瞬間旨味があふれるっていうか、これこそフライの本当の美味しさっていうか……。
揚げたてフライ自体美味しいものなんだけど、それが新鮮な魚となると……それはもう美味しいんだ、感動するくらいに」
ということでフライも作る。
今回は養殖魚なので関係ないけども、夏の魚……脂が少なく痩せた魚を料理する際には、脂分を足して美味しくするという意味もある料理で、魚を美味しく食べる料理法としてはかなりの上位に入ると思っている。
寿司や刺し身も美味しいけど、揚げたてフライだって負けないくらい美味しい。
作り置きとか冷えてしまったものではなく、揚げたて……あつあつ旨味汁たっぷりでサクサクの魚フライ。
「……オレ、アジフライ好きだけど、そこまで美味しいイメージなくて……でもにーちゃんがそこまで言うなんて……。
どんなフライが出来上がるのかすげーたのしみ!!」
「ほんと、実椋さんがそう言うって相当ですよね」
と、コン君とさよりちゃんがそう言ってきて……それから俺は二人の期待の視線を浴びながら釣りたて養殖魚を調理していくのだった。
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